第36話 遊園地 その7

モニターでは司会の男がマジシャンの紹介をしていた

だが、当のマジシャンJ・Q・Kとやらは出てこない


どうしたんだ……?


舞台のスポットライトが消え真っ暗になる


次に明かり点いた時、奇術師の格好をした男が客席の間、通路の中ほどに現れた


マジシャン「ようこそ!我が儀式場へ!!これよりお見せするのは、神をも恐れぬ魔術の至高!御覧あれ!!」

バーン!と破裂音と共に舞台の中央に人間大サイズの鳥籠だ現れた

おお!凄いな!何もなかった様に見えたのに⁉


マジシャンはゆっくり歩いて舞台に上がる


そして手にしたステッキを一振りすると、大きな布に変化した

よくある手品だけど……どうやってるんだろな


そして、広げた布を鳥籠の被せる

すっぽりと布で覆われた籠は中が見えない

一体何が……


マジシャン「ワン!・ツー!・スリー!」


3つ数えて布を取り払うと、籠の中に女性が囚われていた


おお!人が現れた⁉


堀北「凄いわね」


南城「面白いね!」


二人は感心しきってるみたいだけど、俺には一つ懸念がある

このショーに参加させられるかもしれない、という危機だ


こんな大きな舞台に俺なんかが出たら場が白けるのは必定

不安に思っていると


コンコン

と扉をノックする音がした


来た⁉

ドアを開けたのはサーカスの団員だった


団員「すいませーん。お一人準備お願いしまーす」


南城「はーい!」


堀北「千秋、順番は」


南城「私1ば~ん!」

え……立候補形式なの?


堀北「わ、私は後でいいわ」


俺「お、俺も」


南城「じゃ、私で決定!どうすればいいですか?」


団員「で、では……舞台裏の方へ行くので着いて来てください。説明は現場でしますので」


南城「はい!それじゃ行ってくるね!」



団員さんと南城さんが出て行って部屋は俺と堀北さんの二人っきりになった


モニターの向こうでは、籠に現れたアシスタントさんとマジシャンが次のマジックの準備をしていた

きっとそのマジックに南城さんも出てくるんだろうな




堀北「ちょっと、聞いてもいいかしら?」

改まって、なんだろう……


俺「な、なに?」

モニターから目を離し堀北さんへ向き直る


堀北「君って千秋の事どう思ってる?」


俺「ど、どうって……クラスメイトの名前持ちだなって」


堀北「そう……千秋って可愛いわよね」


俺「そ、そーだね」

一般論で言えばとびっきりの美少女だ


堀北「千秋のこと、好き?」

え……?なんで南城さんについてそんなに質問してくるんだ?


俺「えっと、それは…友達としてって事?」

だったら一緒に居て楽しいし、好きの部類かな~

なんて


堀北「違うわよ。一人の女性として、よ」

デスヨネー

今の話の流れだとそういう意味の方ですよねー

分かってても、答えにくい質問にはボケて答えるしか対応できない自分の対応力の無さが恨めしい


俺「どう、かな……」

はぐらかせないかな


堀北「何か、千秋に不満でもあるの?」


俺「不満だなんて……」

名前持ちだって事以外に何があるっていうんだろ……


堀北「あるのね…不満が」


俺「そんな畏れ多い」


堀北「教えて、何が不満なの?」

真剣な眼で俺を見つめる堀北さんは、何か決意のようなモノを感じさせる


俺「言った所で、どうにもならないよ」

だって、名前持ちっていう存在そのものだし


堀北「それは、言ってみなきゃ分からないじゃない」


俺「それは……」

不可能だ

名前持ちが名前を捨てることはあり得ない

この場で理由を説明した場合、きっと堀北さんは悲しむ

どうしようもない事だってある

それを知っているからこそ、堀北さんには言えない


堀北「教えてほしいの……何が君をそこまで頑なにさせているのか」

そんな事言われても、言えないものは言えない

俺が出来るのは、二人の好意が他へ向くのを待つ

ただそれだけだから


コンコンと再びノックの音がした


団員「お待たせしました。お次の方、こちらへ来てください」


俺「じゃ、じゃあ俺が」


堀北「まだ話は」


俺「時間が決まってるみたいだし、とりあえず行ってくるよ」


堀北「……戻ってきたら、話の続きしましょ」


俺「う、うん」


団員「え~っと……大丈夫でしょうか?」

気まずそうに聞いてくる呼びに来た団員さん

ちょっと可哀そう……


俺「あ、はい。大丈夫です」


団員「では、こちらへ」

俺は案内され、舞台裏へ向かう



一人部屋に残された堀北さんは、出て行く俺をジッと見つめていた


少しの罪悪感と

質問から逃げられた安心感


そして、堀北さんの質問に対して

どう答えればいいのかという難題が胸の内で渦巻いていた



ショーへの不安などすっかり忘れてしまっていた

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