ここからが始まりなのか……?

「ただ〜いま〜」




 家の扉を開ける。




「おかえり〜って海斗!その怪我どうしたの!?ヒール」


「ああ。ただ乱取りで怪我しただけだよ。大丈夫」


「そう……。何かあったら言いなさいね」




 俺の思いが伝わったのか手を引いてくれた。心配してくれるのは嬉しいが、自分でなんとか出来るから大丈夫だ。その後風呂に入ってすぐに着替える。




「それじゃあ塾行ってくる」




 ある物をカバンに詰めて帽子を被る。




「そうね。行ってらっしゃい。お弁当持って行くから。今日はハンバーグよ」


「ありがとね。行って来まーす」




 俺は「望学園」と言う勉強の塾に通っている。唯は「日本魔法研究会」略して「日魔研」と呼ばれている塾に通っている。名前の通り魔法専用の塾だ。他にも、武道の頭文字をとって「B会」と言う武道専門の塾もある。


 話が逸れたが、俺の通う望学園は、俺の第二のいや、本当の学校だと思う。先生達は気さくで優しく生徒も魔法が使える使えない関係無く接する。いや、それが普通なのだ。ただ、家柄が代々魔法を使えて来たとかいうので無ければ。


 綾との待ち合わせ場所まで急ぐ。綾は俺のことを待っていてくれた。なぜ家が隣なのにか?俺が遅く家を出るからだ。




「海斗。遅い……」


「すまん!ちょっと長風呂しちまった」


「走るよ……」


「おう!」




 塾に向かって走る。今日は今月最初の授業だ。席順はまんま成績順なので、ドキドキしている。俺は算数と理科では1位を取れるが、社会と国語が絶望的なのでいつも綾に負けているのだ。しかし、先月の大型模試はいつもより難しかった(と言っても俺にとってはアゲハ蝶と蛾の差ほども無いが)ので、綾に勝てたのでは?と内心思っている。


 綾に言ったら抹消されかねない事を考えながら教室の扉を開ける。




「おい!海斗!遅れだぞ!」




 この元気なゴリラは村下貴志。理科教師だ。髪の毛がツンツンしていて触ると面白い。




「すいませ〜ん、って綾は?」


「おお!遅かったな海斗」


「亘が早いんだよ」


「鳩山はどうせ海斗のせいで遅れたんだろ!」


「すんませ〜ん。えっと席順席順……」




 見ると綾が席順の書かれた紙を持って震えていた。まさか本当に俺が一位とか?




「みっせて〜。ん?」


「……………」


「うっしゃ!勝った!」




 綾はうなだれた顔をする。そこで調子に乗ったのがいけなかった。




「ドンマイドンマイ!綾なら精進すればもっと出来るって」


「海斗……。ウザい。黙れ。ゴミ」




 先に席に座る綾。席が1位だと、壁側になる。




ーーーーーーーーーーーー    




     黒板 




・俺綾通□□通□□通□□・


・□亘・□□・□□・□□・


壁□□路□□路□□路□□壁


・□□・□□・□□・□□・




ーーーーーーーーーーーー




 こんな感じだ。だから俺は綾が居ると座れないのだ。そんな事を御構い無しに俺の机に荷物を置いて授業を受け始める綾。




「あの〜。綾さ……」


「黙れ」


「はい」




 仕方なく俺は綾の横の通路で授業を受ける。だが…。




「ウォォォ!のノートが取り辛いぃぃぃぃ」


「バ、カ、かっ!ノートはいつも取ってないだろ」




 ゴリラが軽く俺の頭を叩いてくる。痛く無いけどいてぇーよ。




「海斗煩いよ」




 隣の女子(三位)が窘めてくる。ううっ。




「俺に人権は無いのか…」


「お前は俺と同じで人権は無いから安心しろ!」




 ゴリラがサムズアップしてくる。おい。認めんのかよ。




「俺はゴリラじゃない……」


「海斗!お前は天皇陛下の苦労を思い知れ!天皇陛下は人権が無いんだぞ!生物学的には……」


「亘!お前喋ってるって事は問題解けたんだよなぁ?」




ゴリラが亘に睨みを効かせる。何処迄も実力主義な塾だな……。(別に完全実力主義なわけでは無いが海斗が勝手に思っているだけである)




「ヒッ!失礼しました!」




 亘は経済や、天体の論理的思考が求められる分野が得意でその予備知識のお陰でトップテンに居座っている。が、今授業で扱っているのは物理だ。計算が苦手な亘は来月の成績が下がるだろう。


 ってヤバいヤバイヤバイ、んでバイヤー〜。ふざけているがかなりのマジだ。綾は拗ねると扱いが難しい。一度拗ねると回復するまで3時間は掛かる。それまでに機嫌を取れ無ければ、1週間ぐらい無視される。そんなの嫌だ……。




「ほんと……」


「黙って……」




 3文字も喋るのを許されないみたいだ。何だよ。おい!「ごめん」とも言えねぇじゃねぇか!




「うわ〜。やっぱ久し振りはいいねぇ〜。海斗と綾の夫婦喧嘩」




 11位の女子がからかってくる。おいっ!そんな事言ったら余計綾が怒る……らない?綾は顔を紅く染めている。




「リア充爆発!」


「惚気るな!俺らみたいな塩辛い男子には毒なんだよ!」


「ゴリラ〜。海斗を退出させて下さ〜い」


「ヒューヒュー」




 罵詈雑言の嵐だ。何がリア充だ。まだ俺は綾の心を掴めてないぞ?「まだ」だけどな。




「はいはい!もう解説するぞ!」




 ゴリラは授業が上手いな。騒ぎ出したところで生徒の注意を引く。こういう先生がうちの中学の教師をすればいいのに……。


 あっ、そうだ!機嫌直さなきゃ!




 そこから休憩(夕食)まで自虐ネタ→無視→沈黙→自虐ネタの繰り返し。夕食の時にようやく席に座れた。ロビーに母さんが弁当を作って持ってきてくれるてるのでそれを取りに行く。母さんは成美さんとお喋りをしていた。




「母さん。いつもありがとう」


「はいはい。如何いたしまして」


「今日は成美さん。ちょっと持ってかせてもらっても良いですか?」


「あら、別に構わないけれど……。どうかしたの?」


「はい……。実は僕の粗野で機嫌を損ねてしまいましてポイント稼ぎ中なんです」


「あらら。ごめんねぇ。綾は拗ねると長くなるから。じゃあ宜しくね」


「はい。有り難う御座います。では」




 急いで教室に戻り綾に弁当を無言で渡す。何を言っても死亡でしか無いから。




「ん……」




 ようやく返事をしてくれた。よかった。


 席に座り、弁当の蓋を開ける。フゥ。ハンバーグの良い匂いだ。綾は……。カレーだな。




「いただきまーす」




 ハンバーグにがっつく。うん。旨い!肉汁がちゃんと閉じ込められていて、でも、口に含むと溢れてくる。そしてどれだけ肉汁を絞ってもパサパサにならない。母さんは凄いな。




「なぁ海斗。綾の機嫌は直さなくて良いのか?綾は最愛の海斗に見捨てられちゃうぞ?」




 綾がいきなり席を立つ。そのままどっか行った。ってオイっ!亘何言ってんだ!そんな事言ったら……アァァァ!




「ンナァァァァァァアアアッッ」




 心の叫びが大気を震わす。ムンクの叫びぃぃぃぃぃ!


 綾が勢いよく立ったせいで弁当が落ちたのだ……。ハンバーグが……。この中には母さんの苦労が……。俺と綾の分の弁当を作り、二つの塾に届け、家に着いたら3π分後に帰ってくる父さんの為の夕飯の支度をし、食べ終わったらすぐ自分の事をする父さんを傍目に皿を洗う。


 そんな多大な苦労が!詰まったハンバーグをぉぉぉぉ!


 なぜ9分と言わずに3π分と言ったかは俺も分からん。




「俺の……。ハンバーグが……。ん?綾まだ完食してないよね?貰おうかな〜」




 丁度綾が帰ってきた。トイレかな?




「あっ、綾のせいでハンバーグどっか行ったからカレーもらって良いか?あっ、黙りは了承と受け取るぞ〜」




 綾は顔を赤くしてまたどっかへ行った。




「ん?良いんだ。やったね。いっただっきま〜す!」




 カレーにがっつく。美味い!さすが成美さん!




「ウメェ〜!これは!隠し味にリンゴが!」


「バカイト。食レポしてんじゃ無いわよ」




 11位の女子、同じ学校だし名前で呼んでやるか。須藤奈々華が話し掛けてくる。




「バカイトって誰だ?」


「海斗とばかをつなげてバカイト。ってそれ間接キスよ?スプーンぐらい分けたら?」




 ん?冒険者はむさ苦しいおっさんと間接キスを沢山してるぜ?この体で間接キスを他人とするのは初めてだが。




「機嫌直さなくて良いの?」


「あっ!忘れてた!須藤に感謝!掛けろ拍車!」




 意味不な事を言って教室から走りでる。何処にいるんだ?って隣の自習室かよ。自習したい人の為の部屋で机が広く、仕切りが付いているのだ。今は食事休憩なので誰もいない筈だが、その部屋の隅に綾はしゃがんでいた。




「綾。調子乗って済まなかった。この通りだ。許してくれ」




 真剣に頭を下げる。そしたらポツリと呟いた。




「夕飯……」


「ん?」


「カレー。美味しかった?……」


「ん?ああ。美味かったぞ。肉が口の中で溶けたのは驚きだ」


「そう……。ならいい……」


「どうした?」


「私が…作った……」


「えっ……。まじで?スゲーじゃん。御馳走様です。でもなら何で成美さんが弁当を?」




 おかしな点がある。綾が作ったなら綾が持ってくればいいのでは?




「昨日の夕飯……。弁当に詰めるのをやって貰ったから……」




 そうか。そう言われたなそうだな。




「いや、羨ましいな〜。綾の夫が羨ましいわ」




 綾が顔を赤くする。




「鈍感野郎……。海斗も料理できる……」


「ん?最初聞き取れなかった。まぁいいや。機嫌治った?」


「ん……。もっと悪くなった」


「うっそ〜ん。あと五分だぞ。カレー半分残ってるけど食べるか?」


「元々私の物。私の自由」




「あっ……。すまん。教室戻ってくれるか?」


「ん……。仕方ない……」


「おう。ありがと」




 今日はもうハプニングとか要らないわ。って考えてたら母さんからメールが来た。






ーーーー




宛先:堂上海斗


送り主:堂上咲


件名:お迎え




 ごめん!お迎え出来なくなった!唯が熱出して看病しなくちゃいけないし今日はハル君も飲み会で帰ってこないから。


綾ちゃんと一緒に帰ってきて!




ーーーー




宛先:堂上咲


送り主:堂上海斗


件名:Don't worry




 It's OK. I'll be at home by 12. Please tell Yui that take care of yourself.




ーーーー




 ん?なぜ英語か?んなもん決まってる。カッコつけだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます