第393話 佐々木さんの中で

たっぷり時間をかけてから、部室に呼び戻される


俺「そういえば、もう1つ聞きたい事があるんだけど」


佐々木「なになに?」


俺「どうやって、俺をここに呼び込んだの?」

前は、俺の方が迷い込んだ的なこと言ってたじゃん?

夢で会った時は、俺の夢に入って来たって感じだし


でも、今回は佐々木さんが俺を呼び込んだと言っていたし……

そんな事できるの?

できるなら、何で今までやらなかったの?


佐々木「ああ、そのことね……それは」


俺「それは……?」


佐々木「私の愛の為せる業だよ!」

……は?


俺「答えられないなら、最初からそう言ってくれよ」

めんどくせー


佐々木「えぇ!?真面目に答えたのに⁉」

どこがだ⁉


俺「いや、そんな事が出来るなら最初からすればよかったじゃん」

どうして今までやらなかったんだ?


佐々木「いやぁ、最初はできるなんて思わなかったんだよね……何より自分の心に誰かを入れるなんて、恥ずかしくてイヤだったし」

くねくねしながら言われると、イラってなるな……


俺「そこまでして、俺を呼び込んだんだ……」

正直、信じられないなぁ


佐々木「そうだよ!だ~か~ら、感謝してくれていいんだよ?」

いや、しないけど……


俺「あ、うん」

感謝……?


佐々木「反応薄っ⁉」

えっと……


俺「ありがと?」

そんなに、嬉しくはないけど


佐々木「そんなんだから……いや、今は言うまい」

なんだよ


俺「俺はどうすればいいんだろうな……」

もう、分からねぇよ

元に戻れるか戻れないか、戻りたいか戻りたくないか




例え名前無しに戻ったとして、その後は?

あの時……俺は名前無しを抹消した

そんな俺を、誰が必要とする?

誰が、許すって言うんだ?


俺は……俺自身を一生許せない




佐々木さんは、その事を知らないから……だから、こんな風に言い寄ってくるんだろう


言うべき、か……


俺「あのさ、佐々木さん」


佐々木「何?」


俺「俺は……」

どうしてだろうな

なんで、こんなに躊躇っちゃうんだ

言うべき事は言わないとダメだろ


佐々木「うん?」

待ってくれてる

よしっ


俺「名前無しを1人、消したんだ」

言えた!


佐々木「え?うん……そっか」

軽っ⁉


俺「え?」

なんでそんな反応軽いの⁉


佐々木「え?それだけ?」

はい?


俺「驚かないの?」

全然?


佐々木「うん。驚くほどの事ではないよね?」

え?

それって、『こいつ、いつかヤると思ってました』的な?

俺、そんな風に見られてたの⁉


俺「なんで?」

そんなヤバイ奴だと思われてたの⁉


佐々木「そりゃ、君ならやると思ってたから」

思ってたの⁉


俺「ははは……そっか」

南城さんは怒ってたけど、他の皆は怒りも驚きもしてなかったのは

そういう事だったんだ

俺は元からヤバイ奴って認識されてたって事か


佐々木「君は、きっと大切な人の為なら……その時できる最大の努力をする。それが、自分を傷付ける事でも厭わない」

それは……


俺「買い被りすぎだよ」

あの時、俺はだから消したんだ


佐々木「君は、君自身を許せなくて苦しくて……でもね」








佐々木「君のおかげで、守られた事をちゃんと皆分かってると思うんだよね。皆はきっと君の帰りを待ってると思うよ」

そんな事……



佐々木「だから、みんなを信じて……」

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