君の手は絶対に離さない。

 私はカイの所に戻りその前に座る。


「もしここが間違いで…あの洞窟が…あるなら……もしかしたら…」


 今のカイは瀕死状態だ。一刻も早く治療しないといけない。

 わかってる、神頼みだし、可能性はごく少ない……。でも…信じずにはいられない…。


「どうか…童話が……本当でありますように…」


 霧谷渓谷物語……。ある冒険者が幼馴染に裏切られ、霧谷渓谷に落ちた。

 その冒険者は何かの間違いだと思って村に戻ろうと歩く。でも着いたのは村と反対側の洞窟だった。

 その洞窟には泉があって、その泉はどんな傷も癒すものだった。

 そうとも知らず、冒険者はガブ飲みして、許容量を超えてしまい超人的な力を得た。

 その代償に自我と理性を失い、自分の村を襲った……。


 そんな救われない童話。教訓としては「良薬も過ぎれば毒となる」というもの。


 私は洞窟内に入る。目当てのものはすぐ見つかった……。

 岩の裂け目から、コンコンと湧き出る水。その水は地面を滝壺のようにえぐっている。


「雨垂れ石をも穿つ…か…。よいしょ…」


 カイを地面に横たえ、泉に近づく……。水は完全に透き通っており、底が見えない。少し手に掬って躊躇して、一気に飲み込んだ。

 体の傷や痛みが消える。ちょっと力が漲りすぎた節もあるが大丈夫そうだ…。


「カイ………。起きて…」


 私はカイを揺する。早く起きてほしい……。じゃないと……。

 カイは私の懸念を他所に全く起きる様子がない。

 どうやって飲ませようか……。普通に飲ませたら窒息しちゃうし…。


「あっ……」


 自分の考えに顔が赤くなる……。


「これは仕方ない事、仕方ない事、仕方ない事だから…」


 言い訳のようにそう唱え、水を口に含む。そのままカイの唇に私の唇を押し当てた…。


==堂上海斗==


 微睡みから醒めると、目の前は真っ暗だった。徐々にそれが皮膚だとわかる。

 口に何かを流し込まれているのもわかる。何が起きているんだ?

 突然口内の感覚がなくなり、俺にのしかかっていた物が起き上がる。


「ぷはぁ……あ、かカイ………。これは、その……」


 綾が……。頬を真っ赤にさせていた………。


「あっ………。えっと………。わかってる……から。大丈夫だ……。ここは…どこだ?」


 今されていた事を考えて顔が赤くなる。辺りは静かで水のせせらぎしか聞こえない。


「ここは…。霧谷渓谷の…洞窟…。御伽噺の通りだった……。そこの水を…飲ませたの…」


 すぐには信じられなかったが、綾が嘘をつく筈がないと思い返した。


「じゃあ道は間違ってたのか?」

「うん……。でも…カイが無事だから大丈夫……」

「ありがとう……」


 助かったことに感謝しつつもやはり不安が消えない。


「よっこらせっと」


 体を起こし、洞窟内の様子を探る。


「ああ。これからどうやって戻るかだ……」

「ん………。歩くしか…ない…」

「だよな〜〜。な〜んにも面白い物ないし……。携帯食でも食うか」


 リュックから非常食を取り出し、開ける。ビーフジャーキーだったり乾パンだったりポテチだったり…。おい!ポテチは非常食じゃないだろ!


「あっなんか違和感あると思ったら足が痛くないからか。そうだ!この水を持って帰らないか?」

「あ、……でもそうすると普通の水が…」

「そうなんだよな……。だから俺の水筒にあの水を入れて疲れたら少しだけ飲む。綾の水筒は普通の水って感じで」


 それでも普通の水は足りないだろう。でもこの泉の水は必要だ。


「ん………。賭けよ……。生還出来るに私の一生…」

「それじゃあかけになんねぇよ。よし、行こうか」


 水筒を空にして泉から水を汲む。さぁ…帰ろう。みんなが待ってる。


==堂上唯==


 最近兄さんが冷たい。いや、冷たいんじゃなくて私と遊んでくれない…。

 中三でこんな事言ってるのもなんだが、自分はブラコンなんだろう。

 そんな中で見つけたアルバイトのチラシ。兄さんの林間学校の監督役のものだ。

 私はそれを見てすぐに学校に問い合わせた。契約書に家の印鑑と父さんの名前を書き、両親には友達の家に泊まると言っておいた。


 兄さんに会ったらなんて言おう、驚いてくれるかな?なんて妄想をしていたのも事実だ。

 でも実際は違った。家族に嘘をついた事を叱られ、すごく険悪な雰囲気になってしまった。

 今はすごく申し訳ないと思っているし、今すぐ会いに行きたい…。

 だから兄さんが霧谷渓谷に落ちたと聞いた時、すごく焦った。

 だから助けに行こうとした……。その道を…。


「塞ぐ奴は死ね!クラッシュ!」


 渓谷への道から溢れ出るコボルト達。私はそこについた途端、魔法を放つ。


「紅炎!」


 コボルト達は焼ける。するとコボルトの体内の魔石に発火して

もっと酷い火事になる。


「スコール!」


 森に燃え移った火を雨で消す。コボルト達は全滅した。正直な所チートもいい所だ。


「身体強化!ステルス!」


 私は地震に魔法をかけ、走り出す。早く着かなきゃ。

 他の教員は私が自分にステルスの魔法をかけたから気づいていない。


 行こう。兄さんの元へ。



==堂上海斗==


 走る。走る。魔物が現れるが、その横を通り過ぎて走り続ける。

 洞窟に荷物はほとんど置いて来た。綾と手を繋ぎ走る。疲れてもあの水を飲み、回復してすぐ走る。

 走れメロスって知ってるか?芥川龍之介の本。1900年代の本で結構面白い。ずっと走り続ける。そんな感じ。

 絶対に離さないと決意したこの手がある事以外なんら変わりはないかも知れない。


「ハァハァハァハァ」

「ブモォォォォ!」


 でも…その道を閉ざす者は何処にだっているんだ。





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