6章 〜それはひどく幻のようで現実だった。〜

その要求はひどく断れないもので。

「あ〜ああ〜!」

「い〜いい〜!」

「う〜うう〜!」


 順に、俺、亘、京之助。正直何言ってんだって話だがそこはご愛嬌。

 俺たちは今、亘私有の船に乗って、ある孤島に向かっている。

 真っ青な海、波間に群がる鳥たち。遠くに見える小さな緑と目の前で吐く奈々華。


「う〜んいい気分だ」

「奈々ちゃん………。ごめんね………」


 綾が奈々華に謝っている理由は『俺が吐いている人の前で「気持ちい」といったことを彼女として代わりに謝罪するべきだと』いう綾の信念と知らないことをここに明記しよう。


「おぇ。うぷ………。げっ…………」

「お〜い、クルーズ汚すなよ〜!」

「奈々。大丈夫か?」


 ようやく京之助が奈々華の背中をさすり出す。


「タイムラグが大きすぎるぞ!」

「そうだそうだ!亘の言う通りだ!」

「はい、すいません……。奈々…何かいるか?」

「彼女のことしっかりケアしてやれよ!」

「そうだそうだ!亘の言う通りだ!まるで通信が遅れすぎて未来を予測して常に動かなきゃいけないクソゲーじゃないか!」

「はぁ?海斗何言ってんの?」

「あっ…はい、すいません。白けました……」


 俺の例えが分かりにくすぎたのかな?やっぱ高度すぎたか。


「言っとくけど別に例えが高度なわけじゃないよ?長いし二番煎じだからこうやって罵られてるんだよ?」

「ブルータス!もとい亘よ!お前もか!」

「誰もお前の味方になった覚えはない!」


 うう……。みんなひどいよ……。


「オェ………」


 突然背後からも吐き気の音が聞こえる。


「おい!俺にかけるなよ!てか魔法使えよ!」


 振り向くと唯が青ざめた顔をしていた。


「兄さん、私…魔法使わない……オェ…訓練して…」

「しゃべるナァァァァァァ!」

「るの…………。うっあっ………」

「ギャァァァァァァァッ!」


  俺の服を唯のキラキラが覆ったのは言わずもがななことであり…………。


「ぎゃぁ!服がっ!肌が!溶ける溶ける!胃酸でとけるぅぅぅぅ!」

「あのな…胃酸で服は解けないはずだが……」

「そんなに慌ててもな。そんなんで肌が溶けるなら唯ちゃん含め奈々は今頃この世にいないだろうな」


 俺の悲鳴を亘と京之助が普通に返してくる。


「マジレス乙!やめれ!つまらんから!それより意地はらないですぐに魔法使えよ!」

「し〜っかりと語彙力を失って行くぅ〜!」

「そしてしっかりと海斗の肌は溶けていくぅ!」


 唯は海に吐き続け、俺の願いを男二人が阻んで行く。


「奈々ちゃん……大丈夫?」

「オェ………。だ、大じょばない……」

「ダァァァァァァ!あとどれくらいで着く!?」

「え〜っと………。三十分?」

「結構遠いもんね。亘の孤島か……。子供なのに大地主か……」


 俺は服を脱ぎ捨て、船室から替えの服を取ってくる……が…。

「ねぇ綾」

「何?」

「ギャーーーーー!奈々華もこっちを向くなぁぁぁぁ!」

「オェ……」


 船室から出て綾に話しかけようとした瞬間、振り返った青い顔の奈々華とご対面する俺氏。世界は無情にも俺の服を汚すことのためだけに回っているようだ。


「ふ、服がぁぁぁぁ!」


 そんなこんなで三十分………。洗浄ゲロ吐き戦争は終末氏、船上での洗浄をしたのち、ようやく陸地に降り立った我らがホモサピエンス。

 海斗国の損失はT−shirts二枚とベルトとジーンズ。

 奈々華国と唯国の損失は同じくT−shirts一枚と胃液数dLdlデシリットル。


「ひ、ヒーリング…」


 今更魔法を使う唯。しかしながらマインドヒールなどというものはないっぽい。


「はぁ……。疲れたわ……。綾ちゃんありがとうね…」

「ううん……。困った時はお互い様…」

「ではでは!皆様!ここは有人島!この島には私たち含め6人でございます!」


 亘がくるくる回って指を鳴らす。ワーーーーイ!!………?


「て、点呼ぉぉぉぉぉぉ!はい海斗、1!」

「じゃあ俺、亘、2!」

「京之助3!」

「綾、4…」

「奈々華5………?」

「唯、ろ………kk………く?え?」

「「「「「ロクゥゥゥゥゥゥ!?」」」」」


 亘を除いて全員叫ぶ。


「はい!皆さんお揃いでありまんすね。それでは今回の寄宿舎をご紹介いたします」

「まった!そういえば船長は!?」

「そこ!?海斗そこなの!?」

「兄さん他の突っ込みどころは!?」

「質問は挙手制です!」

「はい!先生質問!」


 ぴしっ、と手を挙げる。


「はい海斗君!どうぞ!」

「船長はどこ行ったんですか!?」

「この船は自動運転の試験運行です!つ・ま・り……人工知能です!」


 亘が船に手をひらひらさせる。試験運行って!


「あの………。マジで6人なの?」


 奈々華が心配そうに聞く。ふっ、なぜそんなことを聞く。亘が養子に乗った時は全てマジなんだぜ?


「はい。マジもマジ。大マジです」


 ほ〜らみろ。6人じゃないか。


「それでは今回の寄宿舎は目の前にある可愛らしいコテージです!」

「イェーーーーイ!」


 パチパチと拍手をしておく。綾たちは呆然としていた。


「質問…」

「どうぞ。綾さん」

「食料と飲料水、電気とガス、緊急時の対策と今回の旅行の目的を教えてください…」

「食料は6人で一ヶ月分!飲料水は水再生機があります!ガスはありませんが太陽光発電が有りIHが設備されています!最悪海斗君の雷操でなんとかなるでしょう!」


 俺頼みか……。ふっ。この島の王者は俺だぜ。


「緊急時用のシェルターとモールス信号、また脱出用のクルーザーがあります

 目的はズバリ!排除税!」


 排除税とは、所有する土地の大きさによって、討伐する魔物の魔石の総重量が決められ、その分を税として国に出さねばならない。

 理由としては魔物の異変や、強大化を防ぐためであり、大抵の人は国に魔石の代わりに金を出す。

 その金で自衛隊が魔物を討伐しに行くシステムだ。多分この島もそうやってきたんだろう。


「おい!待て!俺らにやらせる気か!?」

「その通り。今回の合宿とかでお金使っちゃってさ、そのせいで排除税支払えるには支払えるけど厳しいんだわさ」


 京之助の非難の声に亘は人差し指を突き合わせて答える。


「あっ………はい。ありがとうございます……」

「しかも実際それが利益を生んだか?って話でさ」

「はい……ごめんなさい…」


 綾が謝る。

 そう、実際はミノタウロス、アラクネー、ドラゴンの魔石で俺たちの装備一式全部揃えられる金になったのだ。

 それを燃やしてしまったんだがそれは仕方ない。


「別に謝る必要はないんだよ?ただちょっと困ってるから助けて欲しいなって…」


 指をツンツンさせる亘。可愛くないからな。あざとい、うざい、殺したいの三拍子だからな。


「それで…手伝ってくれる?」

「は、はい………。手伝わせていただきます…」


 唯が下手に出た。俺たちもそれに続く。


「うん!ありがとう!」






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