第37話 遊園地 その8

舞台裏へ案内された

薄暗く、色々な機材や雑多な道具類が所狭しと置かれている


団員「足元気をつけてください」


俺「あ、はい」

よく見ると数本のコードが束ねて床を這っていた

足を引っかけたら大変な事になりそうだ


コードやら荷物やらを避けて奥へ奥へ進む


すると、光が差し込む場所へ辿り着いた


団員「それでは、こちらで出番をお待ちください」

それだけ言って下がろうとする


俺「ちょ、待ってください。俺は何をどうすればいいんでしょう?」


団員「あのマジシャンの方が舞台へ呼びますので、そしたら舞台へ出てもらいます。説明は以上です。では」

え……何のマジックやるとか、そういった話は?

俺に何させる気なんだ??

モヤモヤしてると凄まじい拍手の音が鳴り響いた


J・Q・K「ありがとう!ありがとう!それでは次の魔術も披露させていただこう!」

お!俺が出るマジックか?


J・Q・K「お次の魔術は、人体浮遊!手を触れずに人を空中に浮かせてみせましょう!」

人体浮遊……どうやって浮くんだろ?

タネが分かればマネできないかなぁ

隠し芸とかに、面白そうなんだけど


J・Q・K「当テーマパーク10万人目のお客様、実は3名様で先ほどの可憐な少女はその内の一人だったのです!これより二人目の記念すべき来園者の登場です!どうぞ!」

で、出番か……緊張する……


薄暗い所からスポットライトが煌々と照らす舞台へ歩み出る


シーーーーン……


なんか、やたらと静かだな……


J・Q・K「えー、こちらの何の変哲もない少年が二人目の記念すべき来場者です」


俺「ど、どーも」


J・Q・K「不思議なことに先ほど登場いただいた美少女と一緒に来場してくれました!……もしかしたら、凄い能力を持っているかもしれません!」


俺「な、無いです!ただのmobです!」


J・Q・K「ほんとに~?」

顔を近づけて俺を覗き込む

マジシャンは前面が覆える仮面をつけていて、人相は分からない

でも、俺は見てしまった

仮面の奥、瞳があるのを……

はっきりと描かれた瞳は俺をまるで睨みつけるような力強いものだった

こ、このマジシャン……名前持ちか⁉

もしかして、この人もマジックって……本当に魔術なんじゃ……


俺「ほ、本当にないです」


J・Q・K「と、本人は誤魔化してますが、きっと人に教えられない秘めた能力があるのでしょう!」

ねーよ⁉


J・Q・K「それでは、始めるとしましょう!君はそこの台で仰向けに寝てください」


言われた通りに台の上に寝る


そして布を首から足首までかけられる


J・Q・K「これより、彼の身体を宙へ浮かせます!1!2!3!!」


ほ、本当に浮いた⁉⁉

え?どうなってんの⁉

ま、魔術…なのか⁉


J・Q・K「どーでしょう!私は指一本触れず、彼の身体を浮かせました!これぞ、魔術です!」

おー、と拍手が起こる


J・Q・K「しかし!ただ浮かせるだけなら、そこらのマジシャンでも出来ること!私は稀代の大魔術師!J・Q・K!より高度な魔術を披露いたしましょう!」

そう言って手を俺へ向け


J・Q・K「それ、回れ回れ!」

くるくると掌で空中に円を描く

それと呼応して俺もくるくると回りだす

頭のあった位置と足のあった位置がぐるぐると入れ替わる

腰のあたりを中心に右回転する


J・Q・K「もっと!もっともっと!回れ回れ回れ!」

次第に回転は速さを増し、視界が流れる


ちょ、待って!回しすぎ!


J・Q・K「ハハハハハッ!!よく回る!」

何がよく回るだ…うっ…気持ち悪……


J・Q・K「これぞ、私の魔術!人体浮遊&高速回転!」

観客たちは驚いきと感心で拍手を送っているが……俺はそれどころじゃない!


俺「と…と~、め~、てぇ~」


J・Q・K「今日はいつもより多く回っております!」

それは傘の上にボールとか乗せて回すやつだろ!


くそぉ……目が、目が回る……

うぇ……気持ち悪い……

あ、頭に血が上ってきて……


もう、ダメかも……


限界を迎えようとしていた俺は回転が急停止したせいで、なんとか持ち堪える事ができた

しかし、急停止の代償に首を捻った

痛い…まだ気持ち悪いし……このマジシャン……なんなんだよ⁉


ゆっくりと台の上に降ろされてかけられていた布を取られる

そしてポーズをばっちり決めたマジシャンがお辞儀している

俺は台からふらつきながら降りて倒れそうになる

ぐるぐるバット以上の気持ち悪さだぞ、こんなの……

普段からこんなコトしてたらアシスタントさん大変だろ……


真っ直ぐ歩けずふらつきながら舞台裏へ戻る

すると南城さんが待っていた⁉


俺「……ど、どうしたの……?うっぷ……」


南城「待ってたんだけど……大丈夫?」


俺「あんまり……大丈夫じゃ……ない」


南城「凄く回されてたもんね」


俺「う……うん……」


あんまりにも気持ち悪くその場に蹲りそうになる


南城「あ!」

慌てた南城さんが肩を貸してくれて、何とか立ったままでいられる


俺「ご、ごめん……」


南城「え、えっと……このまま控室戻る?」


俺「そう……だね」


南城さんに支えられながら俺は堀北さんの待つ控室へ戻るのだった

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