申し子、ドワーフ料理を知る


 レオさん帰ってきたかな?

 昨日は温泉が吹き出たりしてバタバタな休日だったんだけど、次の日も仕事なあたしは前領主邸に帰り、レオさんたちは現場に残った。

 今朝も姿がなかったから、仕事中も気になってしまうわよね。

 みんなちゃんと休めているかも気になるし、ダンジョンと温泉がどんな感じなのかも気になる。

 戻ってきてなかったら、回復液を差し入れに行こうか。

 お城から[転移]でお邸へ帰ってくると、アプローチのある前庭に人が集まっていた。


『クー(お客さん、いっぱいなの)』


「ホントね」


 シュカを抱えて玄関の方へ歩いていきながら、すれ違った人に「こんばんは」とあいさつしていく。


「あれ、奥様じゃないべか」


「ああ、んだな。夏至祭の時にお会いしたな」


 そんな声が耳に入った。この中に男爵領の人もいるみたい。っていうか、奥様ではないんだけど……。


「メルリアードの衆、それ本当だか?」


「んだんだ。あの髪は間違えないべさ」


「奥様、近衛団の制服着てるべ!」


「あんれ、すごいべさ!」


「自衛団の指導してくれないべかな」


 ――――!!

 もうちょっとでお城の警備がお役御免になるのに、こっちでも衛士なんてやりたくないです――――!

 き、聞かなかったことにしよう。

 あたしは引きつった笑みを浮かべて、足早にお邸の中へと入った。


「ユウリ様、お帰りなさいませ」


 玄関ホールで、ちょうどアルバート補佐と行き合った。


「ただいま戻りました。レオさんはまだ向こうですか?」


「ええ。これから領の自衛団の方々と向こうで打ち合わせするので、まだかかるでしょうね」


 魔法鞄から回復液がどっさり入った袋を出して、アルバート補佐へ渡す。


「お疲れさまです。これ持っていってください」


 補佐は中身を確認して苦笑した。


「わかりました。お預かりします。ですが、領でちゃんと取ってありますから、これ以上は気になさらないでください」


「はい」


 料理長も向こうに行ってるから料理の差し入れもいらないだろうし、回復液くらいしかお役に立てそうなものがないんだけどな。

 ちょっとくたびれているアルバート補佐を見送って、夜は何を食べようかなと考える。

 昨日『七色窯』であげイモって聞いてから、フライドポテトが食べたくてしょうがなかったのよね。

 それと何を合わせようか。

 部屋で着替えてから厨房へ行くと、アルバート補佐の奥様であるマリーさんと息子のミルバートくんがいた。


「しゅか!」


『クー!』


 さっそく遊びだしそうだったので、シュカに声をかける。


「シュカ、そこの小さい方の食堂がいいかも。料理する時は危ないからね」


『クー!(わかったの!)』


 ちびっ子と一匹は、厨房と続きになっている使用人食堂の方へ駆けていった。


「ユウリ様、夕食の支度ですか?」


「はい。何にしようかと思ってるんですよね」


「料理長のノスイカの煮込みがありますよ」


 料理長がいない時や忙しい時は自分で作ると言ってあるんだけど、いつもちゃんと用意してくれている。ポップ料理長は優しい。


「マリーさん、よかったら今日はいっしょに食べませんか? まとめて作って食べた方が食材無駄にならないし」


「ふふっ、そうですね。私たちしかいませんし、そこの使用人食堂で食べちゃいましょうか」


 本当は、いつもそこでみんなと食べたいと思ってるんだけど、アルバート補佐が結構厳しいの。

 ユウリ様はお客様ですからって。

 あたし、領の人になったんじゃないの? と思ってるんだけど、なんだかんだ言われてレオさんと食べてるのよね。うーん、また聞いてみようかな。


 食材は好きに使っていいと言われているので、食糧庫からジャガイモをいただく。


「マリーさん、あげイモとかどうですか?」


「あら、ドワーフ料理ですか。いいですね」


「えっ、あげイモってドワーフの料理なんですか?」


「ええ、元々はそうだって言われてます。あとはソーセージもですね。今では私たちも食べますけど」


 そういえばバルーシャ工房長が火熊のソーセージも出すって言ってた。

 どっちもエールに合いそう。ドワーフの生活ってエールを中心に回ってるんじゃない?


「そうそう、ユウリ様。ソーセージもありますよ。メルリアード領の方で放牧されているデラーニ豚のが入ってきて」


 デラーニ山脈で放牧されている豚かー。それも美味しそうだ。牛も美味しいもんね。


「じゃ今晩は、煮込みと野菜スープとソーセージとあげイモで」


 野菜スープはマリーさん担当で、あたしはフライドポテトの準備をする。

 ジャガイモは皮はむいて細切り。お邸の他の人たちはあとで帰ってくるみたいだから、多めに作っておこうかな。切ったジャガイモのデンプンを洗い流して[乾燥]をかけておく。

 くし切りのホクッとしたのもいいけど、今日は細目で。カリカリ感を重視。

 レシピによっては小麦粉をまぶすのもあるわよね。あれは表面がボコボコして食感がおもしろいけど、今日はシンプルにジャガイモのみで楽しもうと思う。


 油の入った鍋に投入すると、しっかり水分を飛ばしてあるからはねたりもせずに、ジュワーっと黄金色に揚がっていく。仕上げは温度を上げてと。

 バットに上げて、ほんのちょっとだけ塩を振っておく。

 子どもに塩分濃いのはよくないから、あとはトッピングで。ケチャップとマヨネーズと、コショウもいいな。

 そこまで仕上げた揚げたてを、料理庫へしまっておく。

 料理庫は魔法鞄の料理用版。厨房の壁側に置いてあって、誰でも使えるようになっている。

 これがあれば、できたてを出すタイミングと食べている人の食事の進み具合の時間との闘いもなくなるから、大きいお邸には必須だと思うよ。


「マリーさん、野菜スープでソーセージをちょっとゆでてもいいですか?」


「もちろんです」


 別に鍋を用意する手間もなく、スープに香りがほんのり付いて深みが出るという一石二鳥よ。手間を減らして美味しいとかサイコー過ぎる。

 デラーニ豚のソーセージは、満足できそうなしっかりした長さだ。ソーセージの味がスープに出過ぎないようにちょっとだけボイルしたら、フライパンへ。軽く焼いたらできあがり。

 ソーセージはやっぱり焼き色がないとね!


 小さい方の食堂のテーブルに、色とりどりのお皿が並んだ。


「しょーせじ!」


『クー!(おいも!)』


「たくさんあるからね」


 目を輝かせているミルバートくんとシュカのお皿に、ご希望のブツとケチャップとマヨネーズをのせてあげる。


「ユウリ様、シードルありますよ」


 うっ。なんて素敵なチョイスよ! これで飲むならシードルが最有力候補。

 でも、今日は飲まないでおくんだ。レオさんたち、大変なのに一人でそんないい思いしちゃダメ。


「今日はみんなで果実水でどうでしょう?」


「のむー!」


『クー!』


「いいですね」


 満場一致で可決です!

 スコウグオレンジの果実水をみんなのグラスに配り、いただきましょう。


 ノスイカのトマト煮込みは安定のお味。ガーリックの香りが効いている。料理長はすっかりガーリックのとりこ。もう、ガーリックとコショウのない生活には戻れないらしいわよ。

 野菜スープは優しい甘さが溶け出して美味。ニンジンはほっくり。丸のまま入っている小タマネギはとろり。


「マリーさんの野菜スープ、おいしいです! バターの香りがいいですねぇ」


「ちょっと寒くなってきましたからね、仕上げに少し入れました」


 バター入れるとコクも出るしね。


 そしてデラーニ豚のソーセージ、すんごい美味しい! パリッとジューシーなのはもちろん、なんか肉肉しいんだけど! 長細いハンバーグみたいな? ああ、粒マスタードも欲しくなる!


 フライドポテトは当然ちびっ子たち大喜び。細長いカリカリを一本ずつ握って食べるミルバートくんのかわいいこと! はぐはぐと頬張るシュカは限界に挑戦とばかりに口に詰め込んでいる。

 ちびっ子たちの口の周りがケチャップで真っ赤なのは、してやったりだわ。ケチャップのディップおいしいもんね。


「あげイモにつけて食べるなんて初めてですけど、美味しいですねぇ」


 マリーさんにも満足してもらえたみたい。

 やっぱり、みんなで食べるごはんは美味しい。

 現場は忙しいのかもしれないのに悪いなぁ申し訳ないなぁと心の中で思いつつ、あたしもニンマリとマヨネーズを付きポテトを口に入れたのだった。





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