僕は君が好きなんだ。君の本性を見もせずに。

「俺と、綾と奈々華と亘と京之助。おっけーだな」


 俺は教卓から取ってきた紙に名前を書き込む。


「あのさ…。頼むから4人は夜に何か変な気は起こすなよ。起こしても……。1キロは離れてくれ」

「いや、流石にしないでしょ!」

「心配しないでもいいわ。性なる夜にはしないから」


 京之助と奈々華が揃って言い張る……。え?


「亘……。無理だ………」

「なんで!?」


 俺の声に綾が頷く。だって……。


「俺綾と並んで寝るの初めてだし…」

「お隣さんと言っても中学の時に私が転校してきて知り合っただけだもん……」

「「そりゃ……。何か起きちゃうだろ(よ)……」」


 俺と綾の声は同じ事を言う。俺、精神、肉体共に童貞だからな。


「やめてね!いたたまれないから!やばいから!綾に欲情しちゃうよ!?」

「ムゥ…。我慢する…」


 亘の脅迫に俺は口を閉ざす。綾に欲情してしまうのは綾が可愛いので仕方がないが、彼氏の身としては嫌だ。


「じゃあ出して来るな」


 俺は紙をペラペラさせながら教室を出る。そうそう、ひとつ変わったことがある。

 最近色々な生徒が俺と綾を見て吐く真似をするのだ。理由は考えられるとしたら二つ名ぐらいしかない。

 二つ名の所持者の特権は学食半額、校外でも自由に名乗れる、かっこいい、ぐらいだな。あと卒業式とかの行事でも使われたりする。


 階段を3段飛ばしで降りる事2階分。職員室に突入し、班決め箱に提出して栞を数枚奪って撤収!

 と思ってたらぶつかって尻餅をついた。


「あっ!ごめんなさい!すいません!怪我ありませんか?申し訳無い!」

「あっ!すいません。ごめんなさい」


 立ち上がって侘びを入れる。相手は滅茶苦茶オロオロしてる。

 頭を上げて相手の全貌を見る。オウ!893!

 俺と同身長の筈の彼は猫背で常時下から睨み上げるような体制、天パであろう髪は目にかかっていて、辛うじて見える上ブチの青い眼鏡が目つきをより一層悪くさせる。

 893の鉄砲玉みたいだ。


「すいません。ごめんなさい!」


 そんな彼が俺に必死に頭を下げる。周りからは奇異な目で見られる。そりゃそうだ。一見柄の悪い生徒が俺に頭を下げているんだから。


「ちょっと待った。大丈夫だから。オーケー?。理解?」


 そしたら893君はホッとした顔を見せる。やべ。めっちゃ目が綺麗。口元は普通だが目元がめっちゃ綺麗。

 あれ虹彩の色……?髪の隙間から見えた虹彩。一瞬違和感を覚えるがすぐに隠される。見間違いか……。


「オーケー。めっちゃ理解。超絶理解」


 突然ノリが良くなったな……。まぁいい。続けよう。


「どっちも怪我は無い。どっちも悪い。このゴタゴタ終了」

「イェッサー。終了。ほな失礼」


 そしたら予備動作なしで走り出した。って速!いや、確かに速いが別段速い訳じゃ無い。でも、すれ違う人の直前でステップを踏み、華麗に回転して進んでいく。

 人が多く行き交う廊下であの速度で動ける自信さ。最小限に抑えた無駄な動き。回転時に伸びる893君と名付けるにはしなやか過ぎる腕。

 なんかあるな……。


 俺はそう考えて3段飛ばしで階段を上る。上がりきった頃にはもう忘れていた。


ーーーー


 林間学校。建前は生徒に魔物狩人の体験。まぁはっきり言うと魔物の間引きだ。


 夏は春に繁殖した魔物が成長し、人街に出てくる時期だ。普段は自衛隊や、民間の魔物狩人が間引いているがそれでは足りない。だから林間学校の名目で生徒に手伝わせる。

 魔物狩人は確かにレアな魔物に勝って素材を売れば一攫千金にもなる。あと、魔物は動物と違い、魔法の発現に合わせて登場したもので、人に危害を加えるので多くの動物愛護団体は駆除に賛成し、名目上の為魔物と呼んだ。


 動物愛護団体の批判という方も居るかもしれないが、動物愛護団体の多くは可愛いい動物だけを守り、少なくともハイエナを援護する輩はそう多く居ないだろう。

 結局人間至上主義なだけだしな。内部のしがらみとかあるかも知れんがそこを考慮する義務は俺に無い。勝手にしがらみに絡まってろ。


 おっと話が逸れた。

 しかし魔物狩人は当然死亡率が高く、それだけの実力があるなら他の職に就いた方がいいって人が多いので人材不足が現状だ。


 そこで生徒の登場と。今年は生徒だけで森の浅い所をぐるっと通って出て来た魔物を駆除。

 その後、教師と共に奥へ入り魔物を間引く。素材などからの収入は全て内閣の魔物駆除庁に寄付される。

 ふざけんな。


 唯は俺の出発日に仕事があって俺より早く家を出るそうだ。学校まで送ってもらいたいんだが拒否された。人に頼ると自滅するだって。俺の方が数十年人生行きとるわ!

 こんな子に育てた覚えはないのに………。


ーーーー


「夏だ!遠出だ!ハイキング!」

「魔物いっぱい狩ってやる!」

「遭難、死亡と危険がいっぱい!」

「言霊宿ってカイトが死亡!」


 馬鹿騒ぎと人は言ふ。しかし楽しいのでやめられん。


「ふぁ……。おはよ……」


 綾を除く4人でバス前ではしゃぎまわってたら綾が来た。日の出直後なので結構眠そうだ。本日7月28日。林間学校の始まりだ!

 スーツケースを持ったまま、担任に出席確認を済ませ、転移の列に並ぶ。


「いや〜。楽でいいな」

「亘、ほんとそれ。だって魔法の発現直前の科学文明でも東京から大阪まで30分だろ?」

「まぁでも疲れるし?しょうがないわよ。しかも京ちゃん、500キロ30分は間違い。45分よ」

「我こそはガムを噛みたい者!集え!」

「ふぁ………」


 3人の議論を横目に革命者っぽく言って綾にガムを渡す。綾は眠そうに口に放り込んだ後、数回噛んで目を見開いた。


「きゃ、きゃっ!きゃらい!きゃらい!おみずおみず!」


 ガムを吐き出し、列を向けて給水所で口をすすぐ綾。


「きゃ!冷たい!ひゃっ!」


 水を飲もうにもミントが強すぎてスーッとするので飲めていない。いっつも口数少ないクール系が慌てるなんて……。やばい……ちょー可愛い……。

 その後、必死に少しずつ飲んだ綾。そこまで辛いか?


「カイ…。嫌い……」


 そう言ってそっぽ向く綾。ヤバイ萌える。


「ごめん。そこまで辛いとは思わなかったんだよ。悪気はなかった。済まん」

「もう………」


 頬を膨らませ俺の足をコツコツと蹴る。どうして綾はここまで可愛いんだ?


「はい。次の班、来なさい」


 いつの間にか列は進み、転移は俺たちの番になった。仮の転移室に入る。転移室とは只の部屋で、転移による接触を防ぐ為のものだ。

 それはいい。それより行こうか……。


「はい、どうも…………。兄さん!」

「おい!唯!なんでここに!?」


 そこには唯がいた。いや、なんで?


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