真の恋の兆候は、男においては臆病さに、女は大胆さにある。

・The first symptom of true love in man is timidity, in a girl it is boldness.



「昨日は体力測定お疲れ様でした」


 担任が朝礼で言う。


「さて、入学三日目ですが…これから一週間は授業はありませんし、登校する必要もありません。最終下校時刻の午後6時には学校から出るように。ですが、来週末にある校内サバイバルに向けて友好関係を深めて下さい。クラスは勿論学年も関係ありません。準備期間中に、学校の物品を壊す、他グループのメンバーを傷付ける、などのルールを破ると出場不可です。栞を配りますのでよくルールを確認して下さい。質問は自由ですが、毎年質問が殺到するので必ず聞いて下さい」


 来た。この学校は行事が多い。しかもその大半が校内1位を決めるものだ。


「まず、大会時ですが皆さんは我々教員の作る仮想空間に行ってもらいます」


 仮想空間…。教師全員で創造しその中に入る。その時に俺らは仮想空間への入室を許可すればいいのだ。仮想空間は実感もあれば自由に動ける。簡単に言えば超凄いバグのないVRみたいなものだ。そして仮想空間を作る時その範囲内にある物を全て再現する。つまり武器などもだ。


「毎年我々教師の言う事を無視する生徒がいますが、仮想空間への入室を拒否しないように。そして、仮想空間から出ても周りの生徒を傷付けないように」


 担任のメガネが光る。俺は呼吸が詰まった。その目は誰かを冷ややかに蔑みながらもその奥に憎悪があった。

 その後、初めて笑った。と言っても悲しむような諦めたような笑い方だった。


「グループについてですね。グループは10人まで。勿論ソロでも構いません。(グループのKill数/メンバー数)/人数値*10+(母体ーメンバーの平均順位)がポイントとなります。グループ値はしおりに書いてありますので熟読して下さい。1位のグループには特典があります。グループ申請は前日午後5時までです」


 グループ値はソロとタグの差を無くす為のものだ。


「大会の初期範囲はこの学校の敷地です。どんどん狭まりますがその範囲は皆さんに伝えます…。以上。上級生の勧誘に関しては自己責任です」


 そう言って担任は出て行った。一気にクラスが騒がしくなる。昨日の体力測定で成績が優秀な奴に取り入ろうとしているのだ。え〜っと。この学校は1クラス20人で、10クラスあってそれが3学年。でも2年以降は1クラス15人の6クラスしかない。つまり380人か…。


「海斗。組もうぜ」

「勿論だ。綾もだろうが……。なぜそいつが居る?」


 綾の腕を掴んでいたのは須藤だった。


「そいつとか言わないでよ。バカイト、私綾ちゃんと結構親しいんだよ?」

「ん……。奈々ちゃんとは一緒がいい……」


 まじかよ……。性格真反対じゃん。


「でもこれ勝つためだし……」

「だったら綾ちゃんも必要なくない?」

「なっ!それは……。綾を他の奴に取られたくないだけだし!」

「ムゥ……」


 綾が膨れっ面する。


「私だって戦える……」

「でも、危険な……」

「お〜い!あっ!いたいた。海斗。組もうぜ」


 教室に堂々と入って俺の机に手を置くのは……。京之助だった。あれ?性格が……。お陰で、中山篤がビクって起きた。


「誰?こいつら?」


 京之助は俺以外の3人を指差す。はぁ。


「お前自分のクラスにタグ組む奴居ないのかよ」

「居ない!」

「そんな自信満々に……って!わかった!違和感!お前一人称が僕じゃなくて俺になってる!」


 違和感に気づいた。京之助は一人称が僕の筈だ。


「それは、黒歴史の副作用だ!いつもは俺だ!」

「ごめん。誰こいつ?」


 困惑していた亘が俺に聞く。ああすまん。空気にしてたな。


「あいつだ。京之助。正義君」

「ああ!そいつか。いいんじゃないの?」

「でも……」

「入れなさい!私が入るんだから彼も入れなさい!」


 須藤が俺の耳元で怒鳴る。なんでだよ…?てかお前が入る事は確定してないからな!


「いいか。俺は……」

「カイ……。カイは私と同じグループがいい……。でしょ?」


 綾に静かに説かれる。


「ああ。そうだ。でも綾……」


 口を人差し指で閉じられる。うっ。ダメだ。喋れない……。嬉しすぎて。


「私は奈々ちゃんと一緒がいい。奈々ちゃんは京之助君と一緒がいい……。わかる?」


 俺はコクリと頷く。


「京之助君カイと一緒になるのを望んでる……。つまり三角関係……」


 そう言っててで三角形を作る綾。つまりだ。俺は綾の言葉を最後まで聞かなくても結末がわかった。


「ここで中立なのは亘だけ……。その亘はこの5人でいいと言ってる……」

「はい。皆さんよろしくお願いします」


 俺はみんなに頭を下げた。なぜ俺が……。


「おお!えっと……。綾さん?ありがとう!」

「綾ちゃんありがとう!このばかナスを納得させてくれて。京之助さん。その…色々と知りたいな。京之助さんのこと……」

「えっ、う、うん。よろしく」


 恥ずかしがってる風を装う須藤。それにちゃっかりハマる京之助。まさか須藤……。


「邪魔しちゃダメ。奈々ちゃんは私達のこと応援してくれたんだから」


 綾に耳元で言われる。


「わ、わかった。じゃあ、グループ申請表貰ってくる」


 そう言って席を立って職員室に行く為、教室を出た。


====


 それとなく自己紹介ムーブに状態を持って行ったが、すぐに須藤と京之助がイチャイチャし出した。はぁ。


「亘。しょうがないの……。青春なんだから」


 綾が俺に諭す。なんかな……。


「お前おしとやかになったな……」


 ん?と首をかしげる綾。かわいいな。これ海斗の彼女じゃなきゃNTRしてたわ。笑い事じゃねぇ。


「前はもっと毒舌だったじゃん」

「私だって成長するもん。無口のくせも……少なくなってきた…」


 ぷくーっと頬を膨らませる綾。やばい。一瞬唯と比べてしまった。ダメだ。ここは無自覚の綾の為にも言わなければ。


「あのな。今…綾めっちゃ可愛いからな…。それ海斗の前以外でやるなよ…」


 恥ずかしい気持ちを抑えて言う。


「ん?亘の前だから…やってるんだよ?」


 俺は言葉に詰まった。一瞬自分が海斗の位置にいるかと錯覚してしまった。綾はそのまま栞を読み出した。


「ねぇ、鳩山さん一緒に組まない?」


 すると山田が綾に話しかけて来た。おい、こっちが組んでるの見てただろ。


「カイとしか、組まない……」

「そんな事言わないでさ。俺に付けば一位になれるよ?」

「組まない…」

「いやいや。僕の方が強いって」


 押し問答に発展したので止めるために足をのばす。


「おい。おま…」

「テメェうちの綾ちゃんに何してくれとんねん。こっちはもう組んどんねん!さっさとされや!」


 その前に須藤が切れた。山田はなんで切れられているのかわかっていない様子だ。


「あっ、すいません……」


 山田は去って行った。須藤って怖いな……。


「ありがとう……。奈々ちゃん」

「うん。任せときな。私があんな奴らぶっ転ばしとくから」

「ん……」

「あら、京之助さん。まさか見てないですよね〜」


 須藤は素性がバレてもお淑やかキャラを続けるみたいだ。


「亘も…助けようとしてくれてありがと…」

「あ、ああ」


 ダメだ。綾は…海斗の彼女だ。


「う〜し。もらっって来たぞ。名前かけヤァ!」


 海斗が帰って来た。くそ。モヤモヤする。なんだよ、海斗にもう少し遅く帰って来て欲しいとか……。はは。


「どうした?亘。書けよ。副リーダーはお前だ」


 顔を上げると皆が俺に顔を向けていた。


「ああ。わかった」


 俺は副リーダーの欄に名前を書く。はぁ……。


「亘。大丈夫か?いつもなら俺がリーダーなことに突っ込むのに」

「ああ。すまん。考え事してた。じゃ出しに行くぞ。綾は山田になんかされたか?」

「んんん…。奈々ちゃんと亘が守ってくれた…」

「そうか……。ありがとな」

「ああ…」

「どうだ!私の必要性がわかるだろ!」


 海斗は俺たちに笑いかける。なんだろう……。あの2人と俺の間に……壁がある?


「しっかし……。綾は絶対渡さないのに……ちょっかいかけんじゃねぇよ……」

「その時はカイが守ってね……」

「おう!任せとけ」


 モヤモヤする……。くそ……。俺は唯がいるし……唯のことが好きなのに……。














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