外見は大切。笑顔を忘れぬよう。

・Appearances matter – and remember to smile.



 はてさてどうして俺が平気で魔法を使っているか説明しよう。約2ヶ月前、つまり正月から法律が変わった。

 魔法の使用が解禁されたのだ。自己防衛の為の使用はOKに。反対派も多かったが、ギリ魔法解禁派が勝った。

 魔法解禁派曰く、魔法だってその人自身の個性であり特技である。故に魔法による自己防衛を取り締まるならば空手や柔道による自己防衛も取り締まるべき、と。

 でまぁ、法律施行から2ヶ月。正月辺りはテロ防止の為街中の至る所に警官がいた。しかし何も起きないまま2ヶ月。秘密裏にどんどん見回りの警官の数が減ってくる。そこを狙った誘拐というわけだ。


「ここだな。えっと……。こっちだ!」


 タクシー代の金なんて亘しか持ってない。となれば必然的に走るしか無いのだ。電車だってある程度誘拐犯の目的地を先読みせねばならないし、警察に通報するのも時間が掛かる。


「おお!海斗!」


 そこにおっさんの声が聞こえて来た。振り向くと……。康秀さんが居た。実際に会うのは久方ぶりだな……。


「ごめん今急いでる!」

「まった!仲良くも無さそうな相手とランニングって事はないだろ」


 いや、ランニングなんて一言も言って無いけど。


「その携帯だってお前のじゃ無い」


 そう言って携帯を覗き込む。GPSは高速道路に入っている。


「へぇ。これを追っている訳か。誘拐だろ?お人好しだなぁ」

「あの。急いでるんで失礼します」


 京之助が声をあげた。俺もハッとする。


「断る。こんな肌身離さず持てないようなもののGPSなんかあてにすんな」


 そう言って口笛を短く吹く。ん?って思ったらカラスが数羽やって来た。え?


「今からこの二人が言う特徴の人物を探せ」


 カラスは器用に康秀さんの肩に止まり頷く。何で?


「ほら。いいから言え。こいつらはカラスじゃ無い。魔物だ。俺テイマーだからな」

「8歳ぐらいのロリ。ピンクのドレスを身に纏っている。金髪青目で、ポニーテール。車は赤色の…あっ今通り過ぎた車と同じ形状。運転手はアロハシャツでイカツイ。顎髭がジョリジョリ」

「だそうだ。今はここの高速道路にいる。探せ。見つけ次第足のボタンを押す事。以上」


 カラス…に似た魔物は去って行った。京之助は空気と化している。


「んじゃ、俺たちは信号が来るまでゆっくりしてようか」


====


 何だ?この人は?僕はファミレスで目の前に座る中年男性を伺う。横の高校生っぽい男…海斗だっけ、こいつは康秀さんと言っていた。どう言う繋がりがあるんだ?さっき僕は帝都高校に合格した嬉しさで正義厨ぶって色々とおかしな事をしてしまっていた……。くそ!ハイになってしまっていたんだ……。


「自己紹介からしようか、僕は荒山新。まぁ頭が柔らかいと何で康秀と呼ばれているかはわかるよな」


 聞いて5秒で分かった。文屋康秀の俳句から来たのだろう。


「じゃあ僕。僕は沼木京之助。帝都高にこれから入学する」

「はぁ。正義厨はめんどいから素性知られたくねぇんだよ。もうこの件お前と康秀さんでやってくんねぇかな?」

「ダメだ海斗。この件に首を突っ込んだんだ。今更引くなんて許さないよ」

「僕は正義厨じゃ無い!あれは一時の気の迷いだ!」

「いや、お前完全に正義厨だったぞ?」

「あれは俺の黒歴史の再発!」

「おい。静かにしろ。周りがこっち見てる」


 荒山さんに窘められ、ようやく周りからうざったい目を向けられているのに気付いた。


「はぁ。じゃいい。信じるわ。俺は堂上海斗。この春からお前と同じ帝都高に通う」

「堂上!?じゃあお前あの角なし長男か!」

「う、うるせぇ!俺は弱く無かっただろ!」

「来たぞ。ここだ」


 荒山がさんがいきなり俺らにスマホを向ける。ポインターは横浜の海岸の倉庫群にあった。ちなみに海斗が持っている携帯は今も尚長野に向かって動いている。


「こう言う事だ。うっしゃ、ここなら仕事で何度も行った。勘定するから先出てろ」


 はぁ。今日は色々と散々だ……。何で俺の封印した性格が蘇る?


====


「転移」


 視界が一瞬暗転し、次に視界に広がった光景は船が行き来する穏やかな海だった。まだ昼過ぎだが、今日は曇りなので気分もどんよりしてくる。


「いた。あそこだ」


 康秀さんが指をさしたところを見ると赤屋根の倉庫の上をカラスが旋回していた。あっ魔物だったな。


「ここに居るんですね?んじゃ行きましょう。お嬢さんが僕に惚れないかな〜」

「「……」」

「ん?僕変な事言いまし……ってもしかして漏れてました!?」


 無言で頷く。すると突然顔を赤面させる京之助。恥ずかしぃとか言ってる。


「ん〜。まぁ今のでお前の素が正義厨じゃ無いと分かったし……」


 何と言えばいいのかわからないので頭を掻きながら慰める。


「うう〜。くそ〜。よし、行きましょう!」

「行って来い。正直オッサンは足手まといだろうしここに残っとく」

「ええ!そんな事無いですよ。だって荒山さん滅茶苦茶長い距離転移したじゃないですか」

「だからこそだ」


 引き留めようとする京之助を制する。


「この距離を転移したんだ。いくら魔定一段に近い一級でもかなり疲れる。ましてや、魔物と契約してるんだから命令している間は対価として魔力を常に与えてるんだ。正直使い物にならん」

「あっ、そうか。そうだった」


 やっぱ正義厨は二重人格みたいなもんか。まぁ素じゃ無いなら何でもいいが。


「んじゃ、中華街で休憩でもしてくる。なんかあったら呼べ。黒号帰っていいぞ」


 康秀さんはカラスの使役を解除して中華街に向かっていった。いいな……。何で俺こんな遠くまで来たんだっけ?てか黒号って、黒号って……。


「よし。作戦ですね。海斗君、君は正面から、俺は後ろから入る。以上!」


 俺はコケたね。脳筋かお前?一応忠告だけしておく。


「まぁいいか。常にオーバーキルを目指せ。この手の犯罪者には何をやっても許される」

「分かりました。では」


 と言って倉庫へ二手に別れて向かった。

 此処かな?俺は倉庫の扉の正面に立つ。中には結構な人数がいた。ガヤガヤしているが、盗み聞きをしてみると「この女に手ぇ出してもいいっすか?」とか「あ〜。何円で売り出しましょう?」とか言ってる。そうか……。

 俺は倉庫の扉をガラッと開ける。一瞬でざわめきが止まった。


「ああぁん?テメェ誰だ?」

「ヤベェ。早く始末しろ!」

「いや生け捕りにしてこいつも売れ!顔が良いから高値で売れる!」


 はぁ。溜息が沢山出るな〜。でも……俺は顔を上げ満面の笑みを浮かべる。静寂が訪れた。そうそう。そうやって怯えてろ。


「良かったよ。お前らが人身売買目的で」




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