君に感謝するよ。君が阿婆擦れとも知らず。

 俺の雷操で動くケルベロスが唯達のゲージに捕ま………らなかった……。




「わっ!」




 咄嗟に抜いた短剣が間に合ったのはよかった。ケルベロスは短剣を避けて俺に飛びかかる。




「ギィン!」




 ケルベロスの牙が京之助の剣に当たり弾かれる。よかった……。




「助かった。来るぞ!」




 亘と綾と奈々華は周りの魔物を倒しているので後は気にしなくていいだろう。向かって来るケルベロスに短剣を横に振って右の頭を弾く。その隙に飛び込む左頭を左足で蹴り込み、真ん中の頭に短剣を伸ばす。


 京之助は尻尾の蛇を弾くのに忙しく、唯は魔法で俺を巻き込まない為に何もできない。


 短剣は躱され、食らいつく頭に短剣で牽制をかます。一進一退の攻防が続く。




「ああ!もう!埒が明かないわ!転移!転送!」




 いきなり唯が転移してケルベロスの体に触れて、ケルベロスを消した。




「おい!唯!どこに消したんだ?」


「小三の頃に行ったハワイクルーズの海の中!」




 綾の横暴に驚きつつも転送先の安否を確認する。




「今は夏だぞ!今日クルーズやってるかもしれない!」


「今のままだったら兄さんが体力切れで負けるのが目に見えてる!」


「クルーズだったらデッキに出るかもしれないだろ!乗客は武器を持ち込めないんだ!犠牲者が出る!」


「じゃあ今この時に船が転送先にいて犠牲者が出る期待値と兄さんが死ぬ期待値はどっちの方が大きいの!?」


「ケルベロスは海の中でも沈まないし溺れない!」


「沿岸だったら国が気づいて軍隊出すでしょ!」


「それだからダメなんだ!」


「何がダメなのよ!」


「唯!俺はまだ負けても無いし怪我もしていない!」


「怪我したら毒でやられて死ぬのよ!」


「解毒剤は持ってきている!」


「それでも解毒剤を飲んでる暇はない!」


「俺に触れたら俺が雷操ですぐ殺せる!よく考えろ!単細胞!」




 俺は戦いで粘性が高くなった唾を吐き出し、亘達の周りの魔物に触れて電気を流した。空気中の電子を分解した事によって起床が変化し、そこらに雨が一瞬降る。狐の嫁入りだ。


 唯はまだブツブツ呟いているが無視だ




「行くぞ。行軍は続ける」




 そこから先は特に何もない。俺がむっつりしてる所為で暗く、静かな行軍だった。出てきた魔物をすぐ殺し、終わり。


 とにかくゴールにたどり着き、生存確認して班で夕飯をとって部屋に戻り寝た。


 ただただ、イライラしていた。




====




「昨日は監督に手を貸してもらった班が1割もいる!監督の感想では班員が監督の存在に慢心しているとの事があった!


 だが今日は!昨日と違って監督はいない!自身の力でやるしかない!行軍は全ての班で行き先が違う!最悪死亡するかもしれんが自己責任だ!」




 教師がホテルの中庭で叫んでいる。脳筋ムキムキマッチョだ……。


 その癖、何故かモテると言う世の不条理を感じつつ、部屋に戻って行軍準備をすます。


 今日の行軍は班それぞれ違うポイントに転移し、ホテルを目指す。ちなみにこのホテルは全方位を森に囲まれている。


 国の方針で全トップクラスの学校が利用しているのだ。まぁいいや。




「では、お気を付けて。転移」




 他人行儀な唯の言葉をちくわ耳に通して行軍を始めた。




「カイ………」


「ん?」




 行軍をする事3分で綾がいきなり俺の頬にキスをした。突然の事で足が止まる。




「あ、ああ。すまない。いや、ゴメン。雰囲気悪くしてた。よし!元気に行軍するぞ〜〜〜!」


「オー!」


「お、オー?」




 俺は綾より17年長く生きてるのにダメダメだな……。イライラしていたのがすぐに晴れたのは綾パワーかな?


 気分を入れ替え、森の中を進んでいく。頼りになるのは方位磁針だけだ。




「そう言えば海斗の昔の話、俺たち聞いてなかったな」




 京之助が話題を持って来てくれた。




「ああ。そっか、そう言えば前世がどうたらこうたらって言ってたけどナチュラルに納得してたわね」


「まぁそれは亘と綾が援護してくれたし奈々華は信じるよな。京之助は騙されやすそうだし」


「ひどいな!そこまで俺は騙されそうか!?」


「ああ。結婚詐欺師と一生を紡いでいきそうだ」


「おい!」




 下らないことで時間を潰して暗い雰囲気を塗り替えす。時々出て来た魔物は直ぐに倒して魔石を回収する。


 そんな感じで順調だった。その時までは……。




 原因は俺の注意力が足りなかった事だろう。崖道を進んでいる時に現れた一匹のゴブリン。俺が先頭だったので短剣を抜き、立ち位置を変えた。その時。


 地面が崩れた。




「カイ!」




 予想外の事態に体が追いつかない。綾が伸ばす手がスローに見える。俺は手を伸ばすも届かない。そして…勢いで綾まで落ちてきた。


 咄嗟に綾を抱き抱え、ガケの中央でなんとか岩にしがみつく。


 見上げて亘達に報告をする。




「ここから登ることは無理そうだ!転移でなんとか出来たらいいが京之助が降りるのはリスキーだ!そっちの戦闘力が減る!


 ここら辺の地図は覚えているし持ってる!崖を上る道はホテルに繋がってるから!食料だけ落として先に行ってくれ!」


「了解!」




 亘の声に俺は岩を離し、落ちていく。そしてある程度速くなったらまた岩を掴み、だんだんと高度を下げていく。そして、崖下までたどり着いた。




「こっちは降り切った!食料を落とせ!」


「これから食料を落とす。袋に詰めたから結構重い!気をつけろ!」




 俺は前世で独りぼっちの経験が多かったから当然だが、こんなに冷静でいられる亘は強者だ。


 落ちて来たリュックを避ける。大きな音を立てて土煙が上がった。




「OK!異常なし!先に行って教師呼んできて!」


「了解!それまで生き延びろ!」




 そう言って亘達は去っていった…と思う。なにせ下からは上が見えないのだ。きっと大丈夫だろう。こっちも進むか。




「カイ……。ここ…霧谷渓谷……」


「ああ。そうだ……。強〜い魔物がいっぱいいる」




 心なしか震える声。戯けてみるも不安は紛れない。


 霧谷渓谷……。幅10m、高さは20mと以外に小さい。だが、魔物の強さは半端無い。濃霧が発生しやすく、さらに磁力が強いので方位磁針が狂う。


 この先ホテルとその反対側に向かう道は似たようなもので上には常に霧が漂い自身の位置がわからなくなる。




「綾。どっちかわかるか?」




 地図をさっきから眺める綾に聞く。




「わからない。道の曲がりも見えないから……。逆方向に進むとどんどん魔物が強くなるだろうからそれで判断するしか…。太陽の位置も正確にわからないし……」


「綾。じゃんけんだ。俺が勝ったら俺側、綾が勝ったら綾側」




 じゃんけんの神様は価値を運ぶだけではない。時に二者一択の運命を運ぶ神様なのだ!




「ん……。いいと思う。ジャンケンポン」




 俺がグーで綾がパー。綾の勝ち。




「じゃあこっちだな。行こう…とその前にこれ」


「ん……。ありがと……」




 綾に短剣を渡す。綾がそれを腰のベルトに挟むのを見て歩き出す。


 すぐにコボルトとエンカウントした。短剣を腰から抜き去り、構える。


 さぁ、勝負だ。

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