忍耐もまた行動の一つの形態だ。

・Patience is also a form of action.


 自己紹介が終わり体力測定の為、事前に買わされた体育着に着替え校庭に向かう。さてと……。ここからが高校の大事なスタートだ。

 ドキドキしている。テストを返されるときの感覚だ。自分の能力が試される。


「11Rです。欠席は無しです。宜しくお願いします」


 うちの担任が校庭で待っていた教師に頭を下げる。結構ダンディな人だ。


「では始めよう。じゃあ全員トラックの線に一人ずつ並べ」


 有無を言わさぬ声質に皆、黙って従う。いや緊張しているのかも知れない。

 半径20mぐらいのトラックに入れられる。20人がそれぞれ数メートル置きの線に立つ。

「では走れ。何があっても走り続けろ。反時計回りだ。ただ、トラックから出たら止まれ」


 意味深な言葉と共にスタートする。体力測定の情報は完全に隠蔽されていて何をするのか全くわからない。マラソンではなさそうだ。

 言われた通り走る。何を計られるのかわからない今ランニングペースが最適だ。そんな事を考えていたら……。


「では、隆起」

「ウオッ!なんだ?」


 教師の魔法で地面が傾く。トラックの中心に向かって壁が傾いていく。一瞬止まりかけたが、走り続ける。今の衝撃でトラックから外れたやつがいるみたいだ。今残っているのは16名。傾斜は10度。転けなければ多分落ちない。

 まさか壁走り?俺はトラックの外側に移動し、次の衝撃に備える。


「もう一度。隆起」


 30度。4名脱落。すげぇ。こんなに簡単に地面を操作するとは……。全力ダッシュをしている奴もいた。おいおい。お前そのうち……。ほら。スタミナ切れで落ちた。これで計10人。


「もう一度。隆起」


 45度。ここからは体の重心の位置を気にしなければいけなくなる。6名脱落。今残っているのは5名。俺、亘、手塚、山田、須藤。綾は30度の隆起で落ちた。今は体を水平に無理矢理して走っているが次ので……。


「隆起」


 60度。俺はトラックの内側…。つまり左足の力を強め、トラックの外側に移動する。須藤が脱落。今ここで6周目。そろそろ50m7秒ペースにする必要が出てくる。走り続ける。亘が脱落。


「隆起」

「はぁはぁ」


 75度。俺は全速力で走り遠心力でトラック……いや、もう壁か。その壁を走り続ける。他の奴らを見る余裕なんて無い。全速力。走り続ける。姿勢を低くし、重心を外側にし、遠心力を高める。段々と自分の位置が低くなっているのがわかる。頭が痛い。モーローとする。が、走り続ける。なんで走るんだろう。全力でやる意味……。

 雑念が入った。気付けば地面スレスレだ。悲鳴をあげる足を動かし走る。もっと。もっと速く!


「更地。隆起」


 一瞬0度に変わり、いきなり90度になった。俺の体は一瞬浮き上がりそのまま自由落下をした。不思議な感覚だ。まるで鳥になったかのような視点……。


「クハッ!」


 地面に衝突し、視点が戻る。息が詰まる。苦しい。


「くぅ。はぁはぁはぁはぁはぁ」


 数秒後呼吸器官が正常に働き、心臓が動き出す。腹が痛い。仰向けに転がり呼吸をする。頭が痛い。体の節々が痛い。


「え〜。手塚英治。堂上海斗が残ったか……。お前らは最後何か違和感はあったか?」


 教師に聞かれる。俺は寝転んだまま答えた。


「視…点が…変わった」

「世界が遅…くなった」


 手塚は世界が遅くなったと言う。教師は納得したような顔を見せノートに書き込む。


「どのくらいの長さだ?」

「はぁはぁ。9…0度に…なってから、落ちるま…で」

「右に…同じく…」

「よろしい。ヒール。体力回復。スタミナ全快」


 この場の全員に魔法がかけられる。体が軽くなった感じがした。質問する前から掛けろよ……。


「次だ。立て」


 俺と手塚は教師の言葉で立ち上がる。

 次だ。さぁ、何が来る。

 俺は盛り上がったままの地面を睨みつけた。


「全員これを付けて壁際に寄れ。等間隔にだ」


 教師からゴーグルを渡される。ちなみに担任もこの教師も付けていた。


「更地、隆起」


 今度は45度の壁になる。が、俺が立っている所が上昇し、他の奴らも俺と同じ高さに持ち上げられる。中心は狭くなりあの虫の巣を思い浮かばせた。その虫があの教師かのような錯覚も覚える。


「このトラックの外側に出ろ。中心に落ちて俺に触られたら終了だ」


 傾斜の高さは約3m。教師のいる所の傾斜の高さも3mだ。これは脱出レースか?


「では始め。隆起、土砂」


 立っている所が傾き、上から土砂が降ってくる。やっぱりそうか……。

 俺は頭の中である虫の名前を思い浮かべる……。


 蟻地獄……。


 走る。上に向かって。ちょうど俺の目線の先にあった太陽は砂で黄色く霞み、容赦無くゴーグルを叩く。地面もいつの間にか砂状に変わっており、もがけばもがく程下に飲み込まれるようだ。なんだよこれ。消防士の訓練かよ……。いや、それ以上にハードかも知れない。

 地面に手をつき、犬が地面を掘るかのように搔きわける。爪の間に砂が詰まり痛みをもたらす。それでももがき続けた。

 俺から見て辺りが暗くなったように感じ、ふと上を見上げる。するとそこには俺に降りかかる太陽光を遮る人影があった。

 動きが止まり奈落の下まで落とされる。それでも走り続ける。それこそ蟻地獄の罠にはまった蟻のように。全筋肉を足に総動員させられるならしたいくらいだ。まだ。もっと。進める。まだ……。

 刹那背筋が凍り、一瞬視点が変わった。見えたのは、俺の背中に手が伸びる光景。周りは暗く、誰もいない。ただ真っ暗な所で同じ場所で俺は地団駄を踏んでいた。

 視点が戻った時、踏み込み足を最大限まで曲げる。


 さあ……。飛べ。俺は…角の無い兎だ。


 一気に伸ばす。背中の恐怖は消え、足は着実に上に向かっている。雷操でこっそり静電気の電子を操ると、降ってくっる土砂は俺を避けるように落ちていく。そして……。


「はぁはぁはぁはぁ。ついた……」


 地面に転がる。見上げると太陽はそこにあった。頭側から手塚の顔が伸びる。


「3人目だ。お疲れさん。2人目は紅月だ」


 そうか……。亘が2番かか……。


「はぁはぁはぁはぁ。お前…速すぎだろ…」

「ふん。雷操は知識が無いと操りにくいよな。まぁでも静電気で土砂を避けるのは気付かなかったよ」


 なっ!


「まっ、頑張ろ〜な〜」


 手塚は去っていく。何故……。


「どうかしたか?手塚がなんか言ったか?」


 亘が俺に話しかけて来る。


「亘……。いや…。なんでも無い……。ただ見られたとは思わなかっただけだ。俺が静電気で土砂を掻き分けたところを…」

「そうか……。気のせいだろって言っとけよ」


 何故嘘を付いたのか分からなかった。でも……。こいつは亘達に関わらせては行けないと思った。それだけだ。


 その後も色々とハードすぎる事をした。先が丸まっているとはいえ一斉に放たれる矢を避けたり、ベルトコンベアを逆走したり、そしてその度に教師は生徒に違和感の有無を確認し、ノートに書き込んでいた。まるで実験のようだ……。





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