第465話 妹、よく頑張ったな

体育館の通路に入ったら、Rちゃんが走ってコッチへ向かってきていた


俺「Rちゃん?」

そんな走ったら危ないよ?


R「あ、お姉さま!!早く来てください!!」

またか⁉


俺「何があったの⁉」

ったく、次から次へと……!


R「みんなが待ってます!」


俺「分かったわ、すぐ行きましょう」

出番の前に問題起き過ぎだろ⁉


Rちゃんに案内されて、進んだ先には勿論妹達がいた

その様子は、そわそわはしていたけど危機感は感じない


俺「みんな、大丈夫⁉」

何があったの?


Y「先輩!」


俺「Rちゃんが呼びに来てくれたけど、何かあったの?」

全員無事みたいで安心したよ


妹「出番まであと2分だよ⁉」

え?

もうそんな時間か⁉


俺「ごめんごめん、心配かけたね」

なんだ……トラブルが起きたわけじゃないのか


妹「みんな、準備はいい?」

円陣を組む


Y「ええ」

R「もち!」

T「おっけー」

U「いいよ」

俺「うん」


妹「色々想定外の事ばっかりだったけど、私はすっごく楽しかった!多分、全員揃って何かできるのって最後だと思う。だから、悔いなく最大限に楽しもう!」

さすが、リーダーだな

妹のくせに……


妹「おにぃも何か一言言ってよ」

一言って……


俺「ゲストに何言えってんだよ……まぁ、そうだな……今日の文化祭の主役は、他の誰でもない。君たちだ。文化祭を成功から大成功へ押し上げた功労者だよ。きっと君たちは、伝説として語り継がれると思う。その一助になれた事を誇りに思うよ、ありがとう」

あ~……柄でもない事言った!!

気持ち悪い!!


Y「主役……」

R「伝説……!」


妹「みんな、気合は十分?」


妹「自信はみなぎってる?」


妹「失敗なんてありえない。そうだよね?」


妹「なら、行こう。これで本当に最後なんだもん。楽しめない、なんて事にはならないよ!今までで一番楽しくて、最高な気分になりに行こう!!」


妹「行くよ、みんな!!」


一同「おおーーーーー!!」


ステージに出ると……観客側は満員になっていた

イスも片付けられて、全員が立ったままコッチを見てる


妹達にかけられる声援は1つ2つではない

あのステージを見てない人達も、大勢が来てくれてる

体育館の中に入りきらない人達が、入口から溢れて

それでも、一目見ようと集まってきている


妹達の努力が、これだけの人を集めたんだ……

凄いなぁ


ステージ上にはキーボードではなく、ちゃんとしたピアノが用意されてあり

Yちゃんが席に着いて、ぽーーーんと音を鳴らす

大きな音が鳴ったわけでもないのに、体育館の中が静けさに包まれた



ピアノ越しにYちゃんと妹がアイコンタクトをとり、頷く


妹「校歌斉唱」

と妹がマイクを通して宣言する

それに合わせて、Yちゃんが演奏を始めた



練習の成果で大きなミスする事なく歌いきることができた……


体育館にいた人の内、半分くらいは一緒に歌ってくれたけど……生徒の中でも歌ってない子もいたなぁ

というか、先生っぽい人がやたら目立ってたな

もしかして、強制参加になってたとか?


だとしたら、先生達には悪いことしたかな


ま、大大大成功ってことで終わったみたいだし

結果オーライだよね?


ステージから控え室に移動して、閉会のアナウンスを聞きながら俺は着替えを済ませる

妹達は別の場所で制服に着替えて、そろそろ戻ってくる頃だ


さて、化粧も落としたしカツラも外したしコレでいつも通りの俺に戻れたな

鏡を見て、おかしなところが無いか確認をする


俺「問題なしっと」


ちょっと楽しみにしていたんだけど……

メンバー全員の体力的に、打ち上げは後日改めて開催する運びとなった

南城さん、堀北さん、仁科さんも今日は先に帰っちゃったし


控え室の教室で1人、外を眺める


何か、長い1日だったなぁ









ぼーっとしてると、いつの間にか隣に妹が来ていた


俺「みんなは?」


妹「帰ったよ。あ、でもYちゃんはUちゃんのトコにお泊りするって」

本当に家出するんだ……


俺「そっか。それじゃ、俺達も帰ろうか」

母さん達が校門の所で待ってるだろうから


妹「ちょっと待って……」

うん?


俺「どうした?」


妹「うん、私……今日、頑張ったよ」

そうだな


俺「ああ、そうだな」

頭を撫でてやる


妹「ご褒美、ほしいな」

ご褒美、ねぇ


俺「高い物は無理だぞ?」

あの服だって、それなりに高かったんだし


妹「ちょっと高い、かも……」

ちょっとか


俺「どれくらいだ?」

そうだな……

母さんと父さんに相談すれば、ちょっと高いくらいなら許してくれるだろ


妹「耳貸して」

別に俺達しかいないんだから、耳打ちする必要なんてないだろうに

もしかして、そんなに言いづらいほど高いのか……?

とりあえず、妹に耳を貸す体勢になる

値段によっては、再考してもらうしかないけど……


ちゅっ


と頬に柔らかいが触れる


俺「おまっ、何やってんだよ⁉」


妹「何って、……キスだよ?ホントはご褒美で、ほしかったけど……おにぃは嫌がるだろうから」

だからって、自分でしてどうするんだよ


俺「ったく……目を瞑りなさい。お仕置きだ」


妹「ごめんなさい……」

前髪を上げて押さえる


妹「私がいけないんだけど、あんまり痛くしないで」

目を閉じて痛みに備える妹


俺「それはどうかな?ジッとしてないとメッチャ痛いかもな」

ちょっと脅すと、妹はガチガチに固まった

そんなに怖がらなくてもいいだろうに

普段からそんな痛い事はしてないだろ?


俺「目も開けるなよ」

妹「うん……」

歯を食いしばって、来たる痛みを堪えようとする


そのまま、俺は……妹のおでこへ口づけをする

キスしたおでこは少し汗ばんでいた


俺「はい、お終いだ」


妹「え?え?え?」

混乱してんなぁ


俺「ご褒美だよ。よく頑張ったな」


妹「お、おにぃ……⁉」


俺「誰にも言うなよ?」

死ぬほど恥ずかしかったんだからな?


妹「うん!絶対に誰にも言わない。私とおにぃだけの秘密だよ……」

墓場まで持っていけよ?


俺「満足したな?」

そろそろ母さん達が待ち草臥れてる頃だし、もう帰るぞ


妹「ねぇねぇ、唇にはしてくれないの?」

は?


俺「調子に乗るな!するわけないだろ。ほら、帰るぞ」

鞄を持って、教室を出る


妹「あ、待って!置いてかないで!!」

慌てて俺の横に並ぶ妹

廊下を歩く妹の足取りは、軽やかになっていた

ステージが終わって、多分色々思う所があったんだろうな


妹にとって

残りのイベントは卒業式くらいだ

それまでの間も、メンバーのRちゃん達とは仲良く遊んだりするだろうけど

もう、何かを成し遂げる事はない

そして、卒業後はそれぞれ進路が違うんだろうな


もしかしたら、遠くの学校に進学する子がいるのかもな

だから、今日でだった


きっと、寂しさを人一倍感じていたんだろうな

自分の進学先がどういう場所か、誰よりも知ってるから


全寮制、外出すら申請が必要の場所だ

簡単に遊びに出るなんて、できるわけない

それに、勉強だって頑張らないといけない

妹にとってはレベルの高い学校だ


油断すれば、すぐに勉強が追い付かなくなる

遊んでる余裕なんて、そうそう手に入らないだろう


だから、今日のご褒美は最初で最後の大盤振る舞いだ

今まで頑張った分と、これから頑張る分

合わせて考えれば、あれくらいはしてやらないと


そう思った




けど、やっぱりするんじゃなかった

後悔先に立たずってのは、こういう事だな


してみて分かったけど、妹のデコにキスってめちゃくちゃ恥ずかしい……!!

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