第486話 練習と挑戦と

固まった物は……出来が良いとは言えない物だった

表面は波打ってて、色のムラが気になるな


俺「はぁ、失敗だな」

よし、次だ次!


妹「そりゃ、1回で成功するほど簡単じゃないよね……」

そうだな


俺「これは、後で処分するとして……台座はまだ8個ある。それまでにコツを掴もう。それと、何かあったら言ってくれよ?」

アドバイス、期待してるぞ


妹「うん!」

さて、最初の段階でまず1つ間違いを犯していた

最初に出したレジン液の量が多すぎる……

これじゃ、同じ感じで後2個くらい作れそうだな


俺「ま、とりあえずやってみるか」

コップから着色したレジン液を流し入れようと傾ける


妹「あ、おにぃちょっと待って!」

うん?


俺「どうした?」


妹「えっと、前に読んだ作り方のやつで確か一気に流し入れると失敗しやすいって書いてあったよ!だから、えっと……層にして作るんだって!」

層か……


俺「なるほど」

やってみるか

時間はかかるけど

試してみる価値はあるな


台座に少しだけレジン液を入れて、マドラーで平らにならす

小さな気泡をヒーターで消して、ライトの中へ入れて少し待つ

さっきより少ない量だし、早く固まるかな?


1~2分くらいで取り出してみる


マドラーでツンツンとすると、硬質な感触が返ってくる


俺「よし、固まったな」

今度は少しへこんだ?

でも、波打つこともないし、割と綺麗にできた感じはするな


妹「見せて見せて!!」

ほら、どうよ?


俺「良い感じじゃね?」

もしかして才能ある?


妹「うん、良い感じかな。ほら、もっと重ねてみよーよ!」

そうだな!


同じ手順で、もう1層流し入れる

量を加減してっと……


UVライトの光に照らされて青く光っているのを観察する

これで固まるなんて、不思議だなぁ


さてと、固まったかな?


俺「どうかな~」

綺麗に固まったかな?


取り出してみると……予想していた出来栄えとは違う物が出て来た


俺「な、なんでだ……?」

平らに入れたはずなのに……縁に段差が出来てる⁉


妹「あちゃぁ~」

横から覗き込んできた妹ががっかりする


俺「なんでだと思う?」

これは、また厄介な事になったけど


妹「う~ん……縮んだ?」

縮んだ?


妹「えっと、居れた量が少し少なかったのかな?」

そうか?


俺「でも、あれ以上入れると溢れたりしないか?」

大丈夫か?


妹「溢れたら溢れたでいいんじゃない?」

え?


妹「だって、練習なんだし」

そっか……

そうだな


俺「よし、気を取り直して作り直すか!」


残りの分量を確認して、3つ目の台座へ挑戦をする

流し入れて、平らにして、ヒーターで熱して気泡を消して


よし、上手く固まってくれよ……






3つ目の台座、1回目の照射

これは、もううまくいってるから大丈夫だろ


今度は多めに入れて……ぎり溢れないようにして

ヒーターで

慎重にセットして、スイッチオン!

そして、また1、2分待って取り出す


今度はなんとなく上手くいった感じはするな!


俺「どうよ?」


妹「うん、良い感じ!」

よし!


もう1回残り僅かなレジン液を盛って……

これ、案外垂れないもんなんだな

紙コップが空になって、台座の上は丸い宝石のような見た目になる

よし、気泡も消えたな

これでよしっと、ライトの元へ入れて

スイッチを入れる

今回の量は少ないし、1分も当てれば固まるかな?


そういえば

スマホのタイマー機能って、こういう時くらいしか使わないな

お菓子作りの時って、キッチンタイマー使うし

それ以外でタイマーって使わないもんな


妹「どう?上手くできそう?」

そうだな……


俺「ああ、大丈夫そうだ」

見た感じ、大きくダメな部分はなさそうだ


タイマーが1分を報せる


スイッチを切って固まった物を取り出す



そこには、楕円形で銀色のシンプルな台座に艶やかな青色のレジンが宝石の様に光っている

多少歪な所もあるけど

概ね予定通りだな!!


俺「できた……!」

今回は上手くいった


妹「うん!凄いきれい!!」

よっしゃ!!


俺「ふぅ、ちょっと疲れたな」

集中力がもう切れたな

これ以上の作業は、失敗するな


妹「うん、そうだね」

おい、お前は何もしてないだろ?


俺「さて、それじゃ片付けて下で何か飲むか」

リラックスしたいし、紅茶かな


妹「うん!」

お前、元気じゃないか





道具類を片付けて1階へ下りてキッチンへ行くと、いつの間にか母さんが夕飯の支度をしていた


俺「あれ?帰ってたんだ?」

気付かなかったな


母「ちゃんと『ただいま』って言ったのに、2人とも返事してくれないから……寝てるのかと思ったわよ」

聞こえなかった


俺「ごめんごめん」

妹「ごめんなさい」

2人揃って素直に謝る


母「2人揃って、何してたの?」

何て言えばいいかな……


俺「あ~、えっと、皆へのプレゼント作ってた」

まぁ、母さんには秘密にしといてもらえばいいだろ


母「2人で?」

いやいや


俺「妹にはアドバイスを貰ってたんだよ。作ってんのは俺」

流石にみんなへのプレゼントを妹と共同で作るわけには行かないって


母「そうなのね~。そ・れ・で、何作ってんの?ん?」

思いの外ノリノリだな


俺「えっと、一応はアクセサリー、かな?」

まだ出来てないけど


母「まぁ!まぁ!まぁ!アクセなの⁉アンタがアクセ作ってるの⁉たのし、じゃなくて……凄いじゃない!!」

今楽しいって言おうとした?

何が楽しいのさ⁉


俺「先に釘刺しておくけど、サプライズだからね?」

言うなよ?


母「もちろんよ!そんな面し、健気な息子の頑張りは応援するわ!」

面白そうってか?


俺「母さん、そうやって茶化すのは息子として尊敬できなくなるなぁ」


母「ふふ、ごめんなさいね。でも、どうしてプレゼントなんてしようと思ったの?」

それは、まぁ、なんというか


俺「日頃の感謝的な、そんな感じ」

うん


母「そう。飲み物、何飲むの?」


俺「俺は紅茶かな」

妹「私もー」

私もー、ってお前な……

さっきから俺の後ろでクスクス笑ってんの聞こえてるぞ


母「淹れてあげるから、座って待ってなさい。それと大事な話があるから逃げないでね」

大事な、話?


嫌な予感がするけど、逃げるなって先に言うって事は……かなり大事な話なのかな


リビングで母さんが紅茶を淹れて来るのを待つ



変な緊張で汗をかいて、喉の渇きが加速する






母「はい、お待たせ」

ちゃんとティーカップに入った紅茶を受け取り、まず一口飲む


俺「ふぅ……」

母さんも紅茶を飲んで何も言わない


妹「ふー、ふー、あちっ……ねぇお母さん、大事な話って私も聞かなきゃダメなやつ?」

おい、お前だけ逃げる気か⁉


母「ん~、どっちでもいいけど。お母さん的には聞いてほしいな」

って事は、俺の話だよな~……

妹に聞かせても問題ないし、この場で聞かないなら後で聞かせる

そういう話って事だ

ますます逃げたい気持ちが強くなったんだけど……


俺「はぁ……、それで?」

何の話?


母「ホントはお父さんも一緒が良かったんだけどね……では、まず1つ目ね。アンタ、誰と付き合うか決まった?」

やっぱり、その話か


俺「正直に話さないとダメ?」

その話は、妹の前でしたくないんだけど


妹「おにぃ⁉」

お前は黙っててくれ


母「ダメ」

端的にキッパリ言われた……


俺「う~ん……えっと、そうだなぁ……『もう少しだけ』、『あと少し』って感じなんだけど」

正直な話、これが今の限界だ

これ以上は、もう何も言えない


母「そう、やっとソコまで来たのね。もう、時間かかり過ぎよ?」

う……言い訳できない


俺「ごめん」

でも、しょうがないじゃん!


母「しょうがない子ね。とりあえず、アンタの言い分は分かったわ」

うん……


俺「それで、そんな事聞いてどうすんの?」

どうしてそんな事聞いてきたんだよ


母「それは~、秘密でーす!」

ちょ、母さん歳考えてよ!!

何が『秘密でーす!』だよ!!!


俺「はぁ……」

絶対に外でやらないでほしいな


母「アンタ、今日の夕飯のおかず減らすわよ」

うげっ


横暴な母さんの言い分に抗議しつつ、隣を見る



思いの外、妹は静かに紅茶を啜っていた

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