第19話 明日はスリランカ 3

ひとあせかいたので、シャワーを浴びます。

トイレと一緒になったシャワールームで汗を洗い流していると、部屋のドアのカギが開く音がしました。


・・・・!


私は腰にバスタオルを巻きつけ、シャワールームの扉を少し開き、そっと室内をのぞき見ます。

ここは外国ですので、警戒心から全身に緊張が走ります。


しかしそこに立っていたのは、この宿のルームメイドの女の子でした。

色黒であまり美人ではないですが、若い娘です。


私はシャワールームから上半身を出して「シャワー!シャワー!」と言います。

まだ私は英語もタイ語も不自由だったからこのくらいしか言えませんでした。


しかし女の子は「ソーリー。ソーリー」と言いながらも外に出ません。

私は腰にタオルを巻きつけたままシャワールームを出ます。


「クリーン・ルーム・カー」


・・・つまり部屋を掃除したいということか・・・ん?今頃?

・・・しかもシャワーの音ぐらい聞こえていただろうに・・・


「アイ・ハブ・シャワー。クリーン・ルーム・アフター・シャワー。OK?」


めちゃくちゃな英語を話してドアを指差し、出て行くように指示します。

しかし彼女は一向に出て行こうとせず、私を見てニコニコ笑っています。


「なんだ?なにかおかしいのか?」


思わず日本語で尋ねます。


「ビューティフル。。。」


「・・・は?」


「ユー・ビューティフル・ホワイト・・・ビューティフル」


・・・んーー??つまり・・私が白くて美しいと言ってるのか?


「ユー・ハンサム。。ラブリー。。」



彼女は毎日顔を合わせていますが、ろくに口をきいたことがありませんでしたし、名前も

知りません。しかし・・・これは・・・あきらかに誘ってるよなあ。。


えー、これはホラ話なので信じなくて結構なんですけど、この初めてにタイに行った26歳ごろから30歳くらいまでの間、私はとんでもなく東南アジアの女性にモテました。日本ではそれほどでもなかったのですが。


月日は流れた昨今。。

私は、宿の女の子にお腹を指差され「ミー・ベイビー(妊娠してる)」と笑われる有様。

男性としては、まったく彼女らの眼中には無いようです。

ああ、若さって素晴らしかったなあ。。。しみじみ。。


話を戻しましょう。


「ワッチャ・ネーム?」私がたずねます。


「エー・カー」・・・エーちゃんか。


「エー。シャワー・ウィズ・ミー?」


・・・うつむきながらにんまり笑うエー。

私はその手をつかみ、シャワールームに引き込みます。

私も誘惑をはねのけるには、まだ若かったのよ!お許しください!


私は東南アジアの女性は日本人に比べてずっとモラルが固いと思っていましたので、タイの女の子が意外に積極的なのには驚きました。やはりバンコクという都会の娘だからでしょうか。


・・・約二時間後。


私とエーはとにかく言葉がほとんど通じませんので、話すことも無くTVを眺めていました。

そのTVもタイ語のドラマですから、さっぱり訳が分からない。

とても間が持たなくて困っていました。


「冨井さん!冨井さんいますかー」


ドアをノックしながら呼ぶ声。中田さんだ!

私は助け舟が来たと思いました。


「中田さん!いま開けます」


エーにただちに服を着るように指示します。


「すみません。お待たせしちゃいました」


中田さんは室内にいるエーをみつけると、クスクス笑い出します。


「なんだー。冨井さんもなかなかやり手じゃないですか」


「いや、なんというか行きがかりです・・・」汗が吹き出します。


「いえいえ、いいんですよ。その国を知るにはなんとか言いますしねえ」


中田さんは笑顔でエーに何か話しかけます。タイ語です。

エーはにこっと笑顔を返して、そのまま部屋から出て行きます。

中田さんはこちらを向いて


「冨井さん、彼女と今後も続ける気があるんですか?」


「いえ、全然」


「そーでしょうね。それならひとつ注意しておきます。絶対に日本の住所、電話番号を教えちゃいけない。聞かれたらデタラメ言ってください。えらい目に会いますよ。まさか言ってませんよね?」


「ええ、もちろん」


「なら、さほど気にすることもありません。彼女だって遊びですよ。本気にならないうちに終わらせた方がいいんです。タイの女の子が本気になると、煩わしいことも多いですからね」


・・・中田さんは私などと比べ物にならないくらい、場数を踏んでいますので、煩わしいことも

多かったのでしょう


「じゃあ、晩御飯にでも行きましょうか」      

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