心霊スポットのトンネルに入ったら“会っちゃいました”【CAT Talking #5】

ミュル「動画を見ているみんな〜!こんばんは〜!怪盗のミュルで〜す!そして……」


猫「ミケランジェロです」


ミュル「ということでやっていきましょう!今回は……」


猫「あのさ」


ミュル「なに?」


猫「なんか……君の撮影に僕がいるのが当たり前になってきてないかい?」


ミュル「悪い?」


猫「別にいいけどさ。それにしても………真っ暗だね。ここはどこなの?」


ミュル「そうそう実はね……なんと!今日は外に来ていま〜す!イェーイ!」


猫「あんまり大声あげると職務質問されるよ」


ミュル「周りに人がいないから平気よ」


猫「だといいんだけどね」


ミュル「さてさて、ちょっと脱線してしまいましたが……実はですね……今日はトンネルに来ています!」


猫「ウクライナにある『愛のトンネル』?」


ミュル「そんなメルヘンチックじゃないわよ」


猫「じゃぁ、スイスのユングフラウ山にある海抜3454メートルの氷のトンネル?」


ミュル「電波通じないでしょ」


猫「う〜ん……だとしたら……セコイア国立公園にある倒木のトンネル?」


ミュル「違う!」


猫「早く正解を言ってよ。あまり引き延ばすと視聴者が欠伸をしてしまう」


ミュル「はいはい……えっと、私達が来ている此処……何某トンネルに入りたいと思いま〜す!」


猫「何某トンネル……?知らないなぁ……」


ミュル「ふふふ……実はここ何某トンネルは曰くつきで……噂によれば出るらしいよ、幽霊!」


猫「あ、そう」


ミュル「あら?怖くないの?」


猫「全く。それよりもこんな真夜中に携帯電話の画面を見つめながら独り言を呟いている動画投稿者の方が1000倍怖いよ」


ミュル「……落とすわよ」


猫「壊れたら君が払うんだよ」


ミュル「屁理屈」


猫「よく言うよ」


ミュル「あぁ、もういいや……では早速入りたいと思いま〜す!」



(人はおろか乗用車を走っていないトンネルの中をヒールの甲高い足音を響かせながら歩いていく)



ミュル「うへぇ……誰もいない。明かりがオレンジ色というのも何だか不気味……」


猫「そうかい?今のところ怖くないけど」


ミュル「不安にならないの?」


猫「ならない」


ミュル「どうして?」


猫「さっきも言っただろう?こんな真夜中に…」


ミュル「はいはいはい。わかった。わかった。じゃぁ、賭けをしましょう」


猫「賭け?」


ミュル「もし幽霊が出たら私に土下座で謝って」


猫「僕が何か悪いことした?」


ミュル「ずっと前『化粧濃い』って言ったこと」


猫「根に持つタイプだなぁ。じゃぁ、出なかったらどうする?」


ミュル「特にない。『あぁ、出なかったかぁ』で終わり」


猫「なにそれ。君もそれなりの覚悟を決めなよ」


ミュル「じゃぁ、なに?」


猫「一ヶ月間おやつ抜き」


ミュル「無理難題ね」


猫「お菓子を食べないだけだよ。僕みたいに『土下座』という精神的屈辱を味合わなくて済むんだよ」


ミュル「精神が満たされても胃が満たされてなければ意味がないわ」


猫「太るぞ」


ミュル「お生憎様、食べても太らない体質なの」


猫「今の発言で全世界の女性を敵に回したぞ」


ミュル「視聴者がいればそれでいい」


猫「現実逃避め」


ミュル「うるさい」


猫「半分を過ぎたね……何も起きないじゃないか」


ミュル「これからよ、これから。油断していると画面が真っ暗になるわよ」


猫「そしたら君は一人ぼっちだ」


ミュル「それは嫌ね」


猫「そういえば、前に君が廃屋敷で絵画を盗む動画を見たんだけどね……ものすごく怖がっていたじゃないか」


ミュル「なに勝手に見てるの……当たり前よ。怖がりだもの」


猫「でも、今の君は全く怖がっているどころか悠長に僕とお喋りをしている……なるほどね。同行人がいるからか。じゃぁ、僕はここでお暇させて頂くよ」


ミュル「なんでそうなるのよ」


猫「怖がる君を映した方が動画的に面白いだろ?」


ミュル「一歩も動けなくなるわよ」


猫「住民票の変更をしなきゃ」


ミュル「住むつもりは金輪際ないわ」


猫「じゃぁ、孤独に耐えないと」


ミュル「幼少期に充分経験したわ」


猫「あぁ、そうかい」


ミュル「……」


猫「……」


ミュル「なんか喋ってよ」


猫「無言が怖いのかい?」


ミュル「えぇ……少なくとも此処ではね」


猫「じゃぁ、連想ゲームをしよう」


ミュル「唐突ね」


猫「同じことを言ったら負け。じゃぁ、スタート!猫と言ったら?」


ミュル「可愛い。可愛いと言ったら?」


猫「チューリップ。チューリップと言ったら?」


ミュル「綺麗。綺麗と言ったら?」


猫「ウユニ塩湖。ウユニ塩湖と言ったら?」


ミュル「塩。塩と言ったら?」


猫「塩昆布。塩昆布と言ったら?」


ミュル「お茶漬け。お茶漬けと言ったら?」


猫「お漬物。お漬物と言ったら?」


ミュル「桜島大根の味噌漬け。桜島大根の味噌漬けと言ったら?」


猫「味噌。味噌と言ったら?」


ミュル「……塩っぱい?塩っぱいと言ったら?」


猫「アンチョビ。アンチョビと言ったら?」


ミュル「えっと……魚?……魚と言ったら……マグロ!マグロと言ったら?」


猫「マグロのタタキ。マグロのタタキと言ったら?」


ミュル「……」


猫「どうした?降参かい?」


ミュル「……美味しそう。遊戯終了ゲームセットよ。なんだかお腹空いてきちゃったわ」


猫「今、食べると間違いなく太るよ」


ミュル「あなたが食欲を刺激させるからよ」


猫「意図的にやったわけじゃない」


ミュル「ふん。どうだか……」



(そうこうしているうちにトンネルを抜ける)



ミュル「う〜ん……何もなかったわね」


猫「ほらみろ、所詮迷信に過ぎない」


ミュル「じゃぁ……戻るか」


猫「そうしよう」



(すると一陣の生温い風が彼女の背中を伝った)



ミュル「……ん?」



(振り向くと、そこには地面まで届きそうな位長い黒髪で、所々濁った茶色のシミが目立つ真っ赤なトレンチコートとハイヒールを着た女性が寂しげに立っている街灯の下に佇んでいた。彼女はどういうわけか口元と鼻を覆うぐらい大きなマスクをつけていた)



ミュル「……最悪ね」


猫「なにが?」


ミュル「私、死ぬかも」


猫「軽々しく命を粗末にしないでくれ」


ミュル「あの女性を見ても何とも思わないの?」


猫「別に……ただ立っているだけじゃないか」


ミュル「お気楽なこと……タクシー通っているかしら?」


猫「戻らないの?」


ミュル「少なくとも今トンネルに引き返したら二度と戻れなくなるわ」


猫「大袈裟だなぁ」


ミュル「だって……あそこに……あれ……?い、いない!いないわ!」


???「ねぇ…」


ミュル「くひゅっ!?」



(恐る恐る声をかけられた方を向くと、先程まで街灯にいた女性が目の前に立っていた。その女性の狐目の中に不気味なぐらい紅い瞳が月明かりに照らさせて怪しく光る)



マスクの女性「……私……綺麗?」


ミュル「あ、あががががががが……え、えっと……えっと……その……」


猫「綺麗だよ」


ミュル「あ、えっ……ちょっと!なに勝手に答え……」


猫「君は彼女の美しさが分からないのかい?見ろ!あのルビーのように輝く瞳を!これは1000億円のダイヤ以上の価値があるね!」


ミュル「お願いだから今は余計なことは言わないで!」


猫「何で?彼女が『私、綺麗?』と聞かれたら答えるのが常識でしょうが」


ミュル「今はそうじゃないの!」



(すると、マスクの女性はおもむろにゆっくりとマスクを外す。その光景を見てミュルの表情が一気に生気を失っていく。外した彼女の口元は耳元まで裂けていた)



マスクの女性「これでも……?」


ミュル「きゃあああああああああああああ!!!!!でたああああああああ!!!!」



(踵を返し全速力で無我夢中でトンネル内を駆けていく)



猫「何も逃げることはないだろ。たかが口が裂けているだけじゃないか」


ミュル「いやあああああああ!!!殺されるうううううう!!!」


猫「うるさいなぁ……どれどれ……えっと……後ろの方は……見えないないなぁ……う〜ん…カメラを起動にしてと……おっ!見えた見えた。どれどれ……あ、追いかけてきてる。ん?なんか手に持ってる……あれは……はさみ?……何であんなものを持ってるんだ?」


ミュル「口裂け女よ!口裂け女!」


猫「口裂け女…あぁ、都市伝説の……それが今君の後ろにいると?」


ミュル「怖がったから殺される!怖がったから殺される!」


猫「ちゃんと会話してくれ。まぁ、無理もないか。でもそうとは限らないだろ。口裂け女の大ファンで夜中にコスプレして徘徊している物好きかもしれない」


ミュル「んなわけないでしょおおおおおおお!!!」


猫「うるさいなぁ。もうちょっと静かにしてくれないかい」


ミュル「出来るわけないでしょおおおおおお!!!」



(一心不乱に走り続け、どうにかこうにかアパートの自室に辿り着く)



ミュル「はぁ……はぁ……ゲホ……ゲホ……」


猫「お疲れ」


ミュル「はぁ……はぁ……」



(取り憑かれたように念入りに鍵の戸締りを確認すると、そのまま平らな布団に飛び込み眠ってしまった)



猫「……あら?寝ちゃった?」


猫「相当怖かったんだ……起こすのも申し訳ないし……僕が締めるか」


猫「えっと……アーテちゃんだっけ?君は僕と同じ高性能なカメラなんだろ?僕が締めの挨拶をしたら自動で切ってくれ……いいかい?」


猫「よし……ありがとう。さすがだ。じゃぁ、いくよ……」


猫「ということで、如何だったでしょうか?楽しかったですか?もし、いいなと思ったら高評価とチャンネル登録よろしくね!」


猫「それではまた次の動画でお会いしましょう……バイバイ!!」

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