第80話 明らかになるライフルの秘密。いいんだか悪いんだか…
第80話 明らかになるライフルの秘密。いいんだか悪いんだか…
狼たちはよほど腹が減っているのか、はたまた単に馬鹿なのか俺たちを囲んでぐるぐる回りながらこちらの様子をうかがっている。
しかもそのうちぐるぐる回る輪から押し出された個体がとびかかっても来る。
ぎゃわん!
「えっと、ちょっと多いですね…骨が折れそうです」
とびかかってきた狼を短剣で切り倒したネムがかなり真剣な顔でそうこぼした。
ネムはかなり強いが飽和攻撃というのはなかなかに厄介なのだ。
油断をすると大やけど、なんてことになりかねない。
しかもこの狼、結構でかい。
地球でいうところの大型犬なんかより一回りから二回り大きかったりする。
ここは遠慮をする時ではないとおもった。
もともとその気もないけどね。
「ネム~。ちょっとごめんね~」
俺はまたとびかかってきた狼を迎撃しようとしていたネムの腰に手を回して抱き寄せた。
「きゃっ、ちょっと!」
慌てるネムだがそんな必要はない。ネムを取り込むように防御力場を広げる。
とびかかってきた狼は俺の展開する歪曲フィールドにはじかれて血まみれになって吹っ飛んでいった。
歪曲フィールドも経験を積んだせいが少し性質が変わってきている。
以前は単純に斥力場だった。斥力場というのは空間を疎にすることで発生する逆引力で、つまりこれが斥力なわけだ。
逆に密にすると強い引力が発生してこれが高重力となる。
つまり俺の重力に対する干渉というのは空間に干渉して変形させる権能ということらしいのだ。
そして現在の歪曲フィールドはその名の通り空間の歪みによって重力の乱流を作り出し、俺に向かってくる力を無茶苦茶な方向にそらしてしまうものだ。
斥力場より効率がいい。しかも攻撃力まである。
光すら曲がるこの力場だから、本来は中にいる俺は見えないと思うのだがなぜかちゃんと見える。俺からも見える。
普通にものにも触れる。
うーん、一周してなんかしているのかな?
しかし攻撃なんかは物質、エネルギーを問わず、弾かれ、引き延ばされ、押しつぶされ、ねじり散らされ壊れてしまう。
なのでとびかかってきた狼は一瞬でトラックにはねられたかのようになって吹っ飛んだわけだ。
ちょっと触れただけではつぶされるまではいかないみたい。
二匹目三匹目が無残に轢死体(でいいのかな?)のなったので他の狼たちもさすがに警戒してとびかかってくるのをやめてしまった。
「すごいですね」
「うん、もっとおバカにどんどん突っ込んできてくれればいかったのに…」
まあ、内側から攻撃すればいいだけだけどね。
俺はライフルを取り出して、順次魔法を付与しながら、残りの狼を殲滅したのだった。
◆・◆・◆
「こちらの無傷の狼は魔石が小さいです。こちらの欠損のある狼は素材はひどいですけど魔石は一回り上等なものですね。でこちらが普通の魔石です」
うーむ、なるほど。
というわけで発見があった。
今俺たちの前には三十六匹の狼の死骸がある。
普通というのはネムが切り殺した奴と歪曲フィールドでひき殺されたやつだ。
無傷というのは【天より降り注ぐもの】を付与したライフルで撃たれた狼のこと、これは体に傷をつけずにいきなり死んでいるので完ぺきに無傷だ。
この狼から取れた魔石はどういうわけか普通の魔石よりも半分ぐらいになっていた。
魔石というのはぶっちゃけ魔物の心臓だ。
心臓が結晶化して石になったものが魔石で、基本心臓の形をしているのだけど、こちらは半分近くが崩れていたのだ。
欠損のある方というのは【地より沸き立つもの】を付与したライフルで撃たれた狼だ。
これで撃たれると銃創がなんと塩になっていた。
その周辺もかなり変質していて素材として使えるようなものじゃなくなっている。
だがなぜが魔石が随分立派になっていた。
力の強い魔物は魔石が心臓の形ではなく隙間のない塊になるのだがこちらはその傾向が出ていた。
これは高級な魔石として取引されることになる。
まあこの狼、もともとあまり強い魔物ではないので推して知るべしではあるのだが、この変化は実に興味深い。
「確か魔物の生命力が心臓に集まって固まったのが魔石…という解釈だったよね」
「はい、そのとおりです」
「だったら…【天より降り注ぐもの】は死をもたらす魔法だから生命力が失われて、【地より沸き立つもの】のほうは逆だと考えると、生命力が暴走する?
そのせいで魔石に影響が出る…とか?」
あっ、なんかネムちゃんが微妙な顔をしてる。
「おほん。まあ、あれだ、素材が必要な時は黒を使って、魔石しか価値がない獲物は白を使うといい。とそういうことだ。うん」
「えっと、なんとなくわかりました」
それは重畳。
よかったよかった。
◆・◆・◆
その日のうちに俺たちはベクトンの町に飛んで帰ってきた。
いえ、ほんとに飛んでね。
さて…
「これからどうします?」
「うーん、そうだなあ…」
今回のことでいくつか命題が見つかった。
まずテントの改良というか、なんとかもう少し安全な拠点が必要だ。
次に騎獣だな。
ちなみにラプトルたちは逃げました。まあいいんだけどね、あれはそういうものだから。帰巣本能とかあるからああいうときに放すと勝手に帰るらしいのだ。
足も速いので魔物につかまる心配もない。
だけどああいうときに騎獣まで守るというのはなかなか困難だ。
すごくかわいいんだけどね。なんかいいんだけどね。
以上の二点を考えると魔動車とかあるといいのかもしれない。うん。
次は…
「ポーションですね」
「ポーション?」
「はい、マリオン様、全くポーション持ってなかったでしょ?」
「あっ、はい。さーせん」
ポーションというのはまあ俗いう、ポーションだね。
液状の飲み薬で、よく理屈は分からんけど飲むとなぜが怪我だ治る。
でも聞く限りにおいては傷の再生がものすごい勢いで進む。という感じの物らしい。
つまり傷は残る。
でもふさがりはするから失血死とかはしない。
魔法があるからといって何でもありというわけにはいかないのだ。
ただある程度の医学知識があれば、例えば傷をふさいでからポーションを使うというようなことができればこの利用価値は計り知れない。
ネムもこの手のポーションを入れるポーチは持っいるのだ。
しかし俺は持っていなかった。
しまうぞう君にも入っていないのだ。
なぜなら必要を感じなかったから。
常に回復魔法は俺の魔力回路を回っていて、俺はオートリジェネがかかったような状態になっているからね。
しかし、確かにそうではある。一撃で意識を失うようなケガをした場合、それがどうなるのか…まあ検証はしたくないからしないけど、備えておくことは必要かもしれない。
ということにしておこう。
「じゃあ、ポーションを買いに行こうか?」
「そうですね。それがいいと思います」
「うん、で、どこで買えばいいのかな?」
「そうですね、ポーションはギルドでも売っています。結構高いですけどね。あとは神殿でもその手の薬を売っています。こちらは聖水とか言うんですよね」
ポーションとは違うものなのかな?
「えっと、作り方はあまり変わらないと聞いています。ミルテアさんも作れるといってましたよ。
ただこちらは神の奇跡をいただいた水だとか?」
うーん、ミルテアさんのところ行ってみようか?
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