第394話 佐々木さんの過去

俺「ありがとう、佐々木さん」

そんな風に言ってくれるなんて、優しいんだね


佐々木「うん」


俺「でも、俺は……どんなに取り繕っても自分のやった事を許せないんだ」


佐々木「私は許すよ。きっと他の子たちも」


俺「ダメだよ……。俺が消したアイツにだって、家族はいただろうし……もしかしたら恋人だっていたかもしれない。それなのに、俺は消しちゃったんだよ」

もう、手遅れなんだ


佐々木「どうして?」

そこまで、自分を許せない?


俺「人をしたんだ」

当たり前だろう

償うべき罪だ


佐々木「じゃあさ、もし佐々木乱子わたしが名前無しを抹消した事があるって言ったら?君は私を殺すほど憎い?」

佐々木さんも、名前無しを抹消したの?


佐々木「どうなの?憎いの?1度でも、名前無しを抹消したらもうダメなの?」

涙を浮かべ、そう問いかける肩は震えている


俺「いや、それは……状況によるんじゃない」

その場を見てたわけじゃないんだから、判断なんてできないよ


佐々木「そっか。状況による、かぁ……なら見てみる?」

見る?


俺「何を?」


佐々木「私の過去だよ」

部室のカーテンを開けると、本来あるはずの窓はなく

そこには、ディスプレイがあった


俺「え?」

どうなってんだ?

どうやって支えて……いや、そもそもなんで窓に?


佐々木「ここは私の中だよ?こんな事だって、できるんだよ」

何の操作もしてないのに、画面が点灯し映像が流れ始める







映し出されたのは、1人の少女だった

見た感じ中学生かな?


佐々木「これは中1の時の私だよ。か……ううん、なんでもない」

か?


中1の時、何があったんだ?


景色は学校の廊下、時間は……放課後だな

沈みかけの夕日が校舎へ差し込んでる


歩いていた佐々木さん(中1)はある部屋の前で立ち止まる

見上げると、そこには音楽準備室と書いてある


こんなトコで何があるんだ?

ノックをして、入室すると……中には大人の男性がいた


佐々木「この人は、音楽の先生。手伝ってほしい事があるって、私を呼び出したんだよ」



画面の中では佐々木さんが、準備室の片付けを真面目に手伝っている



チラリと、先生が画面の端に映る


佐々木「この時ね、先生は部屋の鍵を閉めてたんだよ」

鍵を?


佐々木「でも、油断しきってたから全然気付かなくてね」


そんな油断した隙を狙われたのか、いきなり背後から先生が佐々木さん(中1)に襲い掛かる


佐々木「この時、死ぬほど怖かったんだよ」

いくら名前持ちとは言え、中1の女子だしな……格闘技でも習ってなきゃ抵抗らしい抵抗なんてできないか


必死に抵抗したけど、佐々木さん(中1)は先生に押し倒されて馬乗りになられてしまう


そのまま無理矢理、ブラウスのボタンを千切るように脱がそうとする

身を捩って、抵抗してるけど

1つ、また1つと縫い付けてあるボタンが取れていく


ブラウスのボタンが全て取れて、次はスカートだと手を伸ばすクズ


画面の中の佐々木さんは、泣きはらした目を見開いて……

その瞳には

どうしようもない恐怖、押さえつけられて動けない絶望、もう止めてほしいという懇願……そして、絶対に許さないという憎悪があった


次の瞬間、男はピタっと動きを止める

その間に佐々木さん(中1)はなんとか抜け出す


そこには変な体勢の男だけが床に残った


困惑してる佐々木さん(中1)は一旦距離を開ける



暫くして、固まったままの音楽の先生は……まるで砂の様に足の先から崩れ始める


細かい粒子になって、崩れていく人だったものは

塵になり、最後は全てが消えていた


そこには、塵も粒子も残らない

跡形もなく、一切の痕跡が無くなっていた


映像はそこで止まって、画面は消える



佐々木「さて、これで状況は分かったよね」

今の状況は……やむを得ないだろうな


俺「仕方なかったと、思う」

何より、佐々木さんに与えた精神的苦痛や恐怖を考えれば

抹消されて当然だろうな


佐々木「そう……あの時は、ああするしかなかった。そう思ってたよ」

あの状況じゃ、しょうがないって


佐々木「でもね。もしあの時、私が誰か他に連れて行っていたら?」

今更そんなもしもの話は、意味がないよ


佐々木「後からだと、いくらでも対策はあったんだよ……それを怠ったのは、私自身なんだよ」

全てに備えるなんて、不可能だ


佐々木「それでも、君は私を許せるの?」

許すも何も


俺「今の状況を見れば、佐々木さんは悪くないだろ。悪いのあの男だ」

他に手は無かった


佐々木「じゃあ、何で君はっ……君自身を許してあげないの?」


俺「それは……」

あの時は



俺は憎しみで一杯になって



目の前にいたボスを倒す事に夢中で……



それを邪魔した名前無しを、抹消したんだ

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