第2話 超次元二番手!

【二番手、それは宇宙の厳しさ……】


 時は慶長8年。

 江戸幕府を開いたばかりで多忙な、徳川家康がいる天の川銀河での出来事。


 とある瞬間、宇宙の片隅では——

 いつもの5割増しくらいで超新星爆発が起きていた。


『人類よ。我が声が聴こえるか。聴こえたならば夏の星空を見上げるのだ!』


 はくちょう座の瞳と、わし座の尾羽、こと座の取っ手部分。

 それらを結んだ、夏の大三角形から見え隠れするヒトガタの星座こそ、宇宙の超位存在である我だ。


 その名を、GREAT・ODER・ONEグレート・オーダー・ワン


 机を両腕で叩き付けているような格好なのは気にしないでくれ。古代ギリシャ展で頻繁に見かける謎ポージングをした彫刻と同じだ、決して深い意味はない。


 星座に隠されし我が勇姿を垣間見て、さぞかし驚いているだろう。

 しかし早速だが、超位存在である我の愚痴を一つ聞いて欲しい。

 これは、つい先ほど我が出勤した際の話である。


 ——地球時間で換算すると5万年前。


 天の川銀河の一等地にある事象管理会社。ミルキーウェイ・システムズに高卒から入社し、長年勤めている我は、同僚からの信頼も厚く、社の上層部からも期待される正真正銘のエースだった。


 ミルキーウェイ・システムズに勤める超位存在達は、平時より惑星の軌道や恒星の明るさ、ブラックホールの回転数などを調節する業務をしてる。そんな銀河を管理する会社の中でも我は、謂わゆる管理職をしていたのだ。

 いずれエルダークラスに昇進する日も近い。そう思っていたのだが、


「という事で今から彼が、君の新しい上司だよ。オーダー君」

「……え?」

「アンドロメダ本社からきました! 新人のプロト・σシグマ・オーガスティスです。よろしくしゃあッス!」


 我が直属の上司であるコズミック・ワンがいきなり連れて来た青年。

 こんな二億歳も年が離れた若造が、新しい上司……だと?


「遺憾ながらコズミック・ワン。天の川銀河の管理業務を完全に把握していない状態での……いきなりの管理職は無理があるかと……」

「いやパイセン、大丈夫っすよ。俺っちはアルファケンタウリ大学を首席で卒業してるんでもう、じゃんじゃん。もう、バリバリ頼りにしてくださいよ!」


 俺っちって主語のヤツが、上司って流石にヤバくない!?

 じゃんじゃん、バリバリ、ウェーイ!

 そんな気分で、宇宙の摂理を廻されたら堪ったものではない。しかし、


「これは社の決定だよ。オーダー君」


 上司からこんな強い口調で念押しされたら、このグレート・オーダー・ワンも流石に黙らざるを得ない。我は宇宙の安寧のため、会社の将来のため、湧き上がる不満を飲み込んだのだ。

 そして他の社員やバイトスタッフが帰宅する間際まで、業務の説明は続いた。


「それで、こっちの管理表に整理済みの伝票を貼り付けて……」

「あっ……オッさんパイセン!」


 ふと思い立ったように、我のことをオッさんパイセンと呼ぶな。

 と怒りたい処だが、彼は我の上司である。


「ん? どうしたの? プロト・σ・オーガスティス……さん?」


 彼の名前表記、シミュラクラ現象の影響で、中央が顔に見えるんだよな。

 加えて社会では生き抜けなさそうな、かなり長閑な表情をしている。

 その上、名前に記号が入るなんて、我々世代からは到底理解できない。


「プロトで良いッスよ。俺っち、会社に上下関係を求めない派なんで!」


 彼と我では、5次元くらいの意識の隔たりがあることは理解した。


「俺っち。それでもパイセンのこと尊敬してんるんですよ……」


 それでもっていう前提がイラッとするが此処は我慢だ。

 何故ならプロトさんは、我の上司だから。


「だって誰も見向きもしない辺境小惑星でも重力の管理をサボったりしないし、終わりが無い宇宙の仕事をコツコツと続けてる。マジでリスペクトっす!」


 裏表の無いプロトの気質は本物だ。すると我は唐突に理解した。言葉遣いや年齢、それら先入観によって我は、彼に対する評価を間違えていたかもしれない。


 若者が会社に入ってくれる、同じ志の後継者がいる。

 それだけでも、ありがたいことかもしれんな。

 たとえ社内での期待が新人に注がれて、自分が二番手になるとしても、


「プロトさん……我は部下だけど、この仕事においては先輩だから、困った際はいつでも頼りにしてください」


 我の激励を受け留めるとプロトは、その瞳を輝かせた。


「それじゃあお言葉に甘えて、お先に失礼しまッス!」

「……えっ? でも、まだ定時だよ?」


 ミルキーウェイ・システムズの管理職は、なかなか定時に帰れない。

 銀河を管理する仕事ならば尚更だ、山積みの書類が二万光年分は残っている。


「でも俺っち、今夜は、おとめ座ん家でホームパーティに出るって言っちゃったんですよねぇ」

「恋人との約束かぁ……」


 流石の我も鬼では無い、我は宇宙の超位存在である。


「まあ初日だし、そういうことなら我が仕事を引き受けても……良いかな」

「あざッス! でも、おとめ座とは恋愛的なの無いんで、互いに結婚願望もない系だし、ホームパーティでは皆んなでワイワイ、Eスポーツやるだけっすよ!」

「E……スポーツ……」


 超位存在の我でも与り知らぬ事象が、この宇宙にはあるのだな。


「それじゃあ、お先に失礼しまッス!」


 超位存在である、このグレート・オーダー・ワンでも流石に帰宅の二番手は、想定していなかった。新人が上司となり、出世コースから外れ、我は一人で残業、そして山積みになった書類と向き合うのだ。


「っくそおおおおおおおお!」


 その瞬間、宇宙の片隅では——

 いつもの5割増しくらいで超新星爆発が起きたのだった。

 二番手、それは宇宙の厳しさ。


※アンドロメダ星雲にて放送された、大人気お仕事ドラマです。

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