第50話

「はーい皆さん、クラスルールを説明しまーす。暴力振るおうとしたら自動的にラッキースケベが発生します」


「「は?」」


クラスの半数以上がそう零すとやはり誠はドヤ顔を浮かべた。

先ほどからの生徒による暴行、流石に誠も嫌になってきたのでその対策として簡単な加護術式を男女両方に付けた事でもし魔術を使おうと魔力を長せば自動的に女子と男子が密着するーーそういうろくでもない術式だ。


「て事でクラスルールを説明する。破った場合は校庭三十週な、あっ無論飲み物も許可するし魔術の使用も許可、辛くなったら言ってくれ」


......厳しくしたいのか優しくしたいのか意味不明であるその一言に生徒達の視線は誠に集中する。

今までにこのクラスを担当したビクビクとした新人でもなければ暴力で訴えかけてくるような老人の講師でもない。

はたまた貴族の子女という事で媚を売ったりするものもいれば二日目から来なくなるものもいる。

だがこの講師はーー


「それと他クラスにいじめられた場合無視しろ、酷すぎたら報告、エロいことされたり暴力振るわれたら遠慮なく先生に言え、女子の場合言いにくかったらカニバル先生かミーー学院に言ってくれ、対応してくれるだろうから」


小さく女生徒が挙手、誠が静かに視線を向ける。


「でも、それでも別のクラスの生徒が上流貴族の出が多いので対応なんて無理でしょ?」


「学院法第三条、家の出や身分を利用した強迫行為、権力を乱用することを禁ずる、だ。できないも何もやる、だ。それに魔術学院の講師は権力というか、危険度で言えばこの世界で五本の指に入るヤバさだから貴族だろうが口出せねぇよ」


「でも、それでも」


「後俺の場合貴族だろうがなんだろうが割とどうでもいいって思ってるからな、困ったら相談してくれ」


「わかりました、その時はお願いします。それと先ほど言っていたクラスルールというのは?」


「絶対にやってはいけない、やるべきではない三か条だ。まず最初、勉学や能力で他人を差別するな、人の成長とか元の才能とかは個人差がある、特に魔術なんていう分野ではそれが色濃く出るんだ。どれだけ努力しようが越えられないことがある、資質が重要だからな。だから差別すんなよ」


ばっと女生徒がまたしても立ち上がって机を強く叩く。


「努力すれば魔術の能力は絶対に変わるはずです!!」


「無理だな、ある程度は変わるだろうが場合による、だ。大体の場合は無いけどな」


「どうしてそんなことを言い切れるんですか!!」


女生徒が切実にここまでいう理由は簡単、彼女が今現在学院での最弱の生徒だからだ。

生まれつき魔術に関する才に恵まれていなかった彼女はただひたすら友人の背中を追って学院に入学した。

それでもやはりできないものはできない、努力はしているのだが中々成果が出ない。

真面目な生徒なので周りの教師は笑っていつか成果が出ると言っていた。


なのに今この講師はなんと言った。

努力は無駄?ある程度しか変わらない?大体の場合無い?


「だって俺魔術一つしか使えないし。それ使えるようになるのに詠唱の公式覚えて数百回魔術試算をして魔術式を無理やり魔道具に変えて、それで三、四節の詠唱をしてやっとこさ第一位の初級魔術を支えたような人間だぞ?」


「でもできるようになったんですよね!」


「あるていど、はな。そもそも魔術師が魔術を一つしか使えず絶対的な利点となる詠唱省略、高階位の魔術の打ち合い、結界の構築、それら全てができないのに努力の成果がでた、なんて言えるのか?」


「それでも」


「でも、でもって問い続けるんのは重要だが魔術を使うには魔力量に魔力変換効率っていうのがある。それら全ては生まれた時からある程度決まってるんだよ、大体の人間が努力したら強くなったっていうのは元からあった才能が開花しただけでそれ以上でもそれ以下でも無い」


魔術を使えない人間である誠が言うからこそこの言葉に重みがあった。

魔術が使えずクラスメイトに虐められ痛めつけられた才能の無い誠が死ぬほど努力し魔術に秀でた才能のある魔術師数人の叡智を結集してやっとこさ一つの魔術を体得したのだ。

それでも詠唱が長く、とても実戦用では無いのでほぼ意味がないに等しい最終手段である。


才能の無い人間がいくら努力しようと変わらない。

魔術の才が完全にゼロだった誠と違い女生徒はゼロよりは高いだろうがそれでも低いことに変わりはない、努力し続けて魔術師を名乗れるほどになるかはわからないほどだ。


「俺って魔力変換効率0.0028、魔力量18なんだ。一般的な魔術師の平均魔力変換効率が千から高くても四千、一部の勇者とかが万越えで魔力量も千から勇者で万、まぁ俺は魔術師でもなんでもないわな」


誠の魔力変換効率と魔力量に思わず生徒たちは絶句し信じられない、化け物でも見るように誠を見る。

正確には、ただでさえ才能の無い落ちこぼれクラスと言われていても変換効率は八百程だ、それなのに一以下、魔術に向いてないと言われる豚獣人ですら五百はあるのだ。

実際わけがわからないその数値にしばらく誰もが唖然とする。

だがそんなことを構わずに誠は口を開く。


「で、このように魔術の才がない人間が言ってもあれだが才能がなくても質は上げれる。変換効率、魔力の生成量とその保持できる量は努力では変わらない、それでも呼吸方法、詠唱工夫、幾らでも質を上げる方法はある。質が上がれば威力もある程度変わるし、命中精度は練習で幾らでも変えられる」


「そうですか......先生も大変だったんですね......」


質を上げるなど手数で勝負するような魔術師が思いつかない方法、本当に才能のかけらもない人間だからこそやるような事をしていたとう言うことは誠はまさしくそう言う人間だったのだろう。

もはや生徒たちの目には哀愁に満ちた空気を纏う新人講師にしか見えなかった。


「おい待て、なんで哀れむような......まぁいいや、ルールその二だが授業わからなかったら気にせず聞いてくれ、俺ができる範囲で手伝ってやる。それと最後のルールだが教室内での私闘禁止な?」


もう既にこの時点で誠のうざったさや鬱陶しさにイラっとくる生徒がいても多少なりとも信用していない生徒などいなかった。

こうして五日目にして生徒達が共通の認識を抱いた。

この講師なら面白いかもしれない、少なくとも自分達が変われるかもしれない。

そんな期待の元授業が始まるのであった。

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