第33話

 俺たち三人は、前衛の中央部隊を避けるように右側の部隊に潜り込む。

 ランドベルク軍の兵士を庇うわけでな無いが迫る魔族をただ、動けない様にするだけ。

 コベソの半信半疑な言葉だったが、勇者であるユカリは、魔族を殺す事でレベルが上がったと教えてくれて、魔族へ突き刺すのがやたらとスムーズになっていた。

 ズンズンと地鳴らし歩み迫る魔族は、大きな戦斧を肩に担ぎ、出っ張るお腹を弾ませ、ブラックワイルドボアより一回り小さいがそれでも若干見上げる程巨体、そして顔を紅潮し血管が額に浮き上がっている。肩で風を切る様に胸を張りながら迫る巨体魔族を直視するペルセポネと俺はその動きをただ、見ていた。


――――この部隊の隊長なのか?肩に飾りがあるな。


 周りに落ちている魔族の服装と巨体魔族の服装を見比べていたら、魔族が俺たちに怒りの声を顕にする。


「お、おめぇらか? うちの兵を殺ったのは?」

「なんなの?」

「この地面見ればわかるだろ?」


 俺とペルセポネの後ろには数多くの魔族が惨い状態で敷き詰められて、それをユカリがトドメを刺している所を巨体魔族は、目を見開き額が更に紅潮する。


「グヌヌッヌヌゥ。 お、おめぇらァァア!!」


 腰を少し下げ踏ん張る巨体魔族が、発する怒りの雄叫びがこの辺りの空気を震わせる。

 それを感じる俺とペルセポネは、咄嗟に武器を構えるが、巨体魔族は、まだ戦斧を担いでいる。


「そうか、そうかァ! わかったゾぉ」

「……」

「お前ラ。 勇者の仲間だなァ!! だァれぇがぁ勇者だぁ?」


 ジロジロと顔を動かし俺たちの姿に目をやる巨体魔族は、口を緩まると直ぐに不気味に笑う。


「二本の剣の怖い顔した美女かぁ〜? それとも――――」


 怖い顔って言ってきた時はすっごく巨体魔族を睨むペルセポネだけど、美女って言われた途端口を緩ませ笑顔になりやがった。


「――――それに、隣のぉ黒髪と言うか全身真っ黒衣装が栄えるの美男子?」


――――おぉ、俺の事か?美男子だってよ!!嬉しい事言ってくれる。だが、これから俺達はお前を殺す事けど。


「もしかして……。 あっちのサラサラした髪の美少女かだったりしてぇ〜。 なんて全部殺せば済むんだよォ!!」


 一歩迫る巨体魔族の口からヨダレが漏れ、俺とペルセポネを交互に見ていると、もう二歩ほど迫ってくると、巨体魔族の右から大きな戦斧を振り回す。


「グッりゃァァアァア!!」


 戦斧が風を切る音を撒き散らし俺の脇を攻める。

 咄嗟に避ける事が出来なかった俺は、ハルバードを縦に戦斧を弾き返すが、衝撃に俺はハルバードと共に弾き飛ばされ地面に転がる。


「グヌヌッ。 まさかオレの斧を弾くとは!!」


 巨体魔族は、その弾かれた反動で反転しぐるりと戦斧を振り回し今度はペルセポネへ攻撃をする。

 二本の剣を交え戦斧の行き先を遮るが、振り回す遠心力の勢いでペルセポネですら防げず、ぶっ飛ばされてしまう。


「大丈夫か?」

「ええ、まさか……普通の攻撃だったなんて……」

「はっ?」


 ペルセポネは、すうっと立ち上がり髪を後ろにかき分け剣を持ち直すが、『普通の攻撃』?


「ここまで、ぶち殺してきた魔族。 全く魔法なんて使ってないし。 普通こんな巨体なら即効で使って来るもんだと」

「それで、飛ばされた?」

「おめぇらァ、何言ってるんだァ!! 攻撃に魔法なんぞ俺ら使わんぞ!!」

「へっ?」


 ペルセポネが、疑問に思って目を丸くする。

 俺もだが、普通魔族と言ったら魔法なんてバンバン使うもんじゃないのか?俺たちの世界に魔族なんて居ないけど、確かにここまで魔族倒して魔法使ってくるヤツ居なかった。


「我ラ、暗黒騎士にて魔王のバスダト様の配下ダ!攻撃には力のみ――――」


――――魔王は暗黒騎士?


 不穏な言葉が出てくるが、それを直ぐに飛ばさせてくれるほど迫ってくる巨体魔族。

 戦斧の柄を握りしめ力いっぱい戦斧を俺たちの前に突き出す巨体魔族は、そのまま言葉を続ける。


「――――支援魔法や回復魔法は使うがな。 だが、それもお前達にハ必要なさそうダ。 俺の攻撃に吹っ飛ばされるぐらいだからなァァァ」


 たからからに笑う巨体魔族は、そのまま戦斧を上に持ち上げ体全体を使って戦斧を急降下させそのまま地面に振り下ろす。

 弾け飛ばされる土塊や石が、俺たちに降り掛かり俺は、ハルバードで盾にするも防げず身体に当たる。


「ペルセポネ! 大丈夫か?」

「ええ。 冥王さまこそ……大丈夫?」

「俺は、大丈夫だ」

「ちっ、魔法使えないとか無いでしょぉぉ!!」


 二本の剣を握りしめ鬼の形相で巨体魔族を睨むペルセポネは、ゆっくり一歩一歩巨体魔族に歩み寄る。


「なんだ? 魔法使って欲しかったのかぁ? そりゃ残念だな。 オレサマも魔法なんぞ全く使えんガな。だが、それでも貴様らは殺せるぞぉぉ!!」


 巨体魔族は、右頭上に戦斧をおおきく振りかぶりそれを勢い増してペルセポネに向けて振り下ろす。

 ペルセポネは、数歩後退し避けようとするが、巨体魔族の振り下ろした戦斧が一瞬刃を光らせると、ペルセポネは目を晦ましてしまう。

 そして戦斧は、勢いよく地面に食い込み土を盛り上がり再び、土塊が弾け飛ぶ。

 それを避ける事もできず持っている剣の腕で土塊を防いでいたが、大きな土塊がペルセポネの脇腹に辺りよろけ剣で体を支える。


「うっ」

「ペルセポネっ!!魔族がぁっ」


 俺は、地面を蹴って巨体魔族にハルバードの先を向ける。

 振り下ろした戦斧は、既に巨体魔族の左頭上まで持ち上げられた反動で、そのまま戦斧を地面に叩きつける様に俺に攻撃をしてくる。

 地面にめり込む戦斧、飛び出る土塊や石、俺の身体に至る所にぶつかってくるが、それを無視し俺のハルバードの槍先は巨体魔族の左上腕に突き刺さる。

 そして、少しひねりそのまま左下、巨体魔族の右脚に向け斬り下ろす。

 無意識に神力を流していたハルバードの刃はよく通り巨体魔族の亀裂から赤い血が溢れ出る。


「ヌヌヌッヌヌゥゥウゥ!! オッノォッレェーー」


 巨魔族は自らの頭上に戦斧を振り上げ、頭を再び紅潮し鼻を鳴らす。

 戦斧を回避しようと俺は、巨体魔族から離れる寸前、巨体魔族は目を飛び出るぐらいひん剥いて、上にあげた戦斧を俺に向け振り下ろす。


「……ナっ!! なァアぁぁアァッ」

「魔法使えない……。 ただの力馬鹿……。 真っ先にぶっ壊せば良かったのよ。 期待させて面倒だわ」


 距離を取った俺から見えたのは二本の剣のうち右手でもつ剣をペルセポネの右頭上へ振りきっていた。そして、巨体魔族の右腕が戦斧ごど、巨体魔族の後ろへ飛んで行き、そのまま地面に突き刺さると、ハルバードで斬った所から斜めにズレ落ちて終いに地面に転がる巨体魔族の胴体。


「バスダト様の右手でアル、このオレサマがぁ!!」


 地面に向かって叫ぶ巨体魔族の表示は見て取れないが、俺が刺して未だ繋がっている左腕をバタバタと動かす巨体魔族は、腱を斬られた腕では体を支えながら起き上がる事が出来ずもがいている。


「ユカリ〜、こっち早く!!」

「えっ? はい、もうすぐ」


 着実に近づいてくるユカリは、手際よく次々に転がる魔族の首を刺したり跳ねたりし、殺しまくっている。


――――人族の殺しは怒りを持って抗議してきたが、魔族の殺しにはすんなりと受け入れられるのはどういう事か?勇者として人族側として?


 せっせと剣を振るうユカリを見て不思議に思う俺だが、ユカリが笑顔で巨体魔族の倒れた所にやってくる。


「ふぅー。 コレがここの最後ですか?」

「そうよ。 こいつこんな風貌だから、もしかしたら魔石持ってるかと思ったら、魔法すら使わないんだってさ」

「如何にも力重視の魔族見えるけど……」

「今までのがコイツに比べて小さいから、逆なのかと思ってたんだけどねぇ〜」

「コイツで右側最後って」

「グギヤァアァ……」


 笑顔で剣を振り下ろすユカリの足元に巨体魔族の血が流れてくる。

 それをも気にせず、刃に付いた血を振り払っていたらユカリが「危なぁぁ!!」大声で叫びだしながら、衝撃を受け吹っ飛ばされ、地面に転がっていく。


「勇者……」


 現れたのは、全身黒い炎のように燃えがっている様に見えるオーラに包まれた、禍々しい黒い甲冑。そして鉄仮面の目部分から赤く発光する二つ、そして低い声が俺たちに伝わる。


「我は暗黒騎士バスダト……魔王だ」

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