それはまだ、始まりにも過ぎないのだろう…か?

 校舎内に入ると視線が集まる。いつもの事だ。堂上家の長女は魔定一段なのに、長男は魔法が使えない。注目されるのは仕方のない事だ。


 綾とはクラスが違うので教室前でお別れとなる。一瞬静寂が訪れまた、騒がしくなる。が、全員俺に注目している事が丸分かりだ。




「ねぇねぇ。海斗くんってかっこいよね」


「何で来んだよ。来なくていいっつーの」


「海斗くんって綾と付き合ってるのかな?」




 ヒソヒソ話がヒソヒソ話になってない。溜息をついて席に座る。俺を視線から守るシールド、その名も「高校数学解法辞典」を開く。がそのシールドを突き破ってくる奴がいる。




「よお海斗。ご機嫌いかが?」


「最悪だ。せっかく綾と登校出来て幸せなのにお前がいるからな」




 こいつは紅月亘。こいつも知力と……財力と……。強いていうなら奇力で入学して来た奴だ。こいつは頭が良いが、それでもこの学校に入学出来る程ではない。かと言って権力も武力も魔力もない。しかし、こいつにはおかしな特技がある。まぁでも裏口入学はしてなさそうだが……。


 人間なのに摩訶不思議な事が出来る。両手で同時に違う文を書いたり、声質を自由に変えたり出来るのだ。また、かなりのイケメンで子役になれば良かったのに……と思うほどだ。


「酷いよぉ。海斗くんが私の事嫌いって言った……」


 綾の声質で喋ってくる亘。キモい。


「亘が綾を語るな」

「はいはい。今日乱取りだけど体育着は?」


 リュックから袋を取り出し亘に叩きつける。


「ふぎゃ」

「いい加減持ってこい。隠されてるって知ってても腹が立つ」

「今日は持って来たよ。そうじゃなくて海斗がボッコボコにされる事を伝えに来ただけだ」

「毎回そうだろ。今回は魔族に勝ちたいな〜」


 乱取りとは、互いに攻撃し合って背中を地面につける、又は怪我を負った者が負けとなり、その戦績でクラス分けがされる。俺はテコンドーとヌンチャクを習っているがまだ、魔族に勝てた事はない。武器の使用は禁止されているのに、魔法の使用は許可されているのだ。


 ちなみに、怪我は簡単に治してもらえる。保健室には骨折までなら簡単に直せる魔族の先生がいるからだ。だから……。誰も手加減をしない。




====




「勝ったぁ!」


 今、10戦6勝だ。骨折はしないように受け身をとっているものの体の節々が痛い。


 次の相手は権力と魔力を持った金崎静哉だ。こいつは権力と金と魔力で人を見下し、ずっと馬鹿にしてくる奴でちっとも静哉じゃ無い。


 こいつの父親はこの学校の理事長でもあり、検察にもパイプがあり、黒い噂は後を絶えない。知力もあり、この学校に知力で入学して来た生徒よりも成績が上だ。しかし、俺、亘、綾には負けるので目の敵にされている




「テメェ調子乗ってるようだが可哀想に。俺と当たってしまったからな」

「そうか……。で?」

「お前は俺に負けるって事だよ。角なし兎!」




 角なし兎……。これは凡人、弱者、などと人を貶める言葉として使われている。腹が立つがこいつは魔定一級を持っている。




「では。始め!」


「バインド!」




 合図と同時に麻痺魔法を放って来る。凡人は魔法を無効化する方法が避けるか、抵抗を与えるしか無いのだ。なので俺はサイドステップを踏んで避け、ポケットに手を突っ込む。




「フラッシュ!」




 ハッタリで魔法を使う振りをする。一瞬呆れた顔をする金崎。その油断があれば良かった。もちろん俺は魔法が使えない。でも、同じ事はできる。


 腕時計を使って金崎に太陽を鏡ごしに見させた。当然目を瞑る金崎。




「吸光!」


「遅いんだよ。ゴミが」




 光を吸収する魔法を放って来るも遅い。鏡を向けた瞬間にもう俺は金崎に飛びかかっていた。腹に膝蹴りを入れノックアウトした。




「勝者、海斗」


「ウィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




 金崎は苦痛で腹を抑えている。




「弱かったな〜」




 ワザと聞こえる様に言う。




「海斗オメオメ〜。こっちも女子相手だけど勝ったよ〜」


「亘もオメオメ」


「やるじゃん海斗。金崎に勝ったんだ」


「ああ。舐めてくれたからな」




 あちこちから「すご〜い」とか「金崎ってウザかったのよね。ナルシストで女たらしだから」とか聞こえる。ん?男の罵声なんて聞こえる様で聞こえないよ。


 亘には「女子に本気出すとか大人気ない」とか言われているが……。可哀想に。




 とまぁのろけていたら当然報復はあった。




「アゴニー!」




 倒れていた金崎が魔法を放って来る。避けられる筈もない。苦痛に襲われ俺と亘でのたうち回る。




「バインド!何やってるんだ!金崎!お前、今日は……」


「今日は?なんですか?」




 おいっ。先公!働けよ!




「うっ。あぐっ」


「あ”あ”あ”ァァァァ”ァ”アアア!」




 苦しい。痛い。吐き気までする。そんな中、金崎が寄って来て俺たちの腹を蹴る。




「あ”?テメェ角なし兎の癖に何調子乗ってんだよ!このクソ野郎!」




 周りの奴らは見て見ぬ振りだ。クソったれ。


 金崎に腹部を蹴られる。対抗できずに痛みに耐えかねてゲロを吐く。せめてもの意地で金崎の足に掛けた。




「あ?汚ねぇよ!この野郎!この野郎!この野郎!………」




 金崎は同じ単語を繰り返して俺を蹴っていく。蹴られる度に身をよじる。何度蹴られたか分からない。気付いたら俺に唾を吐いて去ろうとしていた。




「ま、待て。このクソガキ……」




 金崎の足に縋り付く。




「あ”?テメェ掴んでんじゃねぇよ!」




 また蹴られた。が、目的は達成した。意識…。途切れないといいな……。


 気が済んだのかひとしきり俺を蹴って今度こそ去ろうとする金崎。




「痛っタあァァァァァ!」




 金崎の足に画鋲を刺しておいた俺氏。ナイスだ。痛がる姿を見て笑いが止まらない。亘も大笑いしている。




「クックックックックック!」


「ギャハハハハハ!」




 笑えば痛みが酷くなるのに笑いが止まらない。これ肋骨折れたな。でも、止まらない。女子も一部クスクス笑っている。ただ、腰巾着が今度は俺たちを蹴って来た。笑いながら蹴られる。ん?これって……。蹴られながら亘に話しかける。




「蹴っ、られてっ、ゲホっ。笑って、るって、うっ、俺ら、マゾか、よ」


「そうっ、ゴフッ。だな」




だんだん痛みが引いていく。これブラックアウトするな……。そう思った束の間、意識が途絶えた。




====




「ううっ。ここは?」




 目が覚めたら横に綾がいた。柔らかいものに包まれている。あったけ〜。




「保健室……。バカ……。心配させないで」


「ありがとな……。亘は?」


「今。トイ…」


「は〜い。戻ったぞ〜。おおっ。海斗も目を覚ましたか。痛快だったなぁ」


「よお亘。今何時だ?」


「……今6時間目終わって直後。荷物はここにある」


「そうか。って事は昼飯抜きで寝てたんか……。腹減った」


「俺もだ海斗。飯食おうぜ。綾が購買で勝って来てくれたみたいだから」


「おおっ。ありがとな。俺クリームパンがいい」


「俺チョコパンだな」


「ん……。これ……」


「「いただきます」」




クリームパンを齧る。空の胃袋に染み渡り心が落ち着く。




「何があったの……?」


「ああ。見せてやりたかったな」




口の端に浮いたクリームを舐めながら言う。




「ほんと。海斗が活躍してな。金崎の足裏に画鋲ぶっ刺してよ」


「そうそう。痛がってる姿は痛快だった。でも先公はどうにかしないとな……」


「脳筋221号の事?……」


「綾も言うねぇ。221は英語読みと日本語読みでか……。うんまぁ221号が金崎の権力に負けてんだよなぁ。その癖威勢のいい事ばっか言うし」


「そうだなぁ。海斗と同意見だ。まぁ子は親を選べないって言うけど教師も選べないからなぁ。あっ、ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした。まぁ我慢するよ。来年からはクラスが能力によって別れるし」


「ん……。大丈夫ならいい」


「んじゃぁ帰るか」


「そだな。有難う綾」


「代金はまた払うよ」


「失礼しました〜」




 保健室の教師はいなかったので無断で保健室を出た。やっぱり俺らの事を見てくる奴が大勢いる。この視線はうざいなぁ。


 はぁ。家に帰ったら事情徴収か……。面倒だ。ほんと、今日は波乱の一日だったな。




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