第47話

「あああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


素早く跳びのき、誠の悲鳴が白色の空間に広がる。

彼が飛んだ場所に数十発の水の弾丸が突き刺さる。

まるで逃げ場を消していくように水柱は氷塊へと変わる。


「ちっ次は外さん!!」


完全に命がけで命辛々逃げ続けている誠とは裏腹にカニバルはなんとも楽しそうだ。

口を歪めてノリノリで新型魔法をその場で即興編集、どうすれば誠を逃さぬように叩き潰せるかを考えながら 次から次へと魔法を撃っている。

教授陣のみに許されるこの結界内ではあらゆる負傷は結果的になかったことにされる。

実際はその本人達の体を幾分違わずホムンクルスを魔術学院の地下にある部屋に生成、魂を結んだ結果実際と違わない戦闘をできるようになるーーというものだ。


「おぉぉぉぉい!!殺す気かぁぁぁ!!」


「はっはっは、逃げるなら逃げるがいい、潰してみせよう!!」


「潰さんでいい!」


悲痛な叫び声が上がるが容赦なく光弾が降り注ぎこの結界を把握していない誠は本当に殺されると認識して逃げ回っている。

だがカニバルからすれば日頃から無茶苦茶を押し付けるポンコツ学院長や学院の変態教授達が行うセクハラなどなどの処分対応に追われる上に隣のクラスのロクでもないクラスの対応、ブラック企業顔負けの労働によって精神的に疲労していた。

魔力を放出するという行為は行き過ぎると重度の疲労のような感覚になるがそこに至らなければある程度スッキリする行為なのである。

よって今現在ギャーギャー逃げながら中々仕留められない誠を攻撃するのは最高のストレス発散であった。

と、カニバルにとって得しかないが誠からすれば地獄に等しかった。


「満開!!満開!!なんで使えねぇんだよっ!?」


「ふっ何を叫んでいるんだ?ほうら、避けてみろ!!」


「くっそぉぉぉ!!」


そう、ホムンクルスの体を別の場所に生成し戦うこの模擬戦に於いて自身の体の中の魔力機関から操作などなどしなければいけない満開や開花、要するに実際の体に劣る作り物の体では使えなかったのだ。

だが逆にホムンクルスの体は魔術師専用に近いのでカニバルが魔術を行使するのは問題なくできる。

圧倒的不利、超集中しか使わず熟練の魔術師に接近するのは至難の技だった。


「クソが!!」


冷静に誠は一八発の水弾の数々の軌道を予測、超集中を使い見極める。

八発は陽動だ、当たらなくてもいいと言った感じで自分の居場所に向けて放たれている。

残りの十発のうちの五発はこちらの両足、機動力を削ぐために自分で操作しているようだ。

そして残りの五発は頭部と心臓、確実にこちらの命を奪うための攻撃だ。

誠は右に飛んで八発を回避、うまく着地し素早くカニバルに向けて走り出す。

致命的な一撃なり得る頭部を狙った三発を自身の右脇腹を力強く殴りつけて無理やり避ける。

体の重心がズレたのを利用し地を蹴り足を潰しにかかってきた五発のうち三発を回避するが二発が足を削り取る。

それでなお動きを止めず、魔術の行使のインターバルを狙い誠は更に早く走り出す。

如何に強力な魔術師だろうとあれほどの大魔術を無詠唱で行使すれば多少なりとも次の魔術使用まで数十秒は開く。

満開は使えないーー開花も使えない、それを理解し誠は心臓に最も近く魔術講師に向いていると言われている左腕を四十メートル離れたカニバルに向ける。

誠は魔術の才能は無いに等しい、だがそれでも身体強化の初級魔術ぐらいなら使える。


「『詠唱オープンーー』」


翡翠色の美しい魔力が身体中を伝い左腕へと流れる。

カニバルは危険性を考え素早くインターバルを縮める魔術を使用ーー得意属性である水の初級魔術である水生成を使い空中に水の塊を生成、重力魔法の初級魔術を連射し水を加速させる。


「『生徒である我が命ずる 高位なる生命神に求むーー』」


本来なら一流、三流以下の魔導師でも身体強化の詠唱は無詠唱で発動できる。

だが才能のかけらもなく魔術のセンスの一つもない誠は長ったらしい詠唱を唱えなければこんな簡単な魔法すら使えなかった。

そんな中でも死ぬほど努力して使えるようになったたったひとつの魔術。


「『常軌を超えた天の力を 我が体に乗せよーー身体強化ボディアップ』」


身体強化の詠唱が完了し誠の左腕の光が身体中に乗る。

体が軽くなったような感覚を味わいながら誠は一瞬で数十メートルの距離を消しとばし脇腹を貫く水弾を左腕を使い孤塁の原理を応用、水弾を逸らしカニバルに肉薄。

素早く右手を突き出しカニバルの腹部に一撃を加える。


「くっーー」


強力な突きがもろに入りカニバルは苦々しげに顔を歪めて避けるが誠にとって今はそんなところではなかった。

プルンッとカニバルの胸部が確かに揺れてーー


「死ね!!」


直ぐに体勢を立て直し、動きを止めた誠に向けてカニバルは氷魔法を放つが咄嗟の反応で誠は回避。


「逃さん!!炎海!!」


逃げた先に向けて放たれた大炎塊が焼き潰さんと煉獄を作り出し、避けきれなかった誠の両足が焦げ落ちる。


「いってぇぇぇぇぇぇぇ!?って痛くない......?」


「貴様何言っているんだ?流石に人道的な部分を考えて痛みは消してあるぞ?」


「えっえっ、ちょっと待てこの体......」


「人造人間の体だ、まぁいい、両足をなくせば貴様も逃げきれんだろうーー」


ここでやっと事態を理解して誠はそういうことかと納得するがーー


氷結世界アイスワールド


先ほどからカニバルが放った水魔術の数々が誠を囲うように円を描き魔法陣を構築、誰も気づかないような念密な計画により液体が魔術陣を描き空色に輝く。


大噴火ーーそう称するにふさわしい大爆発。

噴出するは溶岩を彷彿とさせるようなマイナス数百度を下回る大量の水滴が魔術により液体を保たれ地面からあふれ出した。

溢れ出た液体は円内を満たし一瞬で氷塊へと変わり誠を一瞬で閉じ込め身体中の機能を奪った。


あぁーー


「(痛いな・・


そう消えゆく意識の中で、密かに中二病くさい魔術名の名乗り上げに過去の記憶を掘り返され彼は静かに涙した。


「って待てよ」


ぱっちり、誠は両目を大きく見開き自身の両足を見る。

しっかりとした素材で作られた魔道具である靴に娘がお揃いがいいと言って使うことになった緑色の靴下。

そう、間違いなく自分の両足がそこにあった。

焼け焦げてもいなければ切断されてもいない、身体中が氷結していることもない。


「こっわ、魔術こっわ」


「ふんっ、決闘の条件だ。私が勝利したんだ、貴様は普通に授業しろ、それが要求だ」


「ドS先輩こっわ!!」


「そのドSというのはなんだ、妙にバカにされてる気がするんだが!!」


「いやいやいや、身体中を中から全部凍らせて圧力で粉々に崩すとかあんた発想が恐ろしすぎるだろ!!」


一度自分から身体中を壊され続け数百回死んだ誠が言ったところで説得力のかけらもない。


「ふん、あの魔術の構造を理解したか。あれは私が製作した魔術で他の人間には使えん」


「それだからあんな頭おかしい構造なんですね」


誠は遠い目をしてそう呟き腕をぐいっと上に伸ばし教室を見回す。

気絶してる生徒たちに何故か唖然としている女生徒、誠は首をかしげて問いかける。


「どうした?」


「えっえっと、そっその精霊って......?」


女生徒はまっすぐと誠の頭の上に乗るミウの契約精霊であるアイスアを指差す。

だが頭部の上など見えるはずもなく誠が振り返るが当然そこには何も無い。


「何言ってるんだ?」


「貴様、精霊術師なのか?」


「いやだからカニバル先生も何見てるんですか?」


フイッと誠は三百六十度自身の周りを見るが誠の髪の上で欠伸をかくアイスアの姿は見えない。

誠が首をかしげるがそれでもついついカニバルを見てしまう。

先ほど魔術師のローブと白色のシャツが耐用限界を超え弾けた際に見えた豊満な双谷を思い出して誠は顔を逸らした。

確かに魔術を使えば男装も余裕だろう、今彼ーー彼女の胸は真っ平らのように見えた。

ホムンクルスとして別の場所で活動するということは実体に影響を与えない。

なので服もはだけてないのだが何気に超集中で目に焼き付けてしまった誠は気まずくて顔を逸らした。

はぁっと誠の髪の毛を弄るのを飽きたアイスアは心底暇そうに嘆息した。


「おバカさんここですよ、何やってるんですか」


「おっアイスアか、お前なぁ......」


「何か文句があるんですか?灯台下暗しにもほどがありますね」


「うっせぇ」


頭上にいても精霊には重量がないに等しいためいても気づかない。

精霊とは人に気づかれず悪戯をしたりしていつの間にか消える、それが彼女ら精霊レプラカーンなのだ。

彼女はもう一度嘆息をひとつ、


「とりあえず非常に残念なことに私が学院にいる際の手助けをすることになりました、非常に嫌ですけどよろしくお願いします、けっ」


「あぁ、助かる、てか毒舌にもほどがあるだろ!?」


「それと一日数億でいいですよ」


「金取るのかよ!?」


「冗談に決まってるじゃないですか。これだから朴念仁浮気男はダメなんですよ」


「おい待て俺がいつ浮気したってんだ?真面目な話」


「はぁ......吸血鬼の姫に魔術学院の内のバカ主、病弱だった系妹に後は次女に長女、どこが浮気してないと?」


「待て待て待て、メイリーはガキンチョみたいな感じだしミウは多分家族だ。そして妹もそうだし娘たちなんかまんま家族だろ?浮気もクソもないだろ?」


「はぁ......あなたの中ではそうなんでしょうね」


「妙にイラっとくるワードベストテンを選ぶなよ」


誠が苦笑いしながらそう呟くとアイスアは煙のように姿を消してどこかに行った。

ひとまず彼は教壇に立って今現在気を失っていない唯一の女生徒に虚しい自己紹介を始めるのであった。

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