第38話 遊園地 その9

控室へ戻ってくる頃には回転のせいの気持ち悪さはほぼなくなってきた


俺「南城さん、もう大丈夫だから」


南城「そう?よかった!」


俺「助かったよ。ほんとありがとうね」


南城「どういたしまして!」


ガチャ

控室のドアを開けて中へ一歩入る


すると、部屋の中では……堀北さんが着替え途中だった⁉

な、なななな⁉なんで⁉

なんで、着替えてるの⁉


俺「え、っと……」


南城「どうしたの?入らな…って!春香⁉なんで脱いでるの⁉」


堀北「い」

い?


堀北「いやぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」


南城「あっ!君は外!!」


南城さんの手によって廊下へほっぽり出される

バタン!という大きな音を立ててドアが閉められる


えっと……

ど、どうしよ……

こんなの予想できるわけないじゃん⁉

まさか出番が終わって控室へ戻ってきたら、堀北さんが着替えてるなんてさ⁉


暫くしてドアが開き南城さんが顔を出した


南城「入っていいよ」


俺「あ、うん」


中へ入ると、堀北さんはサーカスの衣装を纏っていた

そして、顔は真っ赤に染まっていた


俺「そ、その衣装は?」


堀北「私はマジックじゃなくてサーカスに出るからって」

サーカスは衣装を着ないといけないのか……

俺はマジックでよかった

まだマシだったな……


堀北「さっき、見た?」

これは、どう答えたら正解なんだ?

そもそも正解あるのか?


俺「いや、ぜんぜん」

とりあえず、嘘でも否定しとかないと……


堀北「ほんとに?」

普段クールな印象の堀北さんが顔を赤らめ涙を浮かべ上目遣いしている……

か、可愛い……

狙ってやっていたとしても、可愛いとしか言いようがない……

さすがは名前持ちの美少女!


俺「もちろん」

本当は……

堀北さんのピンクのブラを……

ボタンを閉める前のブラウス姿を……


ばっちり見てしまいました……


これが世にいうラッキースケベってやつか?

なんで名前無しの俺にそんな展開が回ってくるんだよ!

……もしかして、ラッキースケベって基点は女子の方にあるのか⁉

よく見てしまった男子側が非難されるから、てっきりそういうイベントは男子が原因になってると思ってたが……

そうではない、のか……?


ゴクリと唾を飲み込む

決して堀北さんの着替えを見て欲情を駆り立てられたわけではない……!


嘘を吐くことと緊張で喉が渇いた、それだけだから!


変な汗はかいてないはずだけど、大丈夫かな……




堀北「なら、いい」

ほっ……


改めて堀北さんの恰好を見てみる

赤いズボンに白のブラウス、黒のベストと赤の蝶ネクタイ

俺の偏見だろうけど、まさにサーカスの舞台衣装って感じだな


俺「似合ってるなぁ……」


堀北「え?似合ってる?」


俺「あ、いや!えっと……何着てもよく似合うなぁって」


堀北「そ、そう?ありがと」


南城「春香、よかったね」


堀北「え、ええ。そうね」

な、なんとか見ちゃったのは誤魔化せたかな?

いや、もう一押しだ。話題を変えよう


俺「そういえば、サーカスで堀北さんは何するの?」


堀北「…………ブランコよ」

ふと表情が暗くなる

目が……死んでる……?

まさか地雷踏んだ⁉


俺「ブランコ?」

大丈夫、まだそうと決まったわけじゃない


堀北「そう……空中ブランコですって」

踏み抜いたー⁉

てか空中ブランコ⁉⁉

そんなの素人に出来るわけないだろ⁉


俺「それは、さすがに無茶だと思うんだけど」

いや、でも、名前持ちだし……

もしかして堀北さんって空中ブランコ出来るのかな……?


堀北「そうね……無茶よね……でも、断れなかったの……」

やっぱ無理ですよねー!

でも、名前持ちの堀北さんが断れないって……何があったんだ……⁉


南城「えっと、多分大丈夫だよ!春香ならできるよ!きっと」


堀北「千秋?それ本気で言ってる?」

目が!目が怖い!


南城「……ううん。ごめん」

素直に謝るあたり、南城さんから見ても堀北さんの精神は限界が近いのかも……


俺「断れない事情って、何があったの?」


堀北「出れる演目が4つの中から選べたんだけどね。1つは紐無しバンジーだったの」

あ~……それは……厳しいなぁ

絶叫系苦手な堀北さんには厳しすぎる


堀北「2つ目はナイフ投げよ」


俺「ナイフ投げ、ダメだったの?」

頭に果物乗っけて立ってるだけでいいんじゃ


堀北「信じられる?投げる方なのよ?」

な⁉投げる方⁉

それは訓練積んだ人しか出来ないでしょ⁉


俺「それは無理だね」


堀北「ええ、何考えてるのかしら……」


俺「えっと、紐無しバンジーにナイフ投げ、空中ブランコ……あと1つは?」


堀北「……綱渡りよ」

綱渡りかぁ……

それはそれで、厳しいよな

でも、空中ブランコの方が大変そうな気がするんだけど……?


俺「なんで綱渡りにしなかったの?」


堀北「その……衣装が、ね」

衣装?


堀北「際どいのよ、いろいろ」

際どい衣装……


南城「それってどんな衣装だったの?」


堀北「ソレよ、そこの机に置いてあるやつ」

南城さんが机の上に置かれた衣装を手に取り広げる


広げられた衣装は……スケスケだった

大事な部分は隠れているけど、それ以外の所は生地が薄く透ける素材で出来ていた

かなり際どいラインまで見えちゃうな、コレ……


誰だよ、こんなけしからん衣装用意したのは!

ふざけてるの⁉

ここのサーカスの人たちってアホなの⁉


南城「さすがに私も、コレは着たくないよ!」


俺「うん。普通に、着たいと思う方がおかしいよ」


堀北「分かってくれたかしら?」

さっきよりも更に表情が暗くなっていく


俺「えっと、空中ブランコって落ちても大丈夫な様にネットとかあるんだよね?」


堀北「ええ、それはあるみたい。でも……飛びたくもないし、落ちたくもないわ……」

でしょうね!

俺だって、出来れば他の選択肢を探すよ


堀北「私……生きて帰ってこられるかしら、ね」

ああ、死にそうなくらい表情が暗くなった⁉


もう……俺には何も言えねぇ……


南城「死んじゃダメだからね⁉まだデートの途中なんだから!」

デートって……3人で遊びに来てるだけで、これはデートじゃないよ⁉


堀北「そうね……ええ、まだ死ねないわ!まだデートの途中だものね!」

あれ?少し表情が明るくなった?

……なるほど!堀北さんを元気付ける為の方便か!

さすが堀北さんの親友!さすが南城さん!!


でも……俺とデートってそんなに元気になる要素あるのか……?


俺「頑張ってね。モニター越しで応援してるから」


堀北「ええ、頑張るわ。まだ少し不安だけど、なんとかなりそうな気がしてきたわ」

大分表情が普段通りに戻ってきた!

よし!この調子ならもう大丈夫だろ


南城「じゃあさ!頑張れたら、彼からご褒美貰うっていうのはどうかな?」

何言ってんの⁉

南城さん⁉ちょっと言ってる意味わかんないんですけど⁉


堀北「ご褒美……いいわね」

良くなーい!

俺に何させる気だよ⁉


南城「ご褒美、何が良い?」

俺には了承取らないの⁉


堀北「そうね……もし可能なら……一緒に観覧車、乗りたいわ」

観覧車?一緒に乗るだけ?

それご褒美になるの?


南城「いいね!それじゃ、ご褒美は観覧車ね!」


堀北「その……いいかしら?」

今更聞く⁉

もう南城さんの中では決定してるよ⁉


俺「一緒に乗ればいいの?」

堀北さんはコクンと頷く

一緒に乗るだけでいいなら……大丈夫かな……


俺「わかった。それでいいなら」


南城「よかったね!春香!」


堀北「そうね。でも、千秋は……?」


南城「私?私は楽しかったから!」

そういえば、南城さんって何したんだろ?

堀北さんと話しててちゃんと見れてなかったんだよな……


コンコン!

団員「そろそろ出番でーす!準備できましたかー?」


堀北「はい、大丈夫です」


団員「では、案内しますので着いて来てください」


堀北「じゃ、行ってくるわね」


南城「うん!行ってらっしゃい!」


俺「頑張って」


団員さんと一緒に堀北さん行ってしまった


ほんとに、大丈夫かな?

ケガでもしたら、大変だよなぁ

明日の学校で大騒ぎになるだろうし……


南城「あのさ、ちょっといいかな?」


俺「ん?何?」


南城「春香の事なんだけど……」

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