第3話は、魔物退治

 私は森の中にひっそりと、だけど、異様な雰囲気を漂わせるその洞窟を見る。【フェンリル】は余裕綽々といった様子。さすがは神獣のようね。


「【フェンリル】、魔物の数は分かる?」

『およそ百と二十……と言ったところだ。大した事もないようだな。』


 洞窟を外から見ても魔物の姿は見えない。入り組んでいるのか、ただただ長いのか……。どちらにせよ、依頼は討伐。倒さないといけない。


「じゃあ、行こっか。」


 緊張した様子も見せずに、私達は普通に洞窟に入った。何の心配もしていない。だって、ここには【フェンリル】がいるのだから。


『うかうかするな。魔物が来たぞ。数は……五。私が加勢する必要も無いな。』

「そうね。」


 小さく魔法を発動させる。魔法発動時に現れる魔方陣はそこそこ光を放つ。それで見つかるのを防ぐためのちょっとした工夫。私は風の刃を五つ、飛ばした。遠くで何かが切れる音がする。


『死んだな。』


 私はそれらを空間魔法を応用して異空間を作り出す魔法 ――― いわゆるアイテムボックスに入れる。魔物は素材ごとに高価で買い取ってもらえる。


 そんな調子で私達はサクサクと攻略を進めた。思いの外、洞窟は風通しがいいからジメジメしてないし心地いい。魔物が住処にするのも分かる気がする。


『これで最後だ。』


 そう【フェンリル】に言われた時には、既に入口からとても深い場所にいた。今は光魔法で小さな光の玉を光源にしている。


「本当に呆気なかったわね。【フェンリル】がただの魔物探知機になってたじゃない。」

『私を連れてきたのはお前だろうが。』


 食ってかかるような【フェンリル】の怒りを軽く流しつつ、私は洞窟から出ようと背後を振り向く。


『ちっ、そういうことか。』


 少し遅れて私も気付く。【フェンリル】の知覚を掻い潜ってずっと隠れていたのだ。私は目の前の巨体を前に、魔法を発動させる兆候すら見せることが出来なかった。魔法を発動しようとすれば、手に持つ棍棒で一発。私の人生はおしまい。


『私が合図するのと同時に後ろに飛べ。三……二……一、飛べ!』


 合図に従って私は後ろに飛ぶ。心配する必要は無い。【フェンリル】が言うのだから。


 次の瞬間、動いた私を攻撃しようとした巨体は【フェンリル】の鋭利な爪によって切り刻まれる。そしてさらに追い打ちをかけるように、咆哮で光魔法を喰らわせる。


『オレ、負ケル。オマエ、強イノ認メル』


 どうやらこの巨体はかなりの強者だったみたい。人の語を解するのは【フェンリル】のような神獣や霊獣、変色化した魔物。今のは永き時を生きて、霊獣となった魔物かしら。珍しいものを見れたわ。


 私は討伐証明となる巨体の角を手に取る。アイテムボックスに入れた。これで依頼完了。【フェンリル】がいるかいないかで時間の掛かり具合は大きく違う。まさに【フェンリル】さまさまね。


『褒めても何も出らんがな。』

「心を読まないで。」


 洞窟から出ると、太陽の光に私を目を細める。まだ昼前。これなら残りの2つの依頼も達成できそう。再び森で【フェンリル】に待ってもらうと、私は村に行った。村長と会う。


「村長さん、依頼を達成しました。」

「もう終わったのですか!?……信じられない。討伐証明部位は?」

「ここにあります。」


 私はアイテムボックスから角を取り出す。その角からは強い力が吹き出しているかのよう。人の語を解するのは伊達じゃないようね。


「アイテムボックス……そして、その角。私が見たもので間違いありません。ありがとうございました……」


 村長は私に頭を下げる。実際にその角の魔物を倒したのは【フェンリル】。少し気恥しい気分だった。


「村長さん、頭をあげてください。それが冒険者の依頼なのですから。私はこれにて失礼します。」

「もう行かれてしまうのですか?村に泊まっては……」


 私は首を振る。


「すみません。そうしたい気持ちはやまやまなんですが、この後にも以来が幾つかあるので……」

「そうですか……いえ、冒険者さんの足止めをしてしまったようで申し訳ない。本当にありがとうございました。」


 その後、二言、三言話すと私は転移魔法で村を去った。【フェンリル】のところに転移する。他の魔物はいないみたい。


「友達はできなかったの?」

『生憎とこの近くにはいなかったようでな。』


 私はクスクスと笑う。これは【フェンリル】なりの嘘だ。魔物の友達をいっぱい作れば、私に迷惑がかかると思っているみたい。全然そんなことないのにね。でも、せっかく【フェンリル】が我慢してくれてるんだし、私も気づいてないふりでもしましょう。


 私が何故笑うのか分からない【フェンリル】は首を傾げる。


『なにがおかしいのだ?』

「いえ、何も。思い出し笑いよ。それじゃあ、一旦帰りましょう。【フェンリル】お疲れ様。」


 そうして一人と一匹は魔物牧場へ帰宅したのである。

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