君は酷い人間だ。僕を死なせてくれない。



 君の世界に幸あらんことを!





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 さぁ、行こう。俺の世界に。




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 君が負けても問題ない。勝つことだけが全てじゃないんだ。


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 俺の世界は楽しくなかった。

 だから俺は自分の世界を自分で作ったの。


 俺は俺の世界の主人公だ。


 俺は俺の世界の勇者だ。


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==鳩山綾==


 私は自分が情けない。

 何もしないのは何もできないとカイに思ってもらうため。

 何も声を上げないのは、何もできなきから邪魔をしなため、と考えてもらい聡明だと思ってもらうため。


 自分は聖母でも何でもない。ズルい女だと自分でも思う……。




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「勝負ダァァァァァァ!」


 刀を大ぶりに構える。降った刀は糸に阻まれ降ろされない。


「あはははは!綺麗だわ!あなたは限界を超えようとしているのね!あははは!限界を超えてもその糸は切れないわ!」

「限界は超えられねぇんだ!人が限界を超えたと言ったとき、それは!そこは限界なんかじゃないんだよ!俺は!限界なんてないんだよ!」


 ぷつん。


 蜘蛛の糸が切れた。刀は進み、俺の体は蜘蛛に向かって進んで行く。

 力がみなぎる。蜘蛛は驚いた顔をするもまた素面に戻る。


「あはは!いい!好きよ!でもね!さっきのは偶然なのよ!私に勝つなど奇跡に等しいわ!」

「偶然は森羅万象の組み合わせ!その偶然が何度も起きて奇跡になる!」


 ぷつん。


 また一歩進む。


「まぁ!あなたはなんて健気で美しいのかしら!」


 ぷつん。


 もう一歩。

 もう一歩。

 もう一歩。

 もう一歩。


 あと一本で蜘蛛に斬り掛かれる。


「ついにここまできたわね。素晴らしわ!でもね!糸が切れたのは私が切ったからなの!」


 刀を振り上げる。


「どうやってもその糸は切れないわ!」

「知ってるか?」


 刀を振り下ろす。


「邪念で切れる蜘蛛の糸を」


 蜘蛛の糸。芥川龍之介の本だ。

 犍陀多という、生前に蜘蛛を殺さなかった男が地獄に落ちて、お釈迦様が蜘蛛の糸を垂らした。

 それを伝って天国まで登ろうとしたが、他の人も登ってきた。

 犍陀多は糸が切れると思い、降りろと叫んだ。すると、犍陀多がつかんでいるところから糸が切れた。


 簡単に言うと「自分だけ」という邪念で糸が切れたってお話だ。



 刀が糸に触れる。


 ぷつん。


「なっ!」


 俺はすぐに刀を振り上げ蜘蛛に振り上げる。


「シネェェェェェェェ!」


 だが、それは叶わなかった。俺は蜘蛛の糸に絡まり、武器を全て落とした。


「ああ怖かったわ。すごいわ!よく切ったわね!あなたのこと、このまま愛して食べてしまいたいわ!ああ!愛しいわ!」


 多分こいつは俺を完全に殺してから食うだろう。だから雷操でも殺せないだろう。


 俺は別に悔しくもなんともない。やりきった。

 負けることだってあるんだ。でも俺が主人公じゃないとは思わない。

 確かに。主人公は負けない。でもそれは結果論だ。


 悪に負けて、でもその後逆転して勝つ。で、また負ける。けど最後には勝つ。

 見方を変えれば、主人公は勝たない。勝つが、負ける。また勝つが。最後には負ける。

 今は負けフェーズだ。でも、勝ってやる。


「そうね!首を絞めて殺しましょう!」


 糸が俺にかかる。綾が蜘蛛の後ろに回り込んでいるのが見えた。


「邪魔よ!」


 蜘蛛は綾を蹴飛ばし、俺の方を向く。


==鳩山綾==


 なんということだろう。あの蜘蛛の中を巡るのは私の考える血液じゃなかった。

 だから力が使えない。

 なんで楽観視してたんだろう。私の能力はチートなんかじゃない。

 オルに教えてもらって少しチートになっただけ。なのに………。


 どうしようか……。いや、考えついている。ただ嫌がっているだけだ。

 カイに嫌われたくない。でも生きたい。


 カイの水筒の中の水を私が全て飲んでしまえば私はめちゃくちゃ強くなるだろう。

 カイの水筒の水は操れば持ってこれない距離じゃない。

 でも理性とカイの愛情を失う。


 いや、でも私が転生者であることを隠してたってだけで私がオルを傷つけた女ではないとすれば……。


 ああ。あれがある。


==堂上海斗==


 綾はすごく思いつめた顔をしていた。ありがとう。綾。俺はもう死ぬけど、綾は生きてくれよな。最後まで俺のことを考えてくれてありがとう。

 頑張って一秒でも長く生きるから逃げてくれ。


 蜘蛛の糸が俺の首に当たる。ひんやりとしていて俺をこれから殺すと言っているようだった。

 手は後ろで縛られていて、動かせない。


 首がつられる。顎を上に向け、少しでも呼吸をしようとする。

 が、それも蜘蛛に遮られる。


 ああ。死ぬんだな……。

 苦しくなり、暗くなっていく意識の中そう思う。


 俺はいつになったら死ねるんだろう……。俺は俺の世界の主人公だ。主人公は最後に勝つから…。


 なら、俺はずっと負け続けるから転生を繰り返すのかな……。


 オワラセテミナイカ?


 誰だ?お前。


 コノセカイデシンデミナイカ?


 どういう意味だ?


 ココデシナズニコノセカイノサキヲイキテミナイカ?


 そうだな。綾もいるし。俺もそっちを望むよ。


 ナラ、メヲアケテセカイヲミロ。タタカエ。サイゴマデアガケ。


 そうだ。俺は…………。戦うんだ!



 目を開く。呼吸ができないので酸欠になってきた。

 そうだ。俺はまだ生きている。


 雷操で糸に電圧をかけようとする。

 刹那、カランと石が転がる音がした。ぼやける視界に綾が立っている。魔石を投げている。

 蜘蛛が何かを叫んで綾に向かっていく。おい!逃げろよ。早く!早く!


 綾は何かを投げた。


 魔石が燃え出す。瞬く間に他の魔石に燃え移り、俺の周りが火の海になる。すると蜘蛛が糸を引っ掛けている、崖に生える木にも燃え移り少し糸が緩む。だが、それだけで魔石は燃え尽きあたりは墨だらけになった。


 蜘蛛女は綾を一瞬で捉えると俺の方に戻ってきた。


「%#%$&’)&%’%$&$&’」


 何を言ってるのかわかんねえよ!俺はまだ生きてやる!死なねぇかんな!

 そんな時、ある一人の声が聞こえた。


「紅炎!スコール!バインド!」







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