神のいたずらは我々を

 手に短剣を掴みオークに仕掛ける。決意した主人公の様に重傷を負っているのに動きが速くなるなって事は無い。足取りはよろよろで歩くより遅い。腕の動きはオークを焦らす程遅かったりする。

 オークの袈裟懸けだってギリギリで避けるし、その後の下段回し蹴りはオークの足にしがみ付くザマだ。しかも遠心力で吹っ飛ばされる。

 それでも、それでもっ!動き続けるのが生き物ってもんだろ!

 立ち上がり、また、よろよろとオークに向かう。短剣を握っていた手はいつの間にか空を掴む。それでもオークに向かって進んだ。ゾンビの様に。いや、ゾンビとなってでも。

 譲れない想いはある。俺の身体能力は悪く無い。むしろ素晴らしくいい。勇気もある。努力もしてきた。それでもやっぱり主人公では無い。それでも、主人公では無いんだ。だから勝てないかも知れないし、逆に死ぬかも知れない。

 いくら俺の世界では俺が主人公なんだとしても、俺は主人公じゃ無い。それでも、最後まで生き残るモブである自信はあるんだ。

 オークはびくりと体を震わせた。俺はオークに向かって進む。腰の最後の一本の短剣を掴みオークの肌に当てる。

 オークはようやく反応し、棍棒を下から上に振り、俺を打ち上げる。木は全くなく、真っ直ぐ速度を落として上がっていく。股関節は完全にぶっ壊れたろう。俺の口からは絶叫が木霊する。雨は俺の背中に強くあたる。

 俺は落ちて行く。どんどん落下速度は速くなる。オークのハゲ頭が見える。俺は痛みをこらえて短剣をしっかり掴み落ちて行く。そして…それはオークの禿げた頭にぶっ刺さった。俺は腕にかかる衝撃に耐えきれず、短剣から手を離し、地面にぶつかった。

 オークは絶命し、ズシンと地響きを立てて、後ろに倒れた……。


 これが、俺とユキの交流の始まりだった…。





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