第475話 存在しない文芸部

その後の練習は、俺の方が変な失言で意識しちゃってスムーズには進まず

結局、台本の半分くらいまでしか読めなかった


俺達は部室を出て、旧校舎から本校舎へ向かう


俺「その……ごめん」

折角練習付き合ってくれたのに……


東雲「ううん、私も集中できなかったから……お互い様だよ」

そうは言ってもなぁ……


俺「あ、そうだ。入部届出さないと」

帰り途中に職員室寄らないとね


東雲「そうね!」

なんか、楽しそうって言うか


俺「嬉しそう?」

そんな気がする


東雲「うん!君と一緒の部活に入れるんだよ?嬉しいに決まってるじゃない!」

そ、そういうもの?


俺「そっか……」

これって、南城さん達にバレたら絶対に言われるよな……

まぁ、しょうがないか


東雲「それに、私部活って入った事ないの」

え?


俺「小学生の時とかは?」

流石にクラブ活動くらいしてたんじゃないの?


東雲「お父様が、許可してくれなくてね。いっつも送り迎えは車でしてくれたから、寄り道とかも全然してないの。部活なんて、以ての外だって言われたわ」

そりゃ、酷いな


俺「そんなに厳しかったんだ」

っていうか、今は大丈夫なの?


東雲「ええ、過保護過ぎるのよ。大事にしてくれるのは嬉しいけど、自由が欲しかったわ」

それなのに、アイドルデビューしちゃうって……


俺「ははは……」

すげーな


東雲「明日からは、ちゃんと頑張るわ」

うん


俺「そうだね。それに、多少遅刻しても何か言ってくる奴はいないと思うからさ。あんまり気にしないで教室来て大丈夫だよ」


東雲「そうね……。もし何か言ってくる人がいたら、守ってくれる?」

当たり前だよ


俺「うん。俺なんかじゃ、頼りないだろうけどね」

頑張るよ


東雲「ありがとう。明日はちゃんと教室行けるように頑張るわ」

よし!

文化祭も近いんだし、きっと楽しいよ


俺「さてと……もう職員会議も終わってるだろうから、担任見つけて入部届貰いに行こう」





職員室前に着いて、一度身だしなみを確認する

よし、問題なしっと


ノックしてから

俺「失礼しまーす」

東雲「失礼します」


職員室には、会議を終えた先生が戻ってきて忙しそうに仕事に追われていた


俺「えーっと、あ、いたいた」

職員室の中にいた担任を見つけて、東雲さんを連れてそこまで行く


俺「先生ちょっといいですか?」


担任「うん?ああ、Aか……と東雲か」


俺「入部届くーださい」

早く出して!

下校時刻になっちゃうから!


担任「なんだ、お前どっか部活入るのか?」

俺が文芸部だって事、覚えてないな?


俺「はい、文芸部に」

ちなみに、東雲さんも


担任「あ~……でも、もう書類上は文芸部は無いからなぁ。とりあえず、同好会って形でコレに記入してくれ」

手渡されてのは『同好会新設届』?

同行会長1人と、会員4人以上の署名が必要……ってマジかぁ


俺「これって……」

人数集めろって事?


担任「うちの校風は割りと自由なのは、お前も分かってるよな?」

ま、まぁ……


担任「だから、お前が1人で文芸部を名乗ろうと問題にはならなかった。だが……東雲、お前も文芸部に入るつもりだったんだろ?」


東雲「はい」


担任「1人じゃなく、2人で活動をする。しかも男女1人づつだ。これは、学校としては許容できないんだよ。“何か”間違いが起きてからじゃ遅いからな……」

まさか……


俺「俺たちがそういう関係だって思ってるんですか?」

心外だな!!


担任「私は思わん。お前の事をよく知ってるからな……だが、第三者が見た場合はどうだ?客観的に見て、他の先生方にそう思われても仕方ない状態なのはお前だって自覚してるだろ?」

そ、そんな……


俺「どうにかならないんですか?」

今更、後3人も声かけるなんて無理ですよ⁉


担任「そうだな……。顧問なら、私が引き受けてやれるが部員集めは自分たちでやってもらうほか無い」

そんなぁ………


東雲「私のせいで……」

いや、東雲さんのせいじゃないよ

俺がちゃんと考えてなかったから


担任「いや、東雲のせいではないよ。そこのモテモテの男が悪いんだ」

んな⁉

言い方に棘があるんじゃない⁉


俺「なんなんですか、その言い方!」


担任「こう言っちゃなんだが……お前は、先生たちに要注意生徒として注目されてるんだよ。南城や堀北以外にも仁科までお前と仲良くいる。そんな生徒が2人っきりで部活をしたいなんて、他の先生方が聞いたら問答無用でお前を退学にしかねない」

お、横暴すぎだろ!!


俺「退学って、冗談も」


担任「いや、これがあながち冗談じゃないんだよ。ある先生はお前を、“名前持ちキラー”って言ってたし、他にも“天然ジゴロ”だとか“10股男”とか色々言われてるんだよ」

10股って何⁉

俺と仲良くしてるのって、南城さん、堀北さん、仁科さん、東雲さんの4人くらいでしょ⁉


担任「その度に、私が否定してんだが……そろそろ庇うのも限界なんだ」

そ、そんな……

真面目な生徒のつもりだったのに、先生達からはそんな風に思われていたんだ……


俺「分かり、ました」


担任「すまないな」

いや、先生にはずっと迷惑かけちゃってたみたいで……すみませんでした


俺「失礼します」

一応、用紙だけ貰って職員室を後にした









東雲「何か……校風が自由っていうか、先生達も割と自由にやってるみたいね」

そうだね


俺「ごめん。部活、入れなくて」

あんなに楽しみにしてたのに……


東雲「ううん、いいの。それにちゃんとした部活じゃなくても、何かしら活動ができるなら私は十分楽しいから」

そうは言っても……


俺「明日から、練習場所どうしようかなぁ」

もし東雲さんと俺の事で悪い噂が出たら、東雲さんにめちゃくちゃ迷惑かけちゃうよな


東雲「う~ん……もしかして、人気の少ない所に行くのもダメな感じかな?」

そうなるね


俺「先生達に見つかったら、多分マズいからね……」

何か新しい部活考えないとな

人の少ない屋上とかは使えないよなぁ


東雲「そしたら、やっぱり部活…じゃなくて同好会を作るしかないよ。君と私と、後は千秋ちゃんと春香ちゃんにも声かけて」

そ、それしかないのか……


俺「そうだね……よし、明日俺が声かけてみるよ」

部室の使用許可さえ取れればいいんだし

名前だけ貸してもらえればいいんだもんな


東雲「私も一緒だよ。2人でお願いしてみよ」

うん、そっか


俺「そうだね」

よーし、明日は南城さん達に頼んでみようっと!!



時間も遅くなってきたから、とりあえず下校することにした俺と東雲さんは下駄箱へ向かう


すると、昇降口に江藤さんが待っていた


江藤「お嬢様、裏に車が待っています」

あ~、そっか

送り迎えは車なのか……


東雲「そう、分かったわ。それじゃ、また明日ね」

うん


俺「また明日ね!」

東雲さんと別れて、俺は正面の校門から学校を出た




さ~て……

今日は帰ったら台本を読んで覚えようっと!!

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