第12話

 城塞都市ローフェンの賑やかな街の中、人通りが多く、肩と肩がぶつかるなどは無いが、とにかく人が多い。

 そんな中、フォルクスが、俺に向かって「勇者だって事」なんて少し大きく言ってしまうもんだから近くを通っていた人が、ヒソヒソと話をしていた。


「ちょっと待ってくれ。 なんで俺が?」

「なんでって! そうなんだろ?」

「いや、知らないし、勇者では無い」

「ハーデス。 貴方のスキルが勇者の証拠だ!」

「はっ?」


 俺は思い出した、あの女の神エウラロノースが、勝手に渡してきたスキルだ。

 あの時から、スキルの事が、すっかり抜け落ちていた。

 フォルクスは、熱心に俺と目を合わせようと、目を動かしてくるが、俺にはそんな気もなければ、その気も無い。

 だけど、フォルクスは、情熱的になりだした。


「【神意を授かる者】ってのがハーデス貴方にはある!!」

「……」

「これは、勇者のスキル!! まさか、ハーデス……。 ハーデスさんが、勇者だったなんて」


 何か思い込みが激しいフォルクスは、勘違いし始めた。そこにマラダイの言葉が。


「リーダー。 勇者はあの時見ただろ?」

「あぁ、王都で見たけどな。 でも、実はハーデスさんが勇者で、あの女は役者かも知れんだろ?」

「それ、あの王が、そんな事するか?」


 ダナーも加わりフォルクスを冷静にさせようとしている。


「確かに、あの女が勇者だとして、ハーデス、さんは、なんだ? あのスキルが物を言っているぞ」


 俺とフォルクスの間に、ズイっと割って入ってくるペルセポネは、しかめっ面していた。


「ちょっと盛り上がっている所わるいんだけど、私達、あの丸デブの所に行くのよ」

「丸……。 デブ……」


 クスクスと笑うライカとマイク。それを見て他の男三人は、落ち着きを取り戻していて、ペルセポネは、俺がスキルを貰った経緯をフォルクス達にに伝えている。


「あの女、あぁ神ね。 アイツからハーデスは、スキル貰ったらしいから、それだね」

「そうだな。 知らん女がやって来て、ごちゃごちゃ言って……」

「それで、こういう時ハーデスの事なんなんだ?」

「勇者じゃないな」

「今のままで良いんじゃないんでしょうか!?」


 マイクが悩んでいる所にライカが、冷静な眼差しで口を開いていた。


「そうだ、俺達もヒロックアクツ商事に用があるんだ。一緒に行くぜ」


 だったらこの場で止めなくても良いのにと思うが、俺も行先を言ってなかったと思い出して、軽く頷く。

 ヒロックアクツ商事の倉庫と思われる建物に着くと、シャッターが開いていてそこに人が一人。

 俺とタリアーゼのメンバーに気づき、そそくさと建物に入って行ってしまった。

 フォルクスが、シャッターを背に胸を張って、シャッターを指す。


「そういえば、この入口シャッターというんだぜ。 ここに来てこんな珍しい入口あるの初めて知ったよ」


 フォルクスが、自慢げに俺とペルセポネに話す。


「そんな、自慢げに話すもんではない」


 その声が、フォルクスの後ろから聴こえるもんで驚き足をもつれて倒れ込むフォルクス。

 コベソとトンドが、フォルクスの後ろに立っていたのだ。


「まぁ、良い。 それで、ハーデスさん。 登録したかい?」

「あぁ」

「なら、どうする? 専属の護衛しないか? もちろん謝礼もするが」

「話がしたい」

「勿論。 俺の感があっているか……。 その方なら俺の話せるところまで話そう」


 俺とペルセポネは、コベソとトンドの後を着いて建物の中に入ると、それに、着いてこようとするフォルクス達だが、ここの従業員なのか数名に拒否され別室へと案内されていた。

 まさに広い敷地に隅々まで光が行き渡っている照明に、奥まで見えないぐらい高い棚が何列も連なっていた。

 それを横にして階段を上がり、これまた広い一室へと俺たちは、入る。


「ソファに、かけてくれて。 何か飲み物でも」


 執事なのか秘書のような従業員が、一礼して部屋を出ると、背もたれを沈ませて深々と座るコベソとトンドを見て俺は、座ると既に隣でペルセポネは、座っていた。


「で、何を聞きたい?」


 目を輝かせて、俺の顔を覗き込む雰囲気で聞いてくるコベソ。

 怪しい雰囲気で、話し出すか躊躇していたら。


「勇者。勇者ユカリの事だろ?」


 本題が向こうから出てくると、俺は頷き、再びコベソは、怪しい顔をする。


 「一度王都で勇者ユカリを見た時、確認してな。 間違いなく神から貰ったスキル【神意を授かる者】を持っていた」


 フォルクスが、言っていた俺が持っているだろうスキルの名前。

 トンドが、手に筒を持ってコベソの話を折り、互いに座っている間のテーブルに地図を広げ、コベソの話を依頼内容へ変える。


「そんなスキルなんてどうでもいい。護衛の話だろ?」

「あぁ、そうだな。一度王都で勇者とその仲間を迎え、ここから南東の国【アテルレナス】を目指す」


 そう答え少し頭を悩ませ始めるコベソに変わり、トンドが口を開く。


「ガツオフィレ、そこを通って行くんだが。 その国が厄介なんだ」

「厄介?」

「この国ランドベルクとガツオフィレ。 元々一緒の国だったんだけどな。 両国王が兄弟で」

「喧嘩して別れたと」

「そうだ」


 秘書の人が、グラスに氷が入ったお茶と色とりどりのお菓子が入った器を、小さな音立てずにテーブルへそぉっと置いている。

 トンドの説明でどのように通るか、指でなぞりながら行く先を刺し示すと、コベソが、頭を上げる。


「俺たちヒロックアクツなら、ここカツオフィレとの国境を難なく通り抜けられるが」

「が?」

「勇者とその仲間がいると分かると、国総出で俺達を通さないだろう」

「そうなのか?」

「今回の勇者、ランドベルクで召喚したからな」

「勇者召喚、国が?」


 俺は、勇者の召喚するのはあの女の神が直々にやっているの物だと思っていたが、コベソの話から国がやっている?と疑問が増え聞き返すとコベソは、冷えた氷が入ったお茶を少し飲み。


「そうか、そうだよな」


 この世界、人族の地では、あの女の神を信仰する単一神信仰で、各地に教会があるが、それは人々が礼拝と悩み相談をする場所。

 何故教会でなく、勇者召喚が国でやらなくてはいけないのか?

 それは、神託を受ける聖女が国に一人はいて、神託を受けた国は勇者召喚をしなくてはならないと。

 コベソは、淡々と話す。


「だから、勇者匿って別の国行くと。 『だったらウチで勇者召喚させろ!』っ向こうが言うのね」

ペルセポネの言葉を発するが、テーブルに目がやると、半分程減っているお茶を見ていつの間にと思っていたが、お菓子も半分減っていた。

「あぁ、俺らからしたら何故カツオフィレで勇者召喚しなかったのか? いや、アテルレナスでもだ」

「単なるアレでしょ」

「アレ?」


 ペルセポネが、チョコレートがコーティングされたプレッツェルを振って答える。


「どこでも良かったんじゃない。 勇者召喚なんてどこでやっても同じそうだし、選ぶのはその神なんだから」


 そう話終えるおポリポリと食べるペルセポネに、コベソとトンドは、深々と頷き感心している。


「その護衛、私とハーデスが請け負うのは、貴方達の護衛でしょ?」

「それだが……。 カツオフィレ抜けるまで。 勇者には出てもらわずだな。 何かあったらお二方に」

「なら、それだけで良いじゃない。 で、いつから?」

「出発? それは、すぐにでもだ」


 コベソが、俺とペルセポネの目を見てくる。

 ペルセポネの、目と目の間と眉間に凄い皺を寄せ如何にも『嫌だ』という顔をしていた。


「それは、無し。 あした東の方でコレやるから!」


 どん!とテーブルに冒険者ギルドで受託した依頼書を出し、コベソとトンドに見せる。


「マジか! ペルセポネさん」


 顔を上げ笑顔になるコベソ。

 それを見たペルセポネは、更に不快そうな顔をしている。


「道中、ここ通るから。明日出発で!」


 コベソの言葉に、ぽかんとするペルセポネだが、直ぐに理解し笑顔になる。

 明らかに分かったのは、器に入っていたお菓子は既に空になっていて、ペルセポネの前にはお茶が入っていたグラスが二つ、俺の前には何も無かった。

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