幕引きはいつになるだろう?

  動画を見る海斗は青ざめて震えていた。微かに「1…年ぶりに人を…にな…のに」と聞こえて来る。自分の過ちを責めているみたいだった。だから。




「か、海斗」




 止まらない震えを抱きつつ、海斗に歩み寄る。自分のやった事に悲しみを感じる海斗を……私は信じる。




「触れても、いい?」




 海斗はまた同じ事を繰り返さないか不安な様だ。が、震えながらも頷く。だから最初は頭を撫でた。




「ヒッ」




 恐怖の声が聞こえる。でも気にせず、猫を撫でる様にゆっくり頭を撫でた。震えが収まっていく。その時にいきなり抱き付いた。




「何があったかは知らない。今まで耐えてきた?今まで忘れようとしてた?今まで押さえ込んできた?」




 普段の無口で毒舌な私からは考えられないほどの暖かく優しい言葉が紡がれていく。正直、自分でも驚きだ。海斗の顎が乗る肩のあたりに湿りを感じる。鳴き声も聞こえる。




「誰かが裏切った?それは私?」




 優しく語りかける。そしてら首が微かに横に動くのを感じる。




「私は海斗を信じてる。けど、疑いたくもなる。それは同じ。疑ってくれてもいい。訝しんでも構わない」


「ううっ」




 嗚咽が聞こえて来る。それと共に曲が流れて来た。亘が落ち着く曲を調べて流してくれたみたいだ。そのリズムに合わせて背中を優しく叩く。




「もしかしたら私もその人と同じで裏切るかもしれない。でも、今は裏切らない」




 海斗の腕が背中に回るのを感じる。そして、きつく抱きしめられた。凄く嬉しかった。




====




 亘さんは今度は携帯を弄って音楽をかけだした。最初は何をしているのだろう、ふざけているのかと思った。でも違った。落ち着く様な優しい音楽をかけたのだった。なぜか私まで心が落ち着いた。先程された侮辱された事も忘れて亘さんを優しく、よく考えてる人だとも考えた。お兄ちゃんは綾さんの肩に顎を乗せて泣いていた。




====




「海斗くん。今日の事は凄く知りたい。でも、何も無かった事とする。正直あんな魔法知りたくも無い。ただ、次暴走したら流石に対処をしようと思う。因みに今は魔法は使えるかい?」




 康秀さんが話しかけて来る。綾に抱かれてようやく落ち着いた頃合いを狙っていたのだろう。




「シールド」




 何も出てこない。と言うか何も変わらない。




「無理みたいだね。また後日、金崎家の事については聞かせてもらうよ。では」




 母さんと父さんに一礼して帰って行った康秀さん。外はもう真っ暗だ。




「綾、亘、母さん、父さん、成美さん、遼さん、唯。御免なさい。ありがとう御座いました。」




 きちんと頭を下げる。誠意が伝わればいい。それだけでいい。許される気はない。でも、感謝はしたい。




「いいよ。全部許すよ。でも、怖かった…」




 綾がまた、抱き締めてくれた。凄く嬉しかった。




====




 僕の息子はおかしい。生まれた時、魔法が使えない事を知り父上と母上は文句を言った。でも、僕は海斗と名付けた堂上家の長男を捨てる気は無かった。咲は謝って来た。魔法が使えない子を産んでしまって御免なさいと。でも、産んでくれただけで嬉しかった。


 さて、その海斗は泣かない子だった。いつも静かに何かを考えている。しかし、こちらが話し掛けると必死に聞こうとしていた。0歳の子にこんな事が出来るのかと驚いた。1歳になると明らかに言葉を理解する様になった。


 この時魔力の強い堂上家の長女、唯が生まれて来た。両親は唯を蝶よ花よと育てようとした。海斗と一緒にいると魔法が使えなくなるとか言って引き取ろうともして来た。海斗が生まれた時は何も寄越さなかったのに唯の時はベビードレスやおもちゃを大量に送って来た。


 その頃、海斗は2歳で頭の良さが目に見えて来る様になった。文字を読み書き出来る様になり、家にある本を読みだした。3歳になると倉庫にある本を読みたいと言い出した。だからどの様な本がいいか聞いてみた。絵本が読みたいのかと思った。しかし海斗は算数と言った。その時は可愛く言って背伸び、悪く言うとイキリだと思って足し算ドリルを買ってやった。そしたら海斗はそれを解き出した。いつまで続くか咲と賭けを持ちかけたがどちらも三日以内に飽きると言って賭けにならなかった。


 しかし、次の朝、海斗は新しいのを買ってくれと言って来た。ドリルを見せて貰うと全て暗算で解かれていて満点だった。だから今度は掛け算のドリルを買ってあげたら3時間で終わったと言って見せて来た。何故足し算より早く終わったのか聞くと「掛け算は法則性があるので解きやすいから」と返された。これは算数を数年習って出て来る言葉だ。そ子に海斗はたった3歳で、独学で、辿り着いたのだ。


 両親は気味悪がった。だが僕も咲も興味深く考え、少し意地悪く、中学の数学、物理、化学の教科書、物理の実験のセット、また、PCのプログラミングの本を買ってやった。そしたら海斗は宝石を見る目でうず高く積み上がった教科書やノートパソコンを見ていた。この時、海斗は6歳だった。ここあたりから海斗は唯に小難しい話をしだした。「何故自慢がいけないのか」とかを唯に説明していた気がする。自慢が良く無い事と教えるのは簡単だ。だが、そこを理解させる事は難しかったりする。5歳の少女には特に。だがそれをやってのけた。凄く親としての自信がなくなった。


 両親は海斗が小学校に上がってから露骨に差別をしだした。唯にだけ物をプレゼントしたり唯にだけお年玉をあげたりした。だから、僕は正月には両親の字を真似て水引きのされた封筒にお金を詰めて渡した。海斗が、海斗の祖父祖母にいじめられてる事を知って欲しくなくて。因みに咲の御両親は先が成人して直ぐに他界したから祖父母という存在は僕の両親だけだったのだ。


 まぁ、とにかくお年玉を渡した。そしたら海斗は悲しそうな顔をして礼を言って来た。その次の日の朝食の食卓でお年玉を返された。唯が「どうして?」と聞くと「お年玉はね、貯めておいたほうがいいんだ。今唯は買いたい物があるだろう?でも我慢してお金を溜めておけば将来欲しい物がたくさん買えるんだよ」と言いていた。


 唯は「おにぃがするなら私も」と言って預けて来た。僕は驚いた。唯に教えたかったが、教えると催促するみたいで教えられなかった事を教えてくれたのだと感謝した。そして、海斗の袋を開けて見ると中から紙が出て来た。




ーーーー




 父さん、母さん、お気遣い有難う御座います。出来ればこれからも同じ様に唯の前では平等に扱って下さい。


 ここからは父さんのみにお伝えしたい話です。


 唯は優しく、繊細でとても賢い子です。ですから僕が祖父母から嫌われていると知れば悲しむでしょう。祖父母に訳を聞くでしょう。そしたら祖父母は血の繋がりのない母さんに文句を言うでしょう。母さんは僕が嫌われていると知って悲しんでいます。なので母さんは文句を言われると自分のせいにしてしまいます。


 「私が生まなければ」「私でなく他の人が海斗を産めば……」と。でも母さんのお陰でここに僕はいます。その事を伝えて下さい。そして父さん。ここからは文句です。


 もっと母さんを大切にして下さい。仕事が忙しいかどうか知りませんがそれを言うなら母さんは無賃労働です。ですから、皿洗いや風呂掃除をしてあげて下さい。それが無理なら、洗濯物を洗濯機からその上の乾燥機に入れるだけでも構いません。あの労働は僕は身長の関係で手伝えません。が、かなりの重労働です。毎日5キロのものを70cm持ち上げてるんです。僕は母さんが怪我をしないか心配です。少しでいいから手伝ってあげて下さい。






追伸:この手紙は読んだらシュレッダーに掛けてください。唯が読んだら泣きます。




ーーーー




 なんという子だろうか。これほどの手紙を見た事がない。深く考え、こちらの善意を無駄にしない様に気を遣っている。こんな子供を煙たがる両親が嫌いになって来た。






 そんな息子が今、泣いている。初めて涙を流すところを見た。そして僕らより何年も短い付き合いの綾ちゃんが慰めていた。親として情けなく思う。僕は黙って咲の肩を抱く事しか出来なかった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます