第130話 四季島健太郎と研究所所長

検査を終えた俺は応接室に案内された

それなりに時間がかかり、既に15時を回っていた……

俺「腹減ったなぁ」

でも、ここって病院だから……ご飯って病院食だよな

美味しい物食べたいな……


応接室には父さんと四季島、四季島の父親と秘書?の女性が一人いた


秘書「どうぞ」

とお茶を出してくれる


俺「ありがとうございます」

ズズイと飲む

ほのかに甘味のある美味しいお茶だった

今まで飲んだことのない味わいだ


秘書「お口に合った様で何よりです」


俺「あ、はい。美味しいです」


四季島「話を始める前に確認する事がある」


俺「な、なんだ?」

まさか、費用か!?

保険適用外は払えないぞ!?


四季島「そんな警戒するな。千秋ちゃんと春香ちゃんをここに呼んでもいいか。その確認だ」

なんだ、そんな事か


俺「四季島、お前はどうするべきだと思う?」


四季島「そう、だな……。話は聞いてもらうべきだと、思う」

なら、そうするか


俺「じゃあ、呼んでくれ」


四季島「良いのか?」

お前が呼ぶべきって言ったんだろ?


俺「良いも悪いも知るか」


四季島「本音を言えば、俺は伝えたくはない……」


俺「お前、さっきと言ってる事違うぞ?」


四季島「話は聞いてもらう“べき”だ。でも、俺個人としては聞かせたくないんだよ……」

無茶苦茶な事言ってんな


俺「何で聞かせたくないんだよ」


四季島「そんなの、あの二人が傷付くからに決まってんだろ!」

傷付く?


俺「なんで?」

今回の事は、あの狂人が悪いんだぞ?

南城さん達は関係ないだろ?


四季島「…………そうか。お前が問題無いと言うなら、二人を呼ぼう」


秘書「では、呼んで参ります」

部屋を静かに退出し1、2分後に南城さんと堀北さん、更に二科さんまで連れて戻ってきた


南城「大丈夫?」


堀北「何にも力になれなくて、ごめんなさいね」


仁科「犯人には、私の存在って知られてなかったのかな……仲間ハズレみたいで寂しかったな」


三者三様に俺に言葉をかけてくれる


俺「えっと、心配かけてゴメン」


四季島「とりあえず、座ってくれるかな?検査結果とか大事な話があるからさ」


南城「大事な話?」


堀北「私達が聞いても良いの?」


四季島「了承は取ってある。な?」


俺「うん。さすがにもう、秘密のままには出来そうにないからね」

こんな事にならなければ、変に心配かけずに済んだはずなんだけどな……


仁科「え?え?何の話?私また仲間ハズレなの?」


四季島「それじゃ、父上」

父上?


健太郎「うむ。まずは自己紹介するとしよう、私は四季島健太郎。太一がいつも世話になってる」

あ、最初に会った時と同じで演技中なのかな


健太郎「南城千秋さん。堀北春香さん。二科豊さん」


三人「は、はい!」

名前を呼ばれてびっくり返事をする南城さん達


健太郎「君らはそこの少年に懸想している。間違いないかな?」


南城「けそう?」

堀北「はい。間違いないです」


仁科「ケソウって何?」

南城「知らない……後で春香に聞こ」

仁科「うん」


健太郎「それは、少年がネームドなった今でも変わらないのか?」


堀北「変わりません。彼を好きな気持ちはそのままです」


健太郎「ふむ……。少年はmobに戻りたいと言っているが、何か意見はあるかね?」


南城「ない!です」

堀北「彼がそう望むなら」

仁科「右に同じです」


健太郎「そうか……」


四季島「父上、そろそろ本題を」


健太郎「本当にいいのだね?」

俺に最終確認を取る四季島の父さん


俺「はい」


健太郎「では、検査結果とこれからの治療の予定について話をしよう。まずは……男子生徒A君」


俺「はい」


健太郎「今すぐに君を元のmobに戻せるわけではない、というのを了承してほしい」

まぁ、1日2日で治るとは思ってないけど……


俺「具体的にどれくらいかかりそうなんですか?」


健太郎「わからない。確約できないというのもあるが、過去に症例が無いから模索していくしかないのが現状だ」


俺「そう、ですか」

戻るのに年単位でかかったら、やだなぁ


健太郎「すまない」


堀北「あの、質問いいでしょうか?」


南城「春香?」


健太郎「どうぞ。答えられるかは聞いてからじゃないと判断できないがね」


堀北「ありがとうございます。まず一つ、何で彼だったんですか?」

それは……


健太郎「男子生徒A君が狙われてのは、その特異な遺伝子からだよ。男子生徒A君は、過去に例がない珍しい遺伝子を持っていたんだよ」


堀北「なぜそれを犯人が知り得たんですか?」

そういえば……


父「それは、私達大人の責任だね」


俺「父さん?」


父「今回の事件を起こしたのは私の同僚だった男なんだ。どうも私を見返したくて、私の周りを調べていたみたいだ。職場に私が相談した後、あの男は息子の事を私の元職場経由で得ていたみたいでね」

そう、だったんだ……


堀北「職場というのは……?」


父「名前持ちを非運命化する研究所だよ」


南城「ひうん、めいか?」


父「簡単に言うと、名前持ちに降りかかる哀しい出来事を無くそうとする。そういう研究をしてるんだ」


南城「え⁉そんなことできるんですか⁉」


父「いや…まだ実現できていないんだ」


南城「そうなんですか……」

何でそんなに食いつくんだ?


健太郎「言える範囲で構わないんだが、是非進捗状況を聞かせてほしい」


父「すみません。機密事項でして、話せる事は何にも……」


健太郎「そうですか……何か手がかりになるかも、と思ったんですが」


父「どういう事ですか?私達の研究はあくまで名前持ちに限ったモノですよ?」


健太郎「しかし、応用次第では名前無しmobにも影響を及ぼせるかもしれません。ですが、機密ならば仕方ありませんな。もし、そちらの研究所の責任者の方に許可を出していただけた場合はすぐに連絡をいただけますか?」


父「その、何故そこまで私共の研究を?」


健太郎「息子さんは現状名前持ちの見た目になっています」


父「はい」


健太郎「ならば、あなた方の研究が応用できると、そう思ったのですよ。名前持ちに望まぬ未来を与えない。幸せにする研究ですよね?」


父「お詳しいですね。さすが四季島カンパニーをまとめる方だ」


健太郎「息子太一が生まれた時、私は願ったのです。どうか悲しみの少ない幸せな人生を歩んでほしいと……」


四季島「父上……」


健太郎「色々調べましたが、機密事項が多くそれ以上知る事はできませんでした。もし可能なら、資金や人材などの支援をしたいと思っているんです。そして太一に幸せを与えたい……」


父「そこまでして守らなければならない程、息子さんは運命から……?」


健太郎「はい……生まれた時から」


父「そうですか……一つお尋ねします。資金援助したいという気持ちは、今もお持ちですか?」


健太郎「もちろんです!そして研究を完成させて、太一には普通の幸せを享受してほしいのです……」


父「そうですか……父親として、その気持ちは理解できます。わかりました。四季島カンパニーと共同研究の提携をしましょう」


健太郎「本当ですか⁉」


父「はい」

しっかりと頷く父さんは、少し元気が出てきたみたいだ

良かった……俺のせいで父さんが辛い思いをずっとするなんて嫌だからな


健太郎「では早速研究所へ使いの者を」


父「それには及びませんよ。少々電話してもよろしいでしょうか?」


健太郎「はい、もちろんです。ですが」

父さんは自信のスマホではなく、ガラケー?を取り出して電話をかける


父「私だ。ああ、少し想定外の事が起きた。ああ。だが、朗報もある。行政から削減された研究費だが、他から支援をもらえるようになった。役人には私から話を通す。ああ、研究は今まで通り、いや今まで以上に続けられるぞ」

電話から歓声が漏れ聞こえる


父「支援してくださるのは、あの四季島カンパニーだ。そうだ。国内医療のトップの四季島カンパニーだ。資金以外も支援してくださる。これからは安心して研究が出来るんだ。所用でまだそっちに戻れないが、問題は起きてないな?そうか。わかった。2、3日したら必ず戻る。手を抜くなよ?ははっ、じゃあそっちは頼んだぞ」

通話自体はものの数分だけで終わった

父さんが連絡した相手って誰なんだろ……


健太郎「あの、それで、提携の話は」


父「ええ、私が許可しましょう。名前持ち非運命化研究所、所長の私がね」


健太郎「はいぃ⁉⁉しょ、所長⁉⁉」

良い反応するなぁ……


父「ええ。それはそうと、子供たちを置いてけぼりはマズイでしょう?説明の続きをお願いします。四季島健太郎さん」


健太郎「そ、そうですね。では、今後の事についてお話します」


驚きつつもしっかり説明はしてくれる四季島の親父さん

ちょいちょい質問する堀北さん

訳が分からない南城さんと仁科さん

父親の狼狽え振りがツボにハマって笑いを堪える四季島


なんだか現実感がなく、自分の事と思えない俺は

そんな風景を見て、こう思った


『これ以上ないくらい、非日常だなぁ……』

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