角が無くても突進は痛いんだ。例えそれが兎でもな。


『3分後、フィールドの縮小を始めます。縮小対象区域は第一校舎、東館です』


 頭の中にアナウンスが流れる。


「うわ〜。西館って俺じゃん」

「亘、気を付けろよ。多分廊下で鉢合わせするだろうから」

「亘、近くの通風孔から入って7m西側に進めば渡り廊下よ。トイレから入って」

「了解」


 須藤が的確に指示を飛ばす。うん。司令塔としてよくやれてる。ん?なんか上で鳴ってるな…。まあいいか。


「カイト、男女2人ペアが接近中よ」

「今年は速いわね」

「ああ。1年に肝のでかい奴が多いんだろ」


 須藤の警告の直後に外から声が聞こえる。話している事からして2年だろう。ここは…。


「じゃあ今年もイモr…グッ!」


 入って来る2年に向かってノータイムで打つ。そのまま銃を女にも構える。


「裕太!あんた一年ね!」


 女が俺をキッと睨んで腰から剣を抜く。俺は引き金を引いた。が、球が出ない。焦らず銃を捨て、ヌンチャクを取る。


「パイセン。お話ししませんか?」


 男が負傷しているとは言え、2対1は辛い。相手の強さは未知数だ。


「アンタと話す事は無いわ!ヒール!バインド!」


 俺は魔体をヌンチャクで弾く。相手は剣なので迂闊に切れない。男の傷口は一瞬で無くなった。かなり強そうだ。


「有難う、翠」

「クッソ。行くぞオラ!」


 暴言を吐き捨て2人に近寄るも、普通に躱され、挟まれる。


「フラッシュ!転移!バインド!突風!」


 女がいくつもの魔法を放つと同時に後ろから男が剣を振り上げる。ヌンチャクを前に振って魔体を弾きつつ女の目の前に行く。女は驚いた顔をしている。流石に突っ込むのは無いと思ったのか。

 女の剣をヌンチャクでずらし、後ろの男の突進をギリギリでしゃがんで躱す。そして女の股を潜って銃を拾い、弾をリロードする。


「ウグッ!」

「翠!ああっ!」


 どうやら男が勢い余って刺してしまったみたいだな…。俺は立ち上がって尻に着いた塵を払ってヌンチャクをベルトに挟み、男と向き合う。そして回復魔法を使わせない為に倒れる女の首に手刀を落とし、気絶させ、銃を男に向ける。男はを捨て、俺を睨む。懸命だ。銃に剣で対抗するかと思ったが…。


「すまんな。えっと翠先輩だっけ?魔法使われたく無いんだ。それとも殺そうか?」

「よそ見してんじゃねぇ!」


 突然男が襲って来る。銃をぶっ放すが、避けられる。隙のない回し蹴りをしゃがんで躱し、そのまま金的する。それを下段受けで止められ掌底打ち。仰け反ってからの前蹴り。

 床に転がっている女を踏まないように気を付ける。一進一退の攻防が続き、一旦止まる。小声で須藤の質問に応答する。


「おい。一年。名前なんだ?」

「人に…名前聞くなら…自分からだろ」

「そうか…ならいい。翠を踏まない様にしてくれた事感謝する」

「へぇ、なんだよ改まって」

「お前は終わりだ」


 地面が抜ける。男の顔がドンドン自分より高くなる。反射が遅れるが、なんとか淵に捕まった。銃を持っているので片手でしか掴めない。なんだこの魔法!


「よく動けたな。メイドの土産に教えてやる。これは西洋術だ。落とし穴みたいなものだと思っとけ」


 西洋術。主に土や水に関する魔法。言魔法の次にポピュラーで、その次が杖術、陰陽師、仙術…と続く。割合としては順に70:10:8:7:3だ。残りの2はその他だ。だが日本は98%が言魔法でそれ以外の魔法は珍しい。こんな奴が敵かよ。おい!

 男が俺の手を踏む為に足を上げる。力を振り絞って片腕で体を持ち上げてよじ登ろうとする。間に合え!少しでも時間を!

 そう願って直後、ドスン、と音がする。


「ふぅ。間に合った間に合った」


 そこには男の上に乗る京之助が居た。


====


「京之助!そのパイプ椅子収納台車の奥にハッチがあるでしょ!」


 私は京之助に指示を出す。確か京之助の居る所の台車は椅子が入ってないので進めた筈…。舞さん情報が確かならある筈……。


「あった!壁についてる!」

「そこの中に入って今から言う通りに進んで!」

「こちら亘。危険区域脱出完了」

「OK亘。京之助は入った?」


 混乱を防ぐ為、今は私と全員通話しているが、グループで無く個人で回線を繋いでいるので忙しい。着けているVRの画面に映る、通路と全員の位置を示す緑色の点を睨む。


「そこを右!そしたら直ぐに梯子があるからそこを降りて梯子の方向に真っ直ぐ通風孔の三つ目!」


 京之助に指示を出しつつ皆の所在地の近くの監視カメラの映像で敵の有無を確認する。確かにちょっと難しいわね…。


「カイト!今京之助が向かってる!あと何秒?」

「もって10秒」


 カイトに状況を聞く。


「よし、ここから梯子方面に通風孔の2つ目通過!戦闘音の確認あり!」

「OK!そのまま直ぐ降りてカイトの救援を!」


 間に合って!お願い!速く!心の中で叫ぶ。無言が続く今、時間が長く感じられる。空気が張り詰める…。


「ふぅ。間に合った間に合った」


 呑気な京之助の声が聞こえて胸をなで下ろす。


====


「京之助。そいつ西洋術者だ。さっさとやるぞ」


 穴からよじ登り、直ぐに銃を男に向ける。


「まじか!よし!や…や…やろ……」


 最初の一瞬だけ威勢がよかったな。やっぱり人殺しは出来ないよね。京之助を直ぐに退かせて銃を撃つ。


「グッ!」


 男のうめき声と共に頭の中にログが流れる。そしてそのまま振り返って女にもう一発入れた。


「な!な、な……」


 言葉が全く出せてない京之助。


「どうした?全く声が出てないぞ?」


 京之助の方を見つつ、扉に向けて数発撃つと合計殺害人数が、26人になる。銃をクルリと回してベルトに挟む。扉に顔を向け、ぼーっとする京之助。インカムの向こうも黙りっぱなしだ。俺は倉庫にある椅子に座った。


「京之助。『簡単に死んで、簡単には死なない。簡単に殺せて、簡単には殺せない』意味がわかるか?」

「あ、あ、い、いや、わからん…」

「病気とか事故とかテロとか自殺とか怨霊とか…。人が死ぬ方法はいっぱいある。でもいざ死のうと思っても人は死ねないもんなんだな。恐怖心とか苦痛とか…そう言う感情で死ぬ道を閉ざすんだ」

「あ、ああ…」

「そしてな。交通事故とかちょっとした喧嘩とか殺す道筋もいっぱいあるんだ。でもこっちも同じく殺そうと思っても殺せないもんだ。殺したくなる程憎い時があっても大概は結局殺せないし殺さない」

「そ、それで?」


 息を吐き。前世を思い出す。自分で言うのもなんだがタバコが似合いそうな息の吐き方だな。


「殺生をしないってのは相手の生をちゃんと見てるんだな。お前だってアリンコ潰す時に全く罪悪感を感じない事あったろ?でも人は殺せない。確かに事後処理とかそう言う理由もあるけど一番は相手の生を見てしまうんだ」


 京之助は理解出来ないと表情に表す。


「この学校から自衛隊に勤めてる人が多いのは殺人経験があるからだ。昔は違ったそうだけど今は仮想空間で殺人出来ない奴は広報部とかにしか勤められない。もしもの時の自衛隊なのに、目の前に敵が居るのに殺せない奴は意味が無いんだ。

 つまりな。相手の生から一回目を逸らすと相手を殺しちまえるんだ。一回殺すと歯止めが効かないんだ。今は俺が居るからいい。でも」


 俺は立ち上がって亘の肩を掴んで目を覗き込む。


====


「この学校に入ったからには殺人するしかない。その時、お前は自分も殺すんだ」


 覗き込まれる恐怖に必死に抵抗する。こいつは何を言いたいんだ?海斗の声は海斗じゃ無い様にも感じる。海斗の目は海斗じゃ無い。海斗の目の奥には海斗と違う人が居る。居座ってる。


「まっ、最後のはカッコつけだけどな」


 そう言って肩を離される。少しよろめくが、恐怖と言う感情が晴れ、落ち着く。と思ったらまた掴まれた。


「死に恐怖を。生に警戒を」


恐ろしく低い声が耳に響いた。





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