俺は主人公になってやる

 本当はわかってる。さっき言ったように「さて……やりますか」なんて言葉俺には似合わない。

 海斗は自分が世界の主人公だと言っているが、俺はそんな柄じゃない。多分主人公の親友ポジで世界の隅っこで幸せそうにしているモブだろう。


 綾は自分で言っていないが、主人公だろう。俺には特殊能力なんてない。この世界にないものを持ってるわけじゃない。

 いくら能力が高くても、大多数の人が持っていない力を持っていたとしても……。俺は、こんな世界あっていない。


「あと一本!あと一本!」


 巻き起こるコール。海斗や綾や、クラスメイトが応援してくれているのかもしれない。でもそれは俺に聞こえない。叫んだところで聞こえない。


 自分の中にある劣等感。まるでチートな主人公の横で現代ファンタジーの主人公がもらうような特殊能力なんて目劣りするもんだ。


 何かすごくできるわけじゃない。

 舞ねえみたいに機械や器械が作れるわけじゃない。

 マジックキャッスルに呼ばれるほどのマジシャンじゃない。

 テロを起こせるほどのプログラマーでもない。

 海斗みたいに一つの教科で満点ばっかりとるようなこともない。

 教師に褒められるかもしれないが、テレビに出るほどの美声でもない。

 子役になれるほどの面でもない。


 何一つ、中途半端なままだ。

 自分は似合ってない。見方を変えても同じだ。こんな劣等感を持つが、最終的に勝つ主人公。親友ポジが転生者な新系統のラノベ。

 何でその転生者を主人公にしないんだってオチだろう。


「あと一本!あと一本!」


 切れたところで海斗みたいに二重人格になるわけがない。特殊能力が目覚めるなんてないだろう。それならもっと早く覚醒するだろう。


 分かってる。わかってる。あんな美人な綾が自分の横に立つはずがない。

 わかってる。唯だって俺には似合ってない。いつか寝取られるだけだろう。

 そうじゃなくても綾は唯と違って何か決定的なものがある。それが何かは分からなくても。 


 わかってる、わかってる、わかってる。わかってるんだ。


「わかってるんだ。俺はたった一人の人間だただのモブだ

「ンァ?」


 プロミネンスウルフが聞き返す。そうだ。


「俺はたった一人の人間だ俺が意識している


 俺は……決してNPCなんかではないんだ。だって俺は俺が意識してるんだから。いくら描かれた性格で考えでも……。


「はじめ!」


 戦いの火蓋が切られる。別に海斗のように何か言えるわけじゃない。


「突き!」


 よく見るんだ。こいつだってたった一人の人間だただのモブだ

 この世界は海斗が主人公だ。こいつは海斗の世界のモブだ。


 向かってくる木刀。足を横に繰り出し、サイドステップを踏む。


「あと一本!あと一本!」

「あと一本!あと一本!」


 俺は木刀を構えながら叫ぶ。あと一本だ。あと一本で、あと二本で勝つことになる。


「袈裟懸け!」


 俺は沢山特殊能力を持つモブだ。その能力は他のモブには通用するもんだ。

 後ろに倒れ込み、袈裟懸けを躱す。プロミネンスウルフは俺を追い詰めるため近く。

 倒れる体を元に戻す。 


「胴打ち!」

「紅月亘一本!」

「なんだ!?」

「不正だ!」

「ズル使っただろ!」

「定位置に戻れ!構え!はじめ!」


 なんとでも言えばいい。俺の心は踊ってるんだ。ほら今みたいな言葉が簡単に思い浮かぶ。もっと言おうか?

 俺は海斗の意識する世界の脇役なんだ。脇役にイレギュラーなんてない!


「面!」

「受け!前蹴りぃ!突き!」


 プロミネンスは返しが来ると思ったんだろう。前の腹ががら空きだ。そこに蹴りこみ、よろめかせて突きを入れる。


「紅月亘一本!定位置に戻れ!構え!はじめ!」


 もう考えてる。重心を後ろに傾け、背を低くする。


「真空切り!足払い!突き!」


 俺をよろめかせて確実に倒そうとしたんだろう。足払いを後ろに飛んでかわし、後ろに倒れる。

 相手は突きのモーションに入っていた。


「胴打ち!」


 倒れた後、肩と腕の力で立ち上がり、木刀を横に振る。その後、俺の頭に木刀が当たった。


「紅月亘一本!試合終了!互いに礼!」


 審判の時間を巻いた呼びかけに即座に応じる。


「おかしいだろ!何であいつが勝つんだ!」


 背中に浴びる野次。言えばいい。俺と同じモブ共お前らの言葉なんざ痛くないんだよ。


ーーーー


 刀を手のひらの中で回す。錯覚を利用し、回転を大きくさせながら、後ろに少しずつ力をためる。

 端から見たら、どんどん後ろに倒れていくだけに見えるだろうが前から見ると、刀の動きの大きさのせいで錯覚してしまう。


 力を十分に貯めたあと、すぐに突進をする。


「突き!」


 勢いが止まらず相手の腹に深く突き刺さる。


「紅月亘!一本!勝者、紅月亘!」

「ウオォォォォォォォ!」


 歓声が轟く。何戦目かが終わった。俺は次の次………、全力を出し切って負ける。


ーーーー


「1年A組、堂上海斗こと『綾様の配偶者!』入場です!」


 相変わらず観客席がため息で溢れる。当の海斗もめちゃめちゃ恥ずかしそうにしており、隣の綾は顔を隠してうつむいている。が、にやにやしている。


「3年E組、長居隼人こと『剣王』!入場です!」


 これは準準決勝。

 昨年優勝者が海斗の対戦相手という悲劇。でも主人公は………勝つ。


「さぁ!準々決勝からはストップなしの打ち合いです!5分間戦い続け、一本取るか、技ありが多かった方の勝利です!」

「綾様の配偶者!いくぜぇ!」


 海斗が叫んで木刀を構える。剣王と木刀がぶつかり合い、甲高い音がなる。木と木がこすれるような音だ。

 海斗の前蹴りは膝蹴りで防がれる。海斗の木刀が海斗の頭の上を大きく回って三年の首筋に入る。が、それを三年は頭の後ろから回した木刀で弾き、反対側に回して海斗の首筋を狙う。その刀を後ろに反って躱す。


「舞だな………」

「えぇ……、舞ね……」


 それは舞と言う他、例えようがなかった。はじかれた反動でさえも次の攻撃につながる。

 どちらも一本も決まらない状態。ただ体力勝負になることは目に見えていた。

 そしてそれは一瞬で終わった。


「試合やめ!」


 審判の声で刀のぶつかり合いが終わる。戦っていた二人はブツブツと何かを話していた。

 主人公が勝つ。これが絶対………。だから……気持ち悪かった。


「勝者、3年E組、長居隼人こと『剣王』!」

「オォォォォォォ!」


 歓声が上がる。俺は驚きで立ち上がった。二人は退場していく。

 俺の番なので闘技場への階段を降りた。その時に海斗とすれ違う。


「俺は主人公だが、絶対じゃない。今日のお前はおかしい」

「なっ!」


 おかしい?絶対じゃない?どういうことだ?


「まぁ要するに、この世界は現実だ。ご都合主義を待つんじゃない」


 心のわだかまりが取れた気がした。


「じゃ、頑張ってね〜!」

「ああ。やってくる」


 そうだ。この世界にモブなんてない。そんな誰か一人だけが輝く世界なんてない。

 「主人公だから」じゃない、海斗みたいなやつだからこそ「主人公になる」だけ。

 だから……主人公補正なんてない!


「行くぞ!」


 木刀を担いで闘技場に出る。俺も……主人公になろう!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます