3章 〜私は貴方に幸せになって欲しいの。たとえそれが偽りの世界でも〜 

 I want you to be happy. Even if it is a false world

目の前の嘘をそのまま信じ、そうやって甘い恋路は続く。

「カイ!」


 私は突然倒れるカイを抱き止める。カイの背中は穴が空いていて、抱きとめた私の手はすぐに血塗れになる。

 なんでこんな事になったのかはすぐにわかった。現世からの仮想世界への干渉……。あいつしか考えられる奴はいない…。私はすぐにそこらへんの屍に転がる剣を手に持つ。

 剣は私の顔を写した。滑らかに動く腕は氷の様に一瞬固まって、その後私の喉を貫いた。


====


 ああ。そっか……。病院か……。夢から覚めて見る天井は既視感があった。

 俺の右手を柔らかく握る綾が寝ていた。俺の胸は包帯でぐるぐる巻きにされていて起き上がろうにも起き上がれない。

 そうか…デジャブだな……。中学2年の金崎の兄にやられた時と同じだ……。あの時も綾がいてくれた…。

 雁字搦めの自分を見下ろして思う。情けないな……。綾はここまで俺のこと気遣ってくれてんのに…あの阿婆擦れのことを夢に見るなんて…。しかも偽物でも幸せだと感じる始まりを…。はぁ。


「ん………。あっおはよ…」


 綾が微睡みながら俺に笑顔を向ける。


「おはよ。ありがとな……。今何時だ?」

「カイが寝てから二日後の午後3時…。んっ…ふぁ〜……」


 綾は大きく伸びをして欠伸をした後、足元のカバンを触る。中から出したプリント類を机の上にドンと置く。


「お、おい……。まじか……。てかそれより医者は?呼ばなくていいのか?」

「あっ……。呼んでくる……」


 綾は病室から出ていった。俺は目の前のプリント類を見る。上数枚は今回の事件の真相。そしてサバイバル大会の生存賞。そして授業プリント数枚だ。


「はぁ……。手塚が俺を刺したと……。で?手塚を警察に突き出し裁判やってると……」


 事件の真相がつらつら書かれた紙を斜め読みし、次の紙を見る。


「こっちは……。生存賞か…。あれだな、長く生き残ったやつ…。で?チーム順位が20位、個人順位が…5位か……。って何?二つ名とか何それ?」

「あっ堂上君。目が覚めたようだね。じゃあ診察するからちょっと失礼…」


 ドアから顔を出したのはアフロ頭のメガネをかけたおっさんだった。俺の体の異常の有無を確認していく。


「うん。大丈夫そうだね。きになる事は?」

「えっと……。入院日数は?」

「長くてあと三日かな?常時安静ね。トイレは付き添いに誰か付いていってもらうこと。OK?」

「はい」


 そう言うと医者は扉から上機嫌で出ていった。俺は机のプリントを見直す。


「ふふ。二つ名だって。おめでと、カイ」


 綾が笑いながら椅子に座る。俺はジト目で睨む。


「綾。わかってて言ってるだろ…。めっちゃ恥ずかしいんだけど」

「でも拒否権はないの……。賢者様とか?くふふっ…」


 綾は口を手で覆い上品に笑っている。


「綾は何位だったんだ?」

「私は…10位」


 10位ならギリギリ二つ名を持つことが出来る順位だ。ちなみに二つ名は何故か個人順位で10位以内の生徒に付ける制度だ。下らない。非常に下らない。厨二病じゃないんだ。やめてくれ。


「綾は何にしたんだ?」

「私?……。聞くの?」


 綾は恥ずかしそうにする。手を足の上でモジモジさせ、顔を赤くさせる。かなり恥ずかしいみたいだ。俺は横のポットから紙コップに注ぐ。


「じゃあ、教えてあげる…」


 そう言っていきなり俺の耳元に口を近付ける。近い…。手が震えて水が溢れそうだ。その前にコップを口につける。


「キャイシャマニョキシャキ…」

「ブッ………。ゲホ、ゲッホ、ゲホ…。なんだって?」


 口から水が噴き出かけた。慌てて飲んで咳き込む。かなり噛んでいたが意味が分かった気がする……。聞き間違いな事を願おう……。


「だ・か・ら……。カイ様の妃って……。ん〜〜〜〜!」


 言ってからかなり悶えている。まじかよ……。えっ!?か、カイ様の…妃?


「ちょっ、おま、綾!か、か、か、k…」

「カイ様の妃…」

「そう!それだ!か、か、カイ様の妃って本当にそう出したのか!?」

「ん……。カイ様の………くふふ……」


 目の前が真っ黒に染まった。もうどうすればいいいんだか……。

 横で悶えつつも嬉しそうにするバカを見て心の箍が取れた。絶対に取れちゃいけない理性が…。


「じゃあ俺もこうしてやる!」


 俺は自分をバカだと念じ続けながら、二つ名の希望用紙にデカデカと書き殴る。後で絶対後悔するし、すぐに書き直してしまうだろうから、消せない様にボールペンで。強く。しっかりと。


 そこには……。『綾様の王配』と。王配は女帝の婿のことだ。

 綾が身悶えをやめて紙を覗く。そしてまた、嬉しそうにした。可愛すぎる……。綾神と呼ぼう。


「ん……。綾様の王配…。いい…。しゅき……」


 綾神は俺に抱きつく。それに応えてやりたいのだが……。


「痛い痛い。やめてくれ」


 綾神の背中を軽く叩き、退いてもらう。傷が痛むぜっ!でも綾神の抱擁は嬉しいぜ!


「ん……。カイ多分破りたくなっちゃうからしまうね…」


 綾神はカバンに希望用紙をしまい、筆箱を取り出した。


「ま、まさか……」

「これ…課題プリント……。数学はいいとして社会……。白地図埋めてね……」


 綾神は非情にも無理難題を仕掛けてきたのだった……。くそっ……。





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