3章 〜今日という一日は、明日という日の二日分の値打ちがある。〜

One today is worth two tomorrow.

自分に打ち勝つことが、最も偉大な勝利である。

・The first and best victory is to conquer self.



「ん〜。12743、12743、12743……あった!」


「え〜。23635か…23472、23489…23635!みっけ!うっし!これで2人ぃ!やりぃ!」




 俺たちは一番学力のお高い都立帝都東京高等学校の合格発表に来ていた。普通はインターネットで見るのだが、ずっと昔…この全高校進学希望者進学校選定試験が始まる前からの習わしで続けられている。


 そして一般的にはインターネットで確認してから写真を撮りに来るのだが、俺たち3人は確認せずにここまで来た。のだが……




「綾は?」




 俺が聞くと綾は受験票を渡して来た。俺は受験票に夢中で綾の頬をつたる涙に気付かなかった。




「ん〜。15732か、12743、13695、17823……。えっ!?」




 もう一度見る。目をこする。指で確認する……が、無い。俺の彼女の番号がない……。




「ん〜海斗どうした〜??綾のか…15372だろ?12743、13695、17823……。えっ!?」




 何度見ても無い物は無い。ついに綾はガチ泣きの前兆に入った。細い体を小刻みに震わせ、目尻には涙が溜まり、それこそウルウルする。俺は綾をお姫様抱っこで人気の無いところまで抱えて走った。そして着いたところで泣き出す。




「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ガイど…おなぢぃがっごうじゃない”ヨォぉぉぉぉ。なんで?な”んで?ふぇぇぇぇぇぇぇん」




 俺は綾を抱き寄せ頭を撫でる。それしか出来なかった。本気で泣いている綾。これは2回目だ。1回目はお義父さんが撮った物をこっそり借りて見ただけだが……。その時はプールで溺れそうになって泣いてたっけ。5分ぐらいずっと背中をポンポンとしていた。が、頭ではこれから綾とは違う学校か…。と冷めたことも考えてた。




 そしてら亘が走ってやって来る。俺の前で止まってめっちゃ肩を上下に揺らしてた。




「はぁはぁ。マジでお前ら何処いんだよ。まぁいい。俺はお前らが居なくなってもう一回探した。そしたら……」




 綾の泣き声が止まる。抱き合ってたせいで綾の心臓の鼓動がめっちゃ速くなっていた。




「綾は!特待生だ!」




 ……。




「ん?だから綾は特待だって!」




 ……。




「おい!聞こえているか?綾は特待…」


「亘」




 これで間違ってたら……。




「見間違いじゃ無いだろうな」


「おう!この目で何度も確認したし最終的にネットでも確認したよ!マジで特待だって!」


「ふぇ?」




 綾はまだ状況を理解していないみたいだ。俺は亘のスマホを取り上げ、指紋認証をこっそりいつか採取した指紋で難なく通過。そのままブラウザを開くとそこには綾の結果がデカデカと書かれていた。




「おい!なんで指紋認証を!」


「ほら!受かってる!特待だ!この学校は日本1の学校だ!特待は上位四人!やった!綾は日本4位だ!首席の演説か、次席の表彰受け取りか、3席のPTAの挨拶が無ければ4位!やった!やった!よかったじゃん!」


「えっ!ほんとだ……。じゃあカイと同じ学校?」


「ああ!やったやった!」




ーーーー




 興奮が冷めたところで食堂に向かう。俺は奢りでコンポタージュを自販機で買い、ベンチに座る。




「はぁ。にしてもよく受かったな。海斗は」


「ん……。カイは社会頑張った」




 なぜこんな事を言われているかと言うとこの学校は学力バランスで決めるのだ。どんなに総合点がよかろうと、全ての教科において一定以上の順位を取らねば、受からないのだ。つまり、俺が数学と理科でどれだけ点を取ろうが社会が破滅しているのでかなり、ギリギリだったのだろう。




「ああ。ほんと。でも案外史上5人目の満点で特別に合格したのかもよ?」


「はは。そんな事有り得…るな…。もしかしたら史上初の2教科満点かもなぁ」


「ん……カイは、ズズッ、!」




 綾がコーンスープを啜って体をはねさせる。火傷でもしたのか?




「あっつ………。むぅ……。カイは感想欄に何書いたの?」


「ん?ああ。俺はピタゴラスの定理の証明方法を書きまくったな……。えっと1教科につき10個ぐらいだから50個ぐらいかな?」


「お前……。社会は見直ししろって言っただろ?問題の粗探しをして、その粗から回答導けって」


「まぁいいじゃねぇか。受かったし」




 もしかしたら本当に職員会議開いて俺の合否決めたかもな……。それだったら感想のところもっと真面目に書くべきだったか……。




====




「12743番の合否について数学科と理科と英語科主任より不合格に対する抗議があったので松陰会議を開きます。よろしくお願いします」




 教職員に校長がバーコード頭を晒す。しかも、バーコードは色が反転していた。つまり白髪だ。




「今更じゃ無いですか?さっきからこの生徒の回答を見てますけどねぇ。これは合格基準から社会が大きく外れ、国語も合格基準に満ちていませんし」




 強気な女性の社会科主任、沢本有里華が第一声を上げる。それに対し文系の教師は深く頷く。




「しかし、彼は史上初となる2教科満点です。更に英語に関してもTOP50です。入れない訳がないでしょう」




 中年真っ只中の男性の数学科主任、池田が反論する。彼の目は餌を目の前に他の餌を狩ろうとする肉食獣を見るような目をしていた。つまり呆れていた。




「なんですか?合格判定に背くのですか?史上初の2教科満点であろうと合格判定は出来ません。わかって下さい」




 髪の毛が薄くなりつつあるスラッとした教頭、菅原が数学科教師をなだめる。




「ですが彼は逃してはいけない生徒です。高校だけですよ?こんな風にバランス第一にする学校は」


「仕方ないでしょう。一部の教科が飛び抜けているからと調子に乗らせては偏った考えしかできなくなります。その考えを叩き直す為の高校なんです。そこを曲げては高校じゃなくなります」


「しかし!彼は絶対に帝大に絶対に合格できます。そんな人材を他校に回してはうちの受験者選択権が低くなります!他校から帝大にいく生徒は一人でも減らさねばいけません!」


「そんな事で帝の字を持つこの学校が折れてどうします。上に示しがつきませんよ」


「上とか下とか伝統とか堅苦しい事言ってるからどんどん校長がストレスで禿げて白髪が増えていくんです!見てください!この前までクレーターでしたのに誤魔化すためにバーコードになり、お風呂上がりは天の橋立です!」


「そんな校長が禿げている理由が私達の所為って幾ら何でも無茶苦茶です!」


「お茶は無くも苦くも有りません!特待で編入すればいいじゃないですか!」


「だめ!」




 今まで黙っていた国語科主任、太田佐知子が金切り声を上げる。




「特待は4人までです!15372番が特待じゃ無くなります!彼女は何としてでも特待にすべきです!」




 15372番は国語が満点なので何としても特待にしたい太田。




「別に受かっているんですしいいじゃないですか!こっちは合否が掛かっているんです!」


「そんな事言ったて無駄です!規則は規則です!」


「そんな規則滅んじまえ!じゃあ特待を五人にすればいい!」


「いきなり過ぎます!学校の予算が足りません!」


「ウルセェ!テメェ教頭!俺はあんたが裏金で書き換えてんの知ってんだぞ!」




 いきなり、理科講師、原田玄一が声を上げる。




「ほう?どこにそんな証拠が?」


「ん”ん”……。じゃあお前あれバラすぞ!」


「アレとは?」


「いいのか?本当に言って?テメェがこの前めっちゃ酔っ払った時のうわ言!こっちは録音してんだ!」


「なっ!まさか私のアレか!?ふ、ふ、」


「そうだ!『ふ』から始まり『ん』で終わって真ん中の子音が『R』で母音が『I』の三文字のことだ!」


「「不倫?」」




 全職員がハモった。一斉に教頭を見る。教頭は完全に青ざめていた。




「なぁ!な?昔の馴染みだろ?たった一人の親友だろ?頼むよ」


「…そんな事言われても…….俺にだって職務が……」




 菅原の抵抗が弱くなっていく…。




「とにかく!規則は規則です!」




 太田が声を荒げ、池田に代わり、反論をしていく。声が大きくなり先頭に差し掛かったその時、大きな音が響く。


 今まで黙っていた校長が机を叩いた。




「投票しましょ……ここにいる教師全員で…」


「そうしましょう!」


「いいですね!」




 5科の教師全員が乗り気になる。が……。




「校長……。ここにいる教師って私達もですか?」




 ずっと隅っこに固まってた体育科や魔法科の教師の一人が聞いた。




「ああ。そっちの方がいいだろう……。異論は認めん。その資料の一枚の裏に合否を書いてくれ。順番にこの箱に入れる……」




 疲れ切った顔の校長が、後ろからダンボールを取り出し、組み立てた。




ーーーー




 そしてその次の日、校長の頭はゆで卵になっていた。そんな事をつゆ知らずはしゃぐ海斗達であった。


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