計34時間の劇の末、幕は閉じた……?それとも幕間?

「ああ〜。終わった終わった。ほんと。仕事も大変だなぁ。まだ金崎家の情報も掴めてないし」




 俺は荒山新。魔定1級だ。部下からは山嵐と呼ばれていて、最近、「吹くからに 秋の草木


くさき


の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ」というダジャレの100人一首を詠んだ文屋康秀にあやかって康秀とも呼ばれている。最近アダ名の暴走がとどまる事を知らない。


 俺は「魔族魔法使用管理委員会東京支部長」をしており、その中で魔法の乱用をしている金崎家について調べている。金崎家は「魔族魔法使用管理委員会」……長いな。「魔会」と呼ぼう。「魔会」と繋がりがあって魔法の無許可使用の隠蔽がなされている。上はその事への調査を妨害して来るのである。何とも腹立たしい。


 駅とショッピングセンターが融合した建物から出る。今は11時30分。これ労働基準法で訴えたら慰謝料とれるかな?って、ん?何でこの時間に女子中学生が?この近くに「望学園」という、12時まで自習が出来る塾がある事は知っている。だが手ぶら?何故だ?


 俺は強面で子供に笑いかけてもすぐ泣かれる。小4の娘にふざけて怒ったふりをしたら思いっきり泣かれた。が、かなり困った顔をして女の子は走っている。




「ねぇ。君。どうかしたのか?」


「ヒッ」


「あっ。ゴメン。僕は魔族魔法使用管理委員会東京支部長だ」




 長ったらしくて言いにくいな。女の子に証明書を見せながら言う。彼女は信じてくれたみたいで補とした顔をする。




「何かあったのか?手ぶらでここら辺を歩くにしては不良っぽくないし」


「来てください!海斗がチンピラに!」




 俺はこの声を知っている。俺が救えなかった声だ。事情はどうあれ俺はこの声を救う為に魔会へ入ったんだ。




「どこだ!」


「付いてきてください!」


「わかった!」




 通行人は奇怪なものを見る様な目で俺を見る。差し詰め遠目にエンコー、だろうな。だがそんな事は関係ない。彼女の指示で路地裏を走る。親は何をしているんだ!




「そこを右に曲がってすぐです」




 路地裏の奥からは苦痛そうな声が聞こえる。彼女を後ろに下げ、角を曲がった。そこでは20ぐらいの不良が3人伸びていて1人も這いつくばっている。そして……金崎誠、金崎家の長男がドスを男子中学生に向かって突き刺していた。彼は瀕死の状態だ。急




「魔族魔法管理委員会東京支部長、荒山新!荒山新に魔法使用の許可を下す!バインド!ハイヒール!」




 ボイスレコーダを起動し、急いで宣言して、金崎および不良を捕まえ、海斗君であろう男の子にヒールを掛ける。だが、彼の傷は入院が1週間必要だろう。




「な!俺は金崎k……」


「サイレント」




 五月蝿い奴を黙らせて手錠を掛ける。抵抗しようとしていたが絶対に無理だ。女の子は海斗君に近づいて何か怒った声を出す。彼の声は瀕死だった筈なのにここまで届いた。




「チッ。山嵐さん……、助けて…くれて有難…うございま…す」


「君はまだ完治していないんだ喋ってはいけない」




 こいつ初対面で山嵐とかセンスがあるな。




「あぁ、違いました。…康秀s…ゴホッ、さんでしたね。憎いけど…助かりました」


「俺は君を部下に欲しいよ。初対面で康秀まで辿り着くほど頭がキレるんだからね」


「はは。ほんとは、ここで…余裕勝ちして…綾に…かっこいいとこ、見せたかったんだがな……」


「うっ、うう」




 彼女は綾ちゃんって言うのか。顔を赤くしてるな。青春だねぇ。いい事だ。




「もう大丈夫だ。寝てもらって構わない。と言うか寝なさい。君は禁止しても喋る様だから気絶させるね」




 彼の首に手刀を叩き込んだ。彼はその寸前で笑っていた。俺は不気味に感じてしまった。






====




「ん?あ、あぁ。ビョーインか」




 そこは個室で広かった。こんなに広くても困るんだが……。


 横には誰かの気配がする。女っぽい呼吸だな。手を握っているのか冷たくて気持ちい。ぼやけていて見えないが綾だろう。左手でそいつの頭を撫でる。そしたらそいつは起きた。




「はっ。海斗!目が覚めたか!」




 急に目がはっきりしてくる。俺の手を愛おしそうに握っていたのは……。亘だった。




「ちっ。亘かよ!綾かと思ったわ」


「なんだよ!折角見舞いに来てやったのに」


「今何時だ?」


「今はお前が倒れてから18時間。午後6時だ。学校では体調不良ってことになってる」




 波乱の二日の幕引きを今とすると34時間か。




「おいおい。それって俺、皆勤賞取れないやん。図書カード5000円が…」




 うちの学校は3年間連続皆勤賞で図書カードが5000円貰えるシステムだ。




「金崎が絡んでるからしゃーない。5000円ぐらい冥土で貸してやるよ」


「冥土に金はあるのか?」


「知らん。綾は今事情徴収を受けてる。お前のご両親も事情徴収だ。安心しろ。相手は康秀さんだ」




 やっぱりこいつは頭がいい。俺の聞きたい事を先に言ってくれる。そりがピッタリだ。




「それ通じるの俺だけだぞ」


「ああ。部下にならないか?って勧誘受けた」


「俺もだ。まぁ退職処分は免れないだろうな」


「ああ。相手は金崎家だ。ヒールならまだしもバインドを使ったからには俺らを勧誘なんてできたもんじゃねぇな」


「でも、ああゆう人が世界のトップに立てばいいと思ってしまうな」




 どうせ叶わない夢だが、時々考えてしまうのだ。ほ〜んと惨めな夢だ。




「な。儚い夢だぜ。んでだ。これ、返された奴だ」




 亘はヌンチャクを渡してきた。多分綾が気付いてくれたんだな。




「ありがとさん」




 俺のヌンチャクは黒い革で作られており、脂が染みているのでよく見ると黄色いところもある。やはり手に馴染む。




「俺の誕プレは役に立ったみたいだな」


「まぁな。でも正直な所誕プレにヌンチャク贈るってどうかしてるぞ?」


「そうか?綾は枕を贈ってたけど。綾も大概じゃないか?」


「いいや。違うな。枕とヌンチャクは全く違うからな。亘はちょっとおかしい」


「酷い言い草だな。ああ。忘れてた。明日退院だ。医者も驚いてたぞ?幾らハイヒールでも1週間は入院って言ってたからな」


「学校行ったら大変だな……」


「ガラガラっ」




 綾が入ってきた。少しやつれている?




「なぁ。綾。有難うな」




 綾は俺が起きた事に気付いたのか駆け寄ってくる。




「じゃっ、俺は失礼」


「おう。どっか行け」


「私海斗君のことが好きだな」




 亘が女性の声を真似てくる。気持ち悪いな。亘は病室から出て行った。




「海斗……。有難う……」


「おうっ。綾は怪我してないよな?まぁ聞いたところでだけど」




 少しはカッコ良かったかな?




「うん。してない……。あのバインド。避けずに居てくれて有難う」




 綾は気付いていたのか……。そうだったら腹を刺された甲斐もあったな。




「見てたのか?」


「うん……。あの直後に人を呼びに行った」


「それで来たのが康秀さんか……」


「ん…。海斗、カッコ良かった……」


「そう言って貰えると嬉しい」




 綾の頭を撫でる。凄く綾が愛おしく感じた。




「なぁ綾」


「何?」




だから言葉は自然と紡がれる。




「好きだ。守りたい。チンピラから守る事が出来るか分かんないけど守りたい」


「だったら人員を増やす……」


「やだね。そしたら独り占め出来ない」


「海斗が死ぬぐらいならそれぐらい我慢して」




 ああ。嬉しいな。そんなこと言って貰えるなんて。




「じゃあ俺が死ぬ寸前までは俺だけにしてくれるか?」


「冗談。海斗以外に好きになれそうな人は今のところいない」


「そういう絶対的な事を言わない所が好きだ」


「ん……。私も好き……」




 綾を抱く。まだ少し腹が痛むが我慢だ。2つの小山を堪能するためにな。




「変態……」




 勘がいいな。そんなに表に出てたか?




「なら抱きつくな」




 そしたらもっときつく抱き着いてきた。自然と目線が合う。そのまま顔が近付いて……。




「ハイカットォ!」




 綾が離れようとするが阻止する。そのままキスをしてやった。フン。テンプレ通りにさせるかよ。綾はジタバタ暴れているが背中を撫でてやっているうちに暴れなくなった。そのまま……。




「カットって言ったよね!僕の存在消さないで!」


「ああ。父さん。前から思ってたけど皿洗いしてる?母さんに見放されるよ」


「私としては別に綾が海斗君とくっ付くのは嬉しいんだがただ人がいる事を分かっててやるのはね……」




 綾の父親、遼さんが話してくる。母さんと唯は顔を真っ赤にしている。結構ウブだな。成美さんはと言えば遼さんの顔を見てニヤニヤしていた。俺の言葉の反応を面白がってるのだろう。亘は康秀さんと推理をしている。2人とも推理が好きなのかな。てか唯の風邪は治ったのか。良かった。




「まさか咲は僕の事を見捨てたりしないよね?」


「さぁ?幾ら金を稼ぐのはハル君だと言えどもこっちは給料無しですからね。手伝って欲しいところではありますね」


「そ、そんな……。僕はどうすれば……」


「お父さんは皿洗いをすればいいんだから」




 唯が猿でもわかる解決策を教える。そう言えば唯の声を聞くのは久し振りだな。こんな声になってたんだ。いつから無視し出すようになったんだろう。

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