何度でも立ち上がるのは君がいるから。

 このデカブツを人は言う。ミノタウロス、と。

 牛の角をした、二足歩行する魔物。毛深く、マッスルがハッスルしていて、もし頭が痛いと言ったら筋肉痛ですねと言いたくなる脳筋だ。


「ブモォォォォ!」


 カイは腰の刀を抜いて、構える。


「綾、絶対逃げるなよ。そんな事にはさせないから」


 カイは私に優しい笑みを向ける。こんな彼を傷付けるわけにはいかない。泉の水は半分を切っている。この先なにが起きるのか分からない。


「勝負だ!」


 カイがミノタウロスに駆け寄る。刀を振り上げ袈裟懸けにする。

 もう……。カイを傷付けたくない……。

 私はカイの刀が当たる瞬間に力を使った。

 カイの刀はそのまま滑らかに滑り、ミノタウロスを切ったかのように見せた。


「なっ!」


 カイは驚く。当然だ、ミノタウロスを一太刀で切り裂くことはできないはずだから。


「なんでだ………?なぜ勝てたんだ?」

「カイ………。それより早くいこ……」


 私はカイの気をそらして進むことを促す………。

 すごく後悔している。もう一回今の力を使ったらカイが怪しむ。もう使えない………。


==堂上海斗==


「なんで一々邪魔してくれるんだよ!このやろう!あとなんで裸じゃないんだ!」


 アラクネー。半人間蜘蛛種族。蜘蛛の胴体に上半身が少女。上品にも上裸ではない。


「下賤者が……。戯け」


 突然突風が巻き起こる。


「ライトニングトルネード!」

「なんでふざける余裕があるの!」


 綾のツッコミを無視して雷を体から発散させる。

 雷操は特に指定しない場合、電気は抵抗の少ない方に逃げようとする。

 すると空気中を一直線に進み出す電気。やっぱり蜘蛛の糸か…。


「あいどんらいくゆー!死んじまえ!」


 短剣を蜘蛛に向かって数本投げる。それらは簡単に蜘蛛の巣に捕まって落ちた。が、その途中にこっそり蜘蛛の真上に短剣を投げる。


「ふん。くだらん。見え見えじゃ」


 が、その短剣は上方にも張られた巣に阻まれる。


「そこまでしか見てねぇんだよ!ウスノロ!」


 雷操で電磁石を作り、短剣を操る。蜘蛛の糸を避け突き進む短剣。だがそれは一瞬で生成された隙間の少ない蜘蛛の巣で受け止められる。


「イッケェーーーー!」


 電磁石の力を強め蜘蛛の巣へと押し込む。

 でも…それは弾かれた。短剣たちが宙を舞う。蜘蛛の巣が緩み隙間から見える蜘蛛女の顔は薄ら笑いを浮かべていた。


 そこに俺がさっきまで空中に留めておいた短剣が降って行く。

 その薄ら笑い……すぐに苦痛なものに変えてやるよ。


「わからないとでも?人間」


 刹那上方の短剣は蜘蛛の糸に捉えられ、俺に飛んでくる。


「たいして強くなかったな。死ぬがいい!」


 俺に向かって飛んでくる短剣。多分この短剣は俺に刺さる。もう、疲れた。


 泉の水は心の疲れを癒してはくれない。癒してくれるのは酒と麻薬だ。


 もう疲れた。何度綾乃の為と鼓舞しただろう。何度暗闇から這い上がってきただろう。

 十分だろ……。みんなここまで頑張らないだろ。もう……いいだろ……。


 時間の進みがゆっくりに見える。もう……疲れたんだ……。

 俺に吸い込まれるように向かってくる短剣。

 わかってる。俺は俺の世界の主人公だ。絶対に死なない。いや、死んでも転生したりレイスとなって生きていくだろう。


 まだ行けよ!後から絶対に後悔するぞ!


 もう……。いいや………。疲れたんだ…。


 綾が待ってる!綾がいる!綾を死なせるのか!?


 俺はもう頑張ったよ……。


 綾が見たいな人がこの先の世界にいるかもわからないんだぞ!


 この世界に居たんだ。どうせまた転生してもいるだろ。


 死んだらそこで終わりだぞ!転生できるかわからないんだぞ!


 そうか……。嬉しいな。死ねるんだぜ?ようやく死ねるんだ。つらい思いもなくなるんだ。


 嬉しいこともなくなるんだ!唯とこのまま別れてもいいのか!?


 別に?唯はただ妹になっただけだし。もういいよ…。


「もう………。いい………訳が……ある……なんてないだろうがぁ!こいよ!

 俺を刺してみろ!何度でも立ち上がっ!」


 短剣は俺の胸に突き刺さった。


「あぐっ…………。あ、ああああああ………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 ガァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 胸が焼ける。血が短剣を伝って滴り落ちる。痛みで呻く度に短剣が骨をこする。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」


 叫びながら刀を振るう。蜘蛛の糸は執拗に引っ付きなかなか進めない。


「かっ!カイ!」


 今まで俺の邪魔をしなようにしていた綾がとうとう声を上げる。


「ふふふふふふはははっはははははははははははっははははははははっははははははは!

 美しい!綺麗だわ!もっと叫んで!」

「が”っ…あ”っ”。ん”っ!あっ………」


 体の制御がきかない。多分口は半開きで唾液が垂れているだろう。みっともない。


「美しい!いい!好き!あなたのような殿方が欲しかったの!婆様!見つけましたわ!

 もっと叫んで!」


 刀を振るい突き進む。なぜか貧血にならない。血液の動きに違和感がある。まるで操られているみたいな……。


 短剣の柄に手を動かす。つかむ。そして……抜く。血飛沫が飛び散り痛みがますますひどくなる。水筒の水を煽る。体の傷は消えてなくなり、痛みもなくなる。



 すると、視界が真っ白になった。目の前には顔のぼやけた老人達が佇んでいる。

 その老人達は何かを喋った。いや、俺の心に介入してきた。


 恐怖…。

 また刺されるのか…。

 刺されても回復すればいい。


 拒絶…。

 もうこの痛みは味わいたくない。

 快楽はもう味わえないだろう。


 疲労…。

 何回俺は起き上がればいいんだ?

 倒れ続けても変わることはない。


 絶望…。

 もう…勝てないかもしれない……。

 勝つことが全てではない、負けてもいいんだ。生きていけるなら。


 そうやって忍び寄ってくる死神。レイスのように背中からふわりと覆いかぶさり、楽園へと連れていくゴースト。

 でもとどまり続けたいと感じるこの心。


 勇気…。

 怖いけど立ち向かうべきだ。

 恐怖心に打ち勝て。進むべき道はその先にある。


 受容…。

 痛みなんていつかは引くんだ。何度だって受け入れてやる。

 経験はいつだって味方する。その痛みから逃げてはいけない。


 気力…。

 何度だって立ち上がればいい。

 まず気力だ。そこから全てが始まる。


 希望…。

 何かを続ければ何かが起きる。

 失敗や過失なんて何も悪いことじゃない。行動そのものを褒め称えよ。


 君を動かす糧となれ!君を生かす意味となれ!

 さすれば君は…………強くなる。


 さすれば君は…………………









 君の世界の………







 勇者になる………。







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