第91話 ビロードバイソン狩り

 第91話 ビロードバイソン狩り


 さて、ここで二人の戦闘スタイルの話をしよう。


 まず服装だがこれがなかなかセンスがいい。


 といっても学校のお仕着せ、制服というやつなのだが学園用と野外活動用の戦闘服のようなものがある。

 現在着ているのは当然野外用だ。


 まずしたから行くとズボンは魔物素材でできた伸縮性の高い、それでいてある程度の厚みのあるタイツのようなものだ。

 体にフィットしているのでおしりから足にかけてのラインがはっきり出て、スタイルのいい子だとなかなか身の保養だ。


 上は白のブラウスでこれは袖口が絞って隙間がなくなっている。余計なものが入り込まないようにだろう。学園用だと胸元にひらひらが付いているのだが、こちらはいたってシンプルな構造。


 上着はしっかりした生地の詰襟で、赤と紺で出来たファッショナブルなデザイン。

 これも身体のラインに合わせて会って女性的でかっこいい軍服という感じ。


 地球のそれと違うのは胸や肩。前腕部など要所要所に硬質の板が配置されていて鎧としての性質も持っている所だろう。


 足元は編み上げのブーツだし、皮の手袋なども制服の内だ。


 ちなみにポケットはない。装甲版をつける兼ね合いなんだろう。


 代わりにウエストポーチが付いていて上着の上から装着できる。後ろに大きめのポーチ。右に小物入れ、これはポーションとか入れるそうな。

 左側はウェポンラッチが設置されていて携帯武器をマウントできるようになっている。


 頭はこれも謎素材のヘッドギアのような物を装備していて、これもなかなかデザインに気を使った感じだ。


 完成した姿は機能的な戦闘服といった感じ。ファンタジーというよりちょっとSFか?

 カスタマイズもできて使う武器などに合わせて多少の変更は可。


 で、その結果どうなるかというとシアさんは左手に盾、ウェポンラッチにはメイスを装着している。

 槌騎士と呼ばれるスタイルらしい。


 メイスは分厚い金属板を交差させて頭にした結構痛そうなやつ。人間だったら死ぬぞ、一発で。

 鈍器だよ鈍器。

 とても重そうだが。


「装備重量制御のスキルがありますから、意外と取り回しいいんですよ」


 と笑うシアさんはぶんぶんとメイスを振ってみせた。なかなか攻撃力高そうだ。


 マーヤさんはというとこちらも基本は同じ。


 ただ両手にガントレットを装備していて、なかなかごつくなっていてなんと格闘戦タイプらしい。


 これは今まで勇者であるということを隠すために魔法をあまり使わないでいたためにこうなったようだ。

 魔法にシフトするといっていたからこれからどうするのか。


 歌って踊れるじゃないけど唱えて殴れるスタイルになるのだろうか。ちょっとワクワクするかな。


 さて、全員戦闘態勢を整えたところで攻撃開始である。


「スキル使います。【ターゲット!】」


 ネムが子供を攻撃といったらシアさんが良いスキルを持っているというので任せてみた。


 ターゲットというのは注目を集めるスキルらしい。


 騎士スキルの一つで盾を装備していると使えるもので。盾をバンバン鳴らしながらこのスキルを発動させると対象を挑発しつつ、同時に盾に注意を集めることができるらしい。


 欠点としては盾を認識できるものには効果が出てしまうということだ。つまり周りに敵がたくさんいると集中攻撃を受けるかもしれないということ。


「今回は効果範囲にビロードバイソンしかいないからこれで行きます」


 だそうだ。


 戦場は小屋の前にある広場あたりだろう。

 五頭のビロードバイソンが頭を低くし、鼻息も荒く、しかしゆっくりと近づいてくる。


「うまくいきました。彼らには私が排除すべき敵に見えていると思います」


「前に出てきたのがオス」


 メスの方は牛と同じぐらいだがオスの方は二回りほど大きい。対峙するビロードバイソン〔雄〕とシアさん。

 これはスキルを使ったのがシアさんだから仕方ない。

 ゲームでいえばタゲをとったような状態だ。


 だから周りが自由に動ける。


 そしてついにビロードバイソンが突進してきた。


 ドドドッ、ドドトッと地を踏みしめる音が響く。

 それを迎え撃つのはたおやかな美少女、シアさん。


「「装備重量制御」」


 シアさんとマーヤさんがさらにスキルを発動する。


 スキルスキルというが使い方は魔法と同じだな。魔力を使って発動させてその効果を発揮させる。みたいな。


 手に汗握る俺。

 いや、戦えよ、みたいなのはあるんだが、ちょっとどう動いていいのかわからなかった。

 いつもなら自分でぶっ飛ばしちゃって終わりなんだけど、連携とかできるのか俺! 無理だろ!


 シアさんは突っ込んでくるバイソンを盾を盾にして躱す。(いいのか?)


 斜めに受け止めて相手をそらすようにして躱し、すれ違いざまにメイスで一撃を入れる。


『ぷもおぉぉぉっ!』


 なんか肋骨の所にいい感じで当たったみたい。


「結構凶悪なメイスなのにあまり傷とかつかないんだね」


「魔獣の毛皮は丈夫ですから」


 ここら辺が魔境の魔境たる所以なのだろう。


 住んでいる魔獣は基本的に攻撃力も防御力も高くて、半端な武器では有効打が入らない。

 この辺りならまだしも中層なんかに行くと普通の武器ではほぼ効かない。

 いい武器といい腕が必要なのだ。


 その点相手の突進を反らし、一撃を入れたシアさんは大したものだと思う。

 傷はつけられなかったが打撃のダメージが入っているのは間違いない。


「ん!」


 バイソンが一瞬停滞してところでマーヤさんが接近、そのガントレットで打撃を繰り出す。

 ガントレットというのは重さが結構ある。数キロとか。

 それだけでもちょっとした打撃武器だ。


 だがそこに【装備重量制御】が加わる。自分に軽く、相手には重くなるというスキルだ。

 結構いいスキルらしい。


 ハンマーのような遠心力で攻撃力を上げるような利点はないものの十数キロまで加重された金属塊で連撃を食らえばそれなりにいたい。


 バイソンはその場で大きく体を震わせ二人を跳ね飛ばした。


「行きます」


 二人を援護するためにネムが走り出した。


 俺はスラリと木刀を抜き放つ。

 左手の魔法陣から木刀の柄が現れ、それをつかんですさっと引き抜くのだ。


「おおーっ!」


 マーヤさん絶賛。


 知っていてくれたか。このネタを。

 マーヤさんには左の掌から木刀が生えてきたように見えたはずだ。


「やっぱりわかってくれる人がいるといい」


 正直な感想である。

 一緒にボケてくれるやつとか、突っ込みをくれるやつとか。人生の潤いのためには必須。絶対。


 俺は木刀を軽く振り、力を飛ばす。

 ぶんなぐるような鈍い力だ。

 それでバイソンの右側を殴る。


 当然バイソンはそこに気を取られる。

 その隙に左側に回り込んだネムが走りこむように足を切り裂く。


『も゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』


 牛のような四足獣にとって足のけがは一大事なのだ。

 死ぬほどではなくても動きが極端に鈍くなる。


 人間なら意志の力で痛みをねじ伏せるということもできるが、やはり獣には難しい。


 そこからはタコ殴りだっだ。


 シアさんが正面。マーヤさんとネムが斜め後ろに陣取り牽制し、隙ができるとシアさんがバイソンの頭に痛打を与える。


 ビロードバイソンの場合、素材はお肉と毛皮なので頭を攻撃するのが一番素材の被害が少ないのだ。

 短く突きかかるような攻撃を繰り返すバイソン。

 だが彼が倒れるまでそれほどの時間はかからなかった。


 シアさんの使っているメイスはかなり大きい。

 工事用の大ハンマー、人間が振り回せるあれでも数kgの重さしかないのだ。それでもコンクリートを砕き、鉄筋を折るのだ。


 シアさんのメイスはおそらくそれよりも重い。

 にもかかわらず【装備重量制御】のスキルで棒きれのように振り回せ、そして攻撃重量はブーストされていて増加する。


 後で聞いた話だととりあえず現在は四倍だそうな。


 メイスが10kgであればシアさんにとってそのメイスは2.5kg。殴られる方にとっては40kgになる。

 40kgのとげとげのハンマーで頭を殴られたら?


 それでもしばらく戦闘が続いたのだから魔物というのは実にしぶといといえるだろう。だが終わりはやってくる。

 頭部に重大な損傷を受けたバイソンはついに倒れたのだ。

 起き上がろうとするがあがくだけでそれはかなわない。


 弱弱しくあがくバイソンの首をネムが剣で掻ききって戦闘終了だ。


「マリオンさん、やりま…あれ?」


 よほどうれしかったのだろう。シアさんは飛び上がって喜んでいる。

 でもその動きは途中で止まった。


 なぜなら俺の足元には他の四頭のビロードバイソンが息絶えて倒れていたから。


 いや、だってこいつらも隙あらば戦闘に参加しようとするからさ、ほっとけないんだよ。

 みんなちょっと大物に夢中になりすぎたかな。


 ちなみに倒し方は簡単。

 重力制御点を飛ばして体を押さえ、首を『くぴっ』とひねるだけ。

 …うん、ちょっと、ごめんね。

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