泣き虫海斗

「レディースアンドジェントルマン!ようこそ!帝高1年A組、マジックショーへ!どうも、今宵貴方方を驚かせる世紀のマジシャン中山篤です」


 誰?俺はこんなやつ知らない。


「それではマナーについてですが、マジックが、成功したら拍手をお願いします。

 種明かしは禁物ですよ。わかっても言わないようにしてくださいね。まだ次の日も同じマジックをするんですから」


 客が少し笑う。


「それではやっていきましょう!では…………」


 俺は舞台袖から顔を出すのをやめ、おなじみのパイプ椅子に座る。


「ハァ、それにしても………。綾はなんなんだ……」


 実を言うと綾は、公演が終わった後、俺に出来を聞きに来たのだが、見てないと言ったらどっかいっちまったんだよ……。


「きっと海斗に可愛いところ見て欲しかったんじゃない?」


 亘が横に座って俺の肩をたたく。


「なんだよロリコン……」


 恨みがましい目と自覚しつつもそういう目で見てしまう。

 さっき、ロリッコ達に囲まれてマジックを披露してたのだ。それですっかり人気者。本人もウハウハ状態だ。


「何がロリコンだよ!」

「お〜い舞台袖達よ。静かにするんだぞ〜」


 中山が暗にうるさいことを注意しつつ客の笑いを取っている。


「ハァ………。そんなアイドルにならなくても綾は可愛いのに……」

「綾の二つ名は『カイ様の妃』だろ?妃が務まるようにって」

「綾はもう十分務まってるよ………逆だろ、逆」


 俺は誰かの差し入れのポッキーをタバコのように指で挟む。


「ふ〜ん。それよりお前似合ってるな、タバコ吸う姿」

「ルセェ。YES禁煙NOタバコだ、俺はタバコなんてすわねぇぞ」

「そうですかっと。それよか探しに行かなくていいのか?」

「そうだな………。結構ショックで立ち上がれないんだが行くか……」


 とろとろと椅子から立ち上がり、教室から出る。


「すいません……ミクルンハンカチありますか?」


 売店担当の女子に爽やか系茶髪イケメンが聞いていた。

 ないって言ってるしそれみろよボケが!と思っていたが女子の方は予約のものを渡しそうだ。俺は現場に近づく。


「お客様、ただいま売り切れとなっております。お買い上げの際は整理券をお受け取りしてください」


 すると男は胡散臭そうな顔をする。化けの皮剥がすの早!


「あっ、そうなんですか。じゃああそこにあるものは何ですか?」


 予約済みの物を指して男は言う。


「あれは整理券を受け取った方のものですのでお引き取りください」


 男はこめかみをピクピクさせている。自分の思う通りにいかないことに腹立っているのだろう。


「そうか………。じゃあいいや。諦めるよ。失礼…」


 そう言って男は去っていく………筈がない。多分メルアドかなんかで販売員をたぶらかすつもりだろう。


「坂田さん。シフト代わって、竜司呼んできて」

「は、はい。分かった」


 去っていく男の背中にガンを向けながらシフトチェンジをさせる。


「どうした?海斗」


 数秒後に後ろからすごく低い声が響く。振り返って見上げる。


「よっ!冷蔵庫!店番たのむぜ!」

「おっ!いいぞ!その言葉があると気分がいい」


 熊、冷蔵庫、剛健、世界一の肉壁。こいつの代名詞をあげだしたら止まらないだろう。

 198cm、96kg、筋肉ムキムキの竜司。ボディービルダーが将来の夢。


「ちょちょちょ、竜司は威圧が強すぎるからもっと和かに和やかに」

「あ、ああ」

「よろしく頼んだ」


 店番が変わった途端、みんながマナーを守りだす。

 じゃ、俺は綾を探そうか。

 俺は空き教室や階段の踊り場など、人気のない場所を探す。すると、屋上行きの階段で座っていた。


「綾……」

「カ、カイ…………」


 俺は綾の横に座る。


「ごめんな…………」

「んん……」


 首を振って否定する。でも………。


「本当……ごめん…。怖かったんだ……。前みたいに取られるのが……。

 っと…野郎のツンデレならぬヤンデレはお断りだな、はは…」

「いい………。傷つけてごめん……」

「あ、ああ………」

「……」

「…、……」

「……」

「ん”……ん”ぐっ………。はぁはぁはぁはぁ……。ん”…」


 空虚感…何かあったものがなくなる気がして……。大切なものが…どこか遠くの方へ行ってしまいそうで…。

 涙が止まらなかった……。悲しくて…悔しくて……。


「カイ………。私は……ここにいるから……ね…」


 寝れない子供をあやすように背中を叩かれる………。俺も綾の背中に手を伸ばし、抱きしめた。

 遠くへ行くのを拒むように。強く…抱きしめた。


「文化祭……回ろ……」

「ん………一緒に行こうか……」


 やがて涙がやみ、呼吸が落ち着いた頃にそう言われ、俺たちは立ち上がった。


====


「お前らーーー!盛り上がってるかぁ!」

「オーー!」

「ま〜だまだぁ!」

「オーーーッ!」

「うっしゃー!お前ら!まだ文化祭は初日だ!盛り上げてくぜぇ!!これから前夜祭だ!」


 プラザに作られたステージで叫ぶ生徒会。エレキギターを大音量で引き出した。

 俺はそれをベランダから眺める。


「これ………。カフェオレだ」

「ああ、サンキュ」


 亘からカフェオレを受け取り、綾にも渡す。


「ん………。どこの組が優勝するんだろうね……」


 この学校での文化祭には、人気選挙がある。パンフレットについている紙に一番良かった組のマークを塗って投票するのだ。

 一位になった組にはその組全員が学食半額、図書室のプレミアム部屋の使用許可…エレベーターの使用許可などなど………。嬉しいこと盛りだくさんだ。


「おっ、これから初日結果発表だぞ」


 プラザが騒めき出す。マイクを持った行政委員が壇に登った。


「これから人気投票初日結果を発表します。三位!水泳部!」

「ウォォォォォ!」


 水泳部であろう輩から歓声が上がる。


「二位!物理部!」

「ウッシャァァァァ!」


 物理部はロボットや、真空砲の展示をしていたから人気が高かったのだろう。


「そして一位!」

「……………」


 学校が完全に静かになる。行政委員長はたっぷり時間を取ってから声を上げた。


「3年B組、喜劇です!」

「ギャァァァァァァァーーーー!」


 叫び声じゃなくてもはや奇声だな。


「そして今年、また一年が記録を塗り替えました!一年生にて初の四位、1年A組み、ライブ&マジック!総収入が18万2700円!これは校内二位の記録です!」


「シャァァァァァ!」


 俺たちは飛び上がってハイタッチをする。


「180000か………。二十数人だから一人頭2万弱か……」

「金の勘定をしないの!」

「だってぇ………。ボーリングに行き過ぎたせいでさ………」


 佐々木がぼやく。ボーリングって……。


「ボーリング行くよりもビリヤードの方がいいぞぉ?」

「海斗…ビリヤードが趣味なのはお前だけだ。あと綾」


 亘よ……。俺はビリヤードの同志を作りたいんだ。

 数十分後、みんなが教室に帰ってくる。亘が壇上に立ってマイクを手に取った。


「え〜我が同胞よ。1年A組、人気投票四位を祝ってお手を拝借、ヨォ〜」


 パンパン。


 そのまま拍手に変わる。俺も手が痛くなるほど拍手をした。









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