9章 〜この架空の世界で得るものは〜

あんな世界でも懐かしく感じるんだ

「おいお前ら〜!今年も校内サバイバルの時期が来たぞ!」


 担任の池ちんが教壇で騒ぐ。本当にこれは教師なのか?

 かなりナイーブなアイドルの団扇で扇ぎつつミクルンハンカチで額の汗を拭いている。自由だな…。

 クラス替えは俺と綾が一緒でそれ以外バラバラだった。


「ルールはよく見とけよ〜!タグ編成申請書も置いとくから好きにしろ〜!」


 そう言って出て行く。サバサバしてるな〜。


「今年は二人で組むか…」

「ん……」


 タグ名どうする?って聞く。まぁ決まってる。


「「角なし兎」」


 見せてやろうぜ。

 ん……。

 

「「角がない兎でも牙はある」」


 


「お前ら今年も角なし兎か〜!去年強かったのに〜。皮肉か?」


 池ちんが団扇で扇ぎながら申請書を受け取る。声が大きいですよ!

 机の上には丁寧にミクルンサイン入りのトランプがある。ん?ごますりとか賄賂じゃないぞ?


「皮肉じゃないです」

「は?」


 池ちんが団扇を止める。


「『角なし兎』のような言葉の意味を変えるんです」

「そうか…。頑張れよ…」


 珍しく池ちんが遠い目をした。


ーーーー


「綾は今年は何の武器で戦うんだ?」

「今年は…。短剣かな…。使い方わかるから……」


 春風が吹く。桜の花はもう散りきっている。帰り道は日差しで暖かい。


「じゃあなんで今まで使わなかったんだ?」

「カイが短剣使わないから前世を連想させてしまうかな?って思って…」


 あれ?教えてたっけ。まぁ綾が言うからそうなのか。


「ありがとな」

「ん………」


 頭を撫でると気持ち良さそうな顔をする。前世でもこうだったか……。


「じゃあ帰ったらすぐ練習するか?」

「ん……。教えて……」


 家が見えてきた。風が暖かい。


ーーーー


「じゃあこの棒持って適当に振り回してみて」


 庭に落ちてた手ごろな木の枝を2本渡す。

 綾は逆手に持って蹴り技とか投げ技を合わせて振り回した。


 その型は俺に似ていてちょっと違う。でもそれは手の振りの順序とか蹴り技との融合するタイミングの違いだけだ。


「ここはこうした方がいいと思う」


 後ろから綾の腕を掴んで動かす。ぎこちなくだが体に染み込ませることでわかるからな。

 懐かしいな。


「ここができないのか……」


 投げ技との融合でどんなに教えてもできなところがあった。俺はこれを一生懸命教えた記憶がある。


「ごめん……」

「いや、大丈夫だ。できなくてもそこまで困らないからな」


 胸が詰まる。


「じゃあ今教えたこともう一回やってみて」


 同じところで失敗した。枝を落とした時にこちらを見ながら拾う。

 一緒だ………。


「カイ……どうしたの?」


 気づくと目から涙が溢れていた。


「あれ?なんで涙が出てるんだろ?」


 拭っても拭っても溢れてくる涙。


==三人称==


「ごめん。なんでだろ?涙がとまんないや」


 海斗はそう言ってはにかむ。涙が頬をつたっている。


「綾……ごめんな……」


 綾は海斗が謝った理由をすぐに察した。


「カイ………。ごめんね……。私が前世の人より……」

「そんなこと言うなよ!…大丈夫だからな?……」


 また涙が海斗の頬を伝う。綾の方も泣いていた。


==堂上海斗==


「懐かしく感じちゃったんだ」


 溢れる涙。綾も泣いている。練習しなきゃいけないけどもうちょっと……。こうやって泣いたかった。


ーーーー


 校内サバイバル当日。空は綺麗に真っ青だった。

 俺は綾と校庭の植木のところにいた。


「防具の隙間を狙うんだぞ?」

「ん………。隙間ね……」


 シュシュッと短剣をつく綾。可愛いな………。


「今年は最多キル数え頑張ろうな」

「ん………。後無理しないでね…」

「大丈夫だ。あっ、約束しよ」

「ん………」

「「最後まで生き残る」」


 校庭は最多キルを狙うのに最適な場所だ。


『それでは始めます!試合、開始!』


 戦いの火蓋は切られた。


 始まった瞬間に校庭の中心にいく。

 乱戦の中に入り短剣を振り回す。脇腹だったり首筋を重点的に狙って一発で仕留めていく。途中、吐きながら死んでいくやつもいた。

 人を殺す感覚になれないのだろう。


 綾はまだ全然生きている。校庭の敵を全員倒し終えたあたりでキル数は23になっていた。


「綾、怪我は?」

「ない…。門で待ち伏せ」


 校庭の敵が一掃されると校庭に集まる輩がいる。そういうのはだいたいが奇襲から逃れ、最初の乱戦に巻き込まれないようにするためだ。


 嘔吐の音が聞こえる。そいつは校庭の水場にいた。背後に忍び寄って短剣を振り上げる。


「ヒィっ、や、やめてくれ!か、金も渡す!武器も渡す!こ、殺さないで下さい!」


 一年だろう。顔を真っ青にして泣いている。視界の隅に女子生徒の死体が見えた。


「すまんがそれはできない」


 振りをろす。そいつは悲痛な声を上げて死んだ。綾は後ろで傍観していた。


「なぁ?俺は間違っていたか?」

「いや………。正しい………。でも……この世界そのものがおかしいの……」


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