俺が語る阿婆擦れは、今は変わっているだろか。

 大きなオークだ。俺がユk…阿婆擦れ……。いや、意地を張るのはやめよう。ユキを後ろに下がらせたのは責任感だ。ユキを買う事をやめさせてしまった事でユキは洞窟にいるんだ。そう考えてしまった。あの頃はつくづくお人よしだったと思う。


「なんでオークがここに……」


 口から漏れる疑問。ここは森の入り口からそう離れていない。俺の活動地点でさえ、オークはいないのに…。群れから逸れて雨宿りしに来たのか?

 様々な疑問が浮かんでは消えを繰り返す。

 でも、オークは答えが出るのを待ってくれなかった。オークがこちらに向かって来る。同時に雷が目の前に落ちた。本物の偶然だ。

 俺はその雷を操り、オークに向かって放電する。散らばる閃光が俺の目を眩ませる。


「やっ…」


 オークは突然俺の目の前に現れ、俺の胸をアッパーで殴る。為す術なんか何もある訳が無い。意識は途切れなかった。自分がオークから離れて行くのがわかる。

 オークの姿はボクシングのチャンピョンの決めポーズみたいなのをしていた事が鮮明に思い出せる。

 刹那、俺は洞窟の壁に叩き付けられた。そして落ちる。ユキは怯えて震えている。オークがこちらに向かうとするのがわかる。それをされると俺より前にいるユキが見つかってしまう。

 息の仕方がわからない。肺一杯に空気を今すぐ取り込みたいのに出来ない。手を地面について立ち上がる。


「ぐぅ……。がっ…」


 か、勝てない……。恐怖で身が震える。強い相手が怖いんじゃない…。怪我させられたから怖いんじゃない。

 だた単に勝てない…。


「グォォォォォ!」


 勝利の雄叫びの様に叫ぶオーク。震える空気でさえも俺にダメージを与え、恐怖心を煽る。なんだ……。この敵は……。

 歯を食いしばり、目をぎゅっと瞑る。真っ暗だ。目を強く瞑るせいで目が痛い。怖い。手に持つ短剣がカタカタ揺れる。怖くても動けば何か偶然が巻き起こるんだ。それが奇跡なんだ。


「動け!動け!動けよ!おい!動け!」


 震える膝を鼓舞する。膝を叩き泣き叫ぶ。オークは俺に走り寄って来る。刻一刻と迫って来るだろう拳。

 言う事を聞かない膝。今にも崩れそうで……。俺は恐怖に支配され、思考能力が落ちた頭で思い付いた。

 俺の膝は崩れ落ち、洞窟の床に跪く。俺のすぐ上を走り去る豪腕。目の前にはオークならではの逸物があった。

 それを見た途端、気が抜けた。


「はは…」


 震える膝は嘘の様に滑らかに動きそうだ。俺は地面を転がり、追撃の地面に叩きつけられる棍棒を避ける。立ち上がって短剣を手の中で滑らかに滑らせる。

 横振りの棍棒をしゃがんで避け、試しに右手の短剣を投げる。短剣はオークの腹部に小さな刺し傷をつけて落ちた。すぐさま腰の短剣を逆手で抜き、オークの中段突きを短剣をクロスさせ、受ける。も、威力が強く、飛ばされた。


「ぐっ…」


 間合いを詰めるオークを見て、俺は洞窟から出て右手の短剣を逆手から順手に持ち替え、その入り口の壁に背をつける。突風の様に出て来たオークの体に短剣を滑らせるも、腕は鋼鉄の様に固く、擦り傷しか作れなかった。

 そしてオークはすぐに俺に棍棒を縦振りして来る。横に飛び前転で回避し、オークを睨む。


「グォォォォォォォォォォ!」


 涎まみれの口から怒号が飛び出る。無様でもいい。避け続けろ。大丈夫だ、怖くない。避けて逃げて隠れて逃げて………、何になる?

 ループしだした思考は棍棒を地面から抜き取ったオークの横振りで覚める。咄嗟のブリッチで避けた…が、頭が地面に衝突する。


「グッ!」


 短剣を捨て、頭を抱えて飛び起きる。もう数秒もしたら正常に働かないだろう。腰の短剣を3本残して全てオークに投げる。オークのタゲは取れた。オークは俺に向かって走るがそれほど速くはない。

 森の中を駆け抜け、木にぶら下がる蔦を後ろに振り払い、少しでも差を詰めさせない。

 でも、頭は衝撃で朦朧としだし、酷使する心臓は悲鳴を上げる。膝はガクガクに笑い、歩くことすらままならなくなった。そして速度が下がると追い付かれるのは当然の話で……。それでも今も思う。なんでユキを助けてしまったんだろうってね。


「グロォォォォォ!」

「っ…………」


 オークのアッパーは俺が下手に躱そうとしたせいで足の付け根に当たって俺を打ち上げる。顔を木の枝が鞭の様に何度も叩き、鋭利な枝先は俺の肩に中途半端に刺さる。足の付け根を力点としてどこまでも上がる体。でもどこまでもなんて比喩でしかない。俺の体は森の木の上まで上がり、万有引力で落ちて行った。

 今度は血塗れの後頭部を枝が一瞬支え、しかし棘の様な小枝は容赦無く俺を刺す。それでもお陰で落下速度は落ちて行く。だから骨は奇跡的に折れなかった。


「ギッ!」


 衝突は俺の呼吸を止め、体には痛みが電撃の様に走る。服はとうの昔に裂ている。苦しい、辛い。痛い。それでも怖くない。死にたくないし、俺に死を運ぶオークは怖い。でも死は俺がオークに運んでやる事だってできる。それだけが一縷の望みで、俺を動かし続ける糧なのだ。

 分かっている。自分がオークに勝つ事などそうそうないと。

 分かっている。白馬の王子様なんて居ないし、まず俺は主人公じゃない事も。

 分かっている。本当は死が怖くて怖くて早く死んで無くなりたい事も。

 分かってる!


「わっ!んだ!」


 ボロボロになった体から振り絞られる声は途切れ、本来の意味を為さない。意思の伝達じゃない。俺を鼓舞し続けるんだ!

 寄ってくるオークは俺が動いたのを見て足を止める。

 立てよ!オークに勝てないかも知れないんだろ⁉︎「かも」なんだろ⁉︎希望はあるんだろ⁉︎

 立てよ!白馬の王子様が居ないなら俺が成ればいいんだろ⁉︎

 立てよ!死が怖いなら生に縋れよ!死に恐怖する事すらも生の楽しみと受け取れよ!死んだら何も感じられないんだぞ!

 立つんだ!動くんだ!


「動き続けてやる!」



〜〜〜後書き〜〜〜




( ;∀;)「なんか書いてて泣けてきた。なんでこんなにオルトの前世は辛いんだろ…」

( *`ω´)「お前の所為や!」

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