10章 〜廻れ舞われよ、世界線〜

さぁ!宇宙を超えて世界の彼方へ!

 蝉の声がうるさい。クーラーの設置台を減らすために隣の唯の部屋との壁の上部を取り払ったその隙間から、カリカリとシャーペンの音が聞こえる。


 唯が勉強しているのか……。


 母さんはなぜ俺を起こさな………。そっか。綾の両親と二週間旅行か………。




「ああ!こうじゃない!こう………。なんていうのか………」




 ブツブツ言ってるな?なんだろ?起き上がって声を聞く。




「魔力の新しい使い方!?そんなの見つけたらノーベル賞よ!もう!この作者は舐めてんのか!


 逆に言うけどコンピューターの基盤以外の制御方法でも言ってみろよ!もう!」




 あ〜。国語か……。しかも魔法をけなす論説文の……。




「ああ〜〜〜!辞めた!魔法論理でもして気分リセットしなきゃ!」




 魔法理論か。簡単に言うと使いたい魔法の概念の持ち方みたいなものだ。魔族必修科目の一つだ。


 今世界でもっとも注目されているのが時間逆行。その次に創造って感じだ。




「何ページだっけ……。あっここか。ここからだね…え〜っと………。言魔法においてブラックホールを作る時、最も効率的な方法は何か?


 仮想空間において、その空間に現世の物質を詰め魔法使用者の質量を大きくする……だっけ…?」




 おい。なんだその問題。いや、理論上は可能だが、諸刃の剣やんけ。




「よしっ!正解!次々〜!」




 テンション高いな〜。てか高一なのにもう自主的に勉強してるのか……。




「ふんふん。言魔法において火の玉を出し敵を攻撃するとき、その操作において特筆すべき注意事項を述べよ……か……。


 魔体を一部展開し、中央部分に展開させていないものを操作する……」




 へぇ………。そうやって操作するのか……。




「はぁ?ふざけんなよ!魔体を操作し、自身から離したのち展開するってこれどこが出版した問題集よ!


 何!?魔研?くだらん持論を述べるな!世間一般的な問題集を作れよ!」




 お口が悪い。ダメですね…。




「もういい!」




 あ……ふて寝した………。はぁ………。仕方ねぇな……。お兄ちゃんが一丁前に助けてやるか……。




「入るぞ〜」


「何?うるさかった!?今もう10時だよ!ああ!もう!」


「違う………。正直昨日林間学校から帰ってきてそのテンションはすごいな〜って」




 めっちゃイライラした顔をしている。そうだな………。




「旅行にでも行くか?綾と亘含め四人で」


「は?兄さん何言ってんの?お金は?亘さんに奢らせるとかじゃないでしょうね?」


「稼ぐ」


「うちの高校はバイト禁止よ」


「バレればな」


「はぁ…。じゃあ子供だけでどこに旅行に行こうって?」


「それは唯の協力が必要だ」


「私一回行ったところにもう一回旅行に行くのは反対派よ」


「俺が行ったことあるところだ」


「何それ。一人で遠出でもしたっけ?帰宅部だし林間学校もまだ先でしょ?」


「ふふん。まぁいい。準備しとけ。これから一週間以上はここに帰ってこない。二人を呼んでくる」




 俺は部屋を出て綾と亘に電話をかける。二人とも旅行は賛成だそうだ。


 必要になりそうなものだけ言って集合するように言った。


 俺には綾がいるからな……。




ーーーー




「ウィー。邪魔するぞ〜」


「おう、いらっしゃい亘」




 亘をリビングに通す。ソファーには、綾と唯がすでに座っている。




「なんで武器が必要なんだ?」


「必要だからだ。いらないものを言っていくぞ。パスポート、お金、身分証明書、貴金属類、通信系ゲームだ」


「「え?」」




 二人が驚きの声をあげる。声を上げない綾は目を見開いた後、わかったのか心配そうな顔をする。




「今言ったものは置いていけ。ここに入れとけ」




 通風口を開け、そこに全員のパスポートや、身分証明書を突っ込む。空き巣にやられたらたまったもんじゃないしな。




「準備は整ったな?」


「いや………。どこに行くの?」


「あっ……。いや………まさかな………」




 亘も気づいたのか首をひねる。さぁて……。魔法をかけてもらおうかな?




「唯、今言った魔法を使って。頭髪・虹彩色変化、堂上海斗緑目茶髪、紅月亘赤目赤髪、堂上唯緑目緑髪、鳩山綾……青目青髪……。情報抽出堂上海斗、骨格整形」


「えっ?あ、うん。頭髪・虹彩色変化、堂上海斗緑目茶髪、紅月亘赤目赤髪、堂上唯緑目緑髪、鳩山綾青目青髪……情報抽出堂上海斗、骨格整形」




 言っている途中で魔体が俺たちの体に当たって弾け、髪と目の色と顔の形が変わる。




「これがどうかしたの?」




 唯の言葉につられて、顔を上げると無意識で綾の顔を見た。途端に綾にしがみつきたくなる衝動をこらえる。


 色だけで………。こんなに………。そこまで俺はあいつに依存していたのか………。




「っ………。ま、まぁもう少し待て。記憶修復、記憶抽出、情報複製・分散」


「あ…………。本当に大丈夫か?」




 亘が確信を持ったのか俺に問いかけようとする。




「えっと……記憶修復、記憶抽出、情報複製・分散」




 記憶が蘇る。頭が痛く、忘れかけていた楽しい日常が積み上げられ、崩され、喉の奥から悲鳴が出掛かる。




「大丈夫!?」


「あ、ああ。なんとか……」


「っ………!」




 俺が答えたと同時にみんなも頭を抱える。綾は少しらくそうだ。


 俺の頭の痛みは収まった。俺には綾がいるから大丈夫だ。




「な、なにこれ…」


「あ、あー、」


「変な感じがするだろ?」




 それでは、唯さんには最後の仕事を…いや、最後から2番目の仕事をしてもらおうか。




「察して俺の言う通りに魔法を使え。世界転移」




 唯が息を飲む。さぁ!果てしない宇宙を超えて別世界の彼方へ!

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