第46話

七年八組。

この単語は落ちこぼれの同義語として扱われる。

魔術学院は等しく平等であり等しく残酷である、魔術の才があるものは最上位のクラスである一組に編入されまた成績非優秀者は最下位である八組付近に編入され同年代でも差別に近い扱いを受ける。

そんなこともあってクラスは軽くクラス崩壊していた。

こんな八組に落ちてしまうのは貴族の三男坊や平民の出の生徒が多い。

魔術学院の主義である来るもの拒まず去る者追わずがどんな生徒でも平均的な魔術さえ使えれば入学できるというものだ。

国中から貴族の娘息子が集まるような魔術学院となれば貴族達もこぞって娘息子を入学させる、それが将来的な友好にもなるし自分の家が潰れた際の受け入れ先などができる可能性が高いからだ。

その上魔術学院で娘息子が上手くやり一組の上位者になれば学院側から数多の重要機関からのお誘いが来る、そうなれば家には富と財が流れ込んでくることだろう。


なるほど、こう聞けば魔術学院に入学しない手はない。

ーーだが平均というのは常に年を追って上昇するものである。

一年の頃は入学に必要な魔術さへ使えればいいかもしれない、だが年をおうごとに難易度があがりできるものとできないものが出て行く。

その結果が八組、落ちこぼれの底辺の八組であった。


落ちこぼれの烙印を押された生徒達は伊達に貴族の子供という事もあって学院側も下手に出れない、いや出れるのだが講師になるような常識人・・・は平民の出が多く親に口でも聞かれれば自分の地位が危うくなる。

そういう事もあってクラスについた第二のあだ名は講師潰しの落第八組、勉強もできないくせにその勉強に必要なはずの講師すら潰してしまう屑の中の屑。


そんな落ちこぼれクラスでは今日も案の定混沌の二文字であった。


「「「「喧嘩を先に売ったのはどっちだ?あぁぁ?」」」」


複数人の怒声が鳴り響き、教室内は綺麗な二色に変わる。

鮮やかな朱色に深めの青、生徒達が羽織るローブの色だった。

喧嘩など日常茶飯事のクラス内で二つのグループの代表達のような生徒が前に出る。


方や朱色のローブを羽織る少女、艶やかな金色の髪にキリッとしたつり目、血のように赤い双眼は西洋人形の美しさがあった。

彼女から醸し出される雰囲気はさながら貴族の令嬢のよう、彼女の周りが美しく輝いているように見えるのだろう、もし彼女が指ぬきグローブにダサく本当に痛い床をひきづるようなローブを羽織ってなければだが。


彼女が睨みつけるは大柄な男、熱魔法に才を持つのかその尖った荒々しい髪と燃え上がるような双眼は炎のように赤かった。

彼はとても整った容姿で異性から見ればさながら荒っぽいタイプだが熱い感じのいい男と思われるようなものなのだろうが、肩にかけた青いローブが彼の特徴のことごとくを踏みにじるように致命的に似合っていなかった。

学生が頑張っておしゃれしてみました、と言って三百二十度おかしな方向に行くのと同じである。


「あきらかに貴方が先に煽りましたよね?青薔薇会の生徒は乱暴な事で」


「あ?うちの最弱を煽り散らしたのはそっちのクソビッチだろうが?喧嘩を売ったのはお前だ」


どうやら些細な問題らしいがそれすらも大問題の戦争になるのだ。

二人とも喧嘩口調で続け、周りの野次馬は一瞬即発の状態へと変わる。

そんな爆発直前のダイナマイトに火を付けるように不敵に彼女は笑う。


「話は平行線、とてもではありませんけど学習能力と判断能力を欠如した猿以下の貴方に通じるわけありませんね」


「前頭脳切り落としてきたのかクソ猫?テメェらみたいな女の集まりがいくら騒いでもどうとも思わんわ」


「どうとも思わないのならどうしてこうやって食ってかかってくるんですかねクソ犬?言葉でそこまで言っておきながら実際はお冠なんじゃないのかしら?」


「弱いものよくよく吠えるというがこの場合鳴くだな。猫は吠えるというより鳴くだもんなぁ?」


「魔術師同士が揉めた際の解決法はただ一つーー」


「ーー戦争じゃぁぁぁぁ!!」


刹那、爆音が響いた。

一瞬で空気は豹変し決闘の意思を表明するバッジの投げ合いが始まる。

ルールなど当に知れている、所属するグループのメンバーが勝ち星を上げれば一つのグループの勝利となる。

ある程度の広さのある教室内で魔術のどんぱちが始まり一人の男子生徒は先ほど最弱と呼ばれた生徒に向けて声を荒げる。


「おい、先公が来ないか見張ってろ!」


「えっえっと......」


気まずそうに緑色の髪の彼女は黒色の両目で横を見るとそこには一応講師の制服を着た二十代ほどの男性が一人、しかもどっちを応援してるのかわからない。

だが確実に大声をあげて騒いでるのは確かだ。


「やれー!!おいそこ防御薄いぞ!そこ攻めちまえ!!」


黒髪黒目、見慣れないその姿の男は大声でリーダー格の青側の男子に指示を出す。

それを聞いてか彼は男の指差した方向で大型の防御魔術の起動準備をしているのを確認し声を上げる。


「おい!解術魔術をつかう必要はねぇ!攻撃魔法で打ち倒せ!」


「「「おうっ!!」」」


やたら練度が高い生徒達はすぐに人差し指を向けて詠唱を開始、それをカバーするように速射系の威力の低い魔術を使いリーダー格の生徒は赤側を翻弄する。

そしてなぜか黒髪の男は防御に徹する赤側に向けて肺に息をためて思い切り声を上げる。


「とっとと陣形立て直して攻勢に出ろ!そこの周りでグダグダしてる女生徒に速射系の風魔術を撃たせて青側の足止めをしろ!!」


普通ならば戦闘に集中して耳に入らないのだが、青側の猛攻に耐え凌いでいたリーダー格の少女は突然声をかけられ思わず耳を傾けてしまう。

すぐに少女は状況を客観的に見て後退、遠くから威力の低くレンジの短い魔術を使っていた生徒たちに素早く指示を出し攻勢に出る。

青側が押していたのになぜか今は赤側が拮抗し始め、そしてすぐに赤側の有利へと変わる。

そんな様子を見てた完全に外野の最弱と呼ばれた生徒は黒髪の男の肩を叩く。


「えっと、新しい先生って貴方ですか?」


「そうだ、てか何これ?なんでどんぱちしてんの?」


男は頬を掻きながら魔術戦を繰り広げる生徒たちに目を向ける。


「それを知らずにノリノリで指示を出してたんですか?」


「いやだって面白そうだろ?」


「だろって言われても講師なら普通止めますよ?」


「だってまだチャイム鳴ってないし自由時間だろつまりオーケー」


「いい加減なんですね」


「時間に寛容で器が大きいと言ってくれ」


実際は時間を自分が守れないので寛容なだけだ。

つまりはただのろくでなしのダメ人間である。

男は時計を確認すると授業の時間まであと数十秒、無論その間に決着はつきそうにない。

冷静に観察し盛大に溜息を吐いた、あぁやってどんぱちしてるのをどう止めればいいのか、そもそも止めなくてもいいんじゃないか?と。

そうすれば生徒の勝手で授業が潰れたので自分に責任はない、監督責任知らない子とですね。

若干授業の開始すら不可能だと思い始めていた黒髪の男ーー誠は元気だなーと呑気に呟いた。


「なぁ、これっていつ終わるんだ?」


「だいたい隣のクラスのカニバル先生が来て制圧してきますよ?」


「そりゃあ簡単なこって、じゃあ俺はしばらく何もしなくていいわけか」


「多分そうはならないと思いますけど......」


彼女は俯いてそう呟くと同時に授業開始のチャイムが鳴るが生徒たちは魔術戦に集中してるのか、それとも気にも止めてないのかがん無視して戦闘を続ける。


ガチャっと勢いよく扉が開かれお隣のクラスの担当であるカニバル教授が苛立ち気に部屋に入ってきた。

流石に防御魔術が学院中に配置されてるとはいえ騒音は耳に入る。

授業を妨害されて大変お冠らしい、ところどころ修復の跡が見えるのはなぜだろうかと誠は考えるが面倒ごとになるので素早く女生徒の後ろに隠れた、誇りのかけらもない。


「おい!!今日は講師が来るはずだろう!そいつはどうしてる!」


「えっえっと......」


激昂する彼を尻目にさりげなく隠蔽の技能を使用した誠は口笛を吹く。

一切反応する気配のない彼の代わりに哀れな女生徒が返事をしていく。


「学院長が直々に押しーー推薦した有能な講師との事だ、まさか生徒に混ざって暴れてなど......」


「暴れてはいませんけど......」


指示はしてノリノリでふざけた挙句今隠れている。


「えぇい!ならばやつはどこにいる!?まさか遅刻したなどという事態にはなっていないだろうな!!」


「遅刻もしてませんけど......」


遅刻はしてないが授業を始めようとしていない。

いい加減堪忍袋の尾が切れたカニバルは鬼のように激怒し素早い水魔術を速射、卓越した技術で放たれたその連続発射はざわざわと争い続ける生徒たちの急所を殴るように打ち付け戦闘不能に追い込んでいく。

複数の生徒たちはなんとか対応しようとするがやはり戦闘経験が足らず変態的な状況予想と共に放たれる魔術に為すすべもなく気絶ーー撃破されていった。

クラスメイト総勢三十数名が撃破されるまでに要された時間たったの五秒、戦闘経験の差がありありと現実としてそこにあった。


「さーて授業を始めるぞー全員席につけー」


刹那、突如現れた(隠蔽を解除しただけ)の誠は完全に伸びてる生徒たちにほくそ笑み黒板に名前を書いていく。

今までの状況がまるで嘘かのような、完全に場を無視したその行動に一瞬カニバルと一切戦っていなかった女生徒は唖然とし、そしてーー


「ってなるかー!!貴様先ほどまで何やっていたんだ!」


「それはもう生徒たちを説得しようと必死になってましたとも」


「でも先生ノリノリで......」


「この講師の風上に置けぬようなろくでなしが、貴様にはこの学院の講師という自覚がないのか!」


誇り高き国の宝である魔術学院の講師としてカニバルは強い言葉で続ける。

この一人の講師の行いで学院の品位を落としてはいけない、そういった理由からだった。


「緊急職員会議を開き貴様のクビを進言させてもらう!!」


「ですよね、やっぱ仕事辞めた方がいいっすよね!」


初回からこんな問題児だらけの教室を任されるとは誠も想定していなかった。

流石に給料はいいのだろうがこんな胃が潰れそうな教室は願い下げだった。

だが完全に感覚の麻痺しているーーというか学院の講師としての銀次などを深く考え激昂しているカニバルはそれに気づかず唖然とする。


「なぜ貴様嬉しそうなんだ!?学院長が推薦したはずの講師だろう貴様は!」


「ちっどれだけ権力乱用したんだか......あいつにも横暴な真似はやめろっていっておいてくださいよ」


「私は今貴様について話をしているんだ。授業を始められないような人間が講師をする資格など無い!」


ビシッと指をさしてカニバルは締めくくる。

だが当の誠は黒板に書いた名前にふりがなを振って振り返る。


「あっ俺の名前は信条誠と言いますよろしく」


「はいよろしく頼む私はカニバルーーじゃ無い!?貴様ふざけてるのか!!」


「ナイス乗りツッコミですよ。漫才の才能ありますよきっと」


「貴様はどこまでふざけた態度を取れば気がすむんだ!!この講師失格のろくでなしが......私が直々に成敗してやろう......!!貴様にこれが避けられるかな?」


特別にデザインされたのだろう、美しい宝玉を象る魔術師としての誇りであるバッジを風魔術の複合魔法を使い誠に向けて発射する。

割と容赦なく込められた魔力によって強化されたバッジはとてつもない勢いで空を切り、そして吸い込まれるように誠に向けて飛ぶ。


(ポンコツ学院長とはいえ世界最高峰の魔術師、彼女が推薦するほどの講師だ、性格は破綻してようと戦闘には慣れてるに違いない!!これを受け止めてみろ!!)


そんな軽い期待を込めて飛んだバッジに向けて一瞬、誠は口を歪めーー


「あべしっ!?」


頭部に激突したバッジの反動でグルングルンと勢いよく誠の体が空中で回転し、そのまま地面に顔面から落下、激突しカエルが潰されたような声を上げた。

なんとも哀れなその姿に一瞬カニバルは瞬きしーー


「は?」


と、間の抜けた声を発して自体を理解、いや理解というよりかは驚愕が上回り口が止まる。

そんな静止した二人を置いて誠が立っていた壇上にツーっと赤い液体が流れた。

忽ち広がっていくその液体は間違いなく血液、その事実をいち早く気づいた女生徒が震えながら嘘っと呟き恐ろしいものを見るかのように隣で唖然としているカニバルを見る。


「こっこれは!これは私の責任ではない!奴が防ぐと私は考えていたんだ!」


言い訳がましく言葉を述べるが刻一刻と血は流れる。

こうやっている間にも誠の命は消えていくーー震えながらも女生徒は近づき傷を確認し回復魔術を施そうとするがーー


「痛いんだけど死ぬんだけど死んだらどうすんだよ!?魔術学院こっわ!?」


そう戦々恐々しながらも立ち上がった誠を見て二人は顎が外れそうなほど口を開けて真っ赤に染まった誠の顔を見る。


「えっ先生、血は......?」


「血?ケチャップだよ、昼飯用のケチャップをしまってた容器があるんだがそれが壊れたのか中身が一気に溢れたんだよ。それで汚れを自動的に排除する学院の講師服がサラサラ系ケチャップを服に当たらないように排除してーーってなんだこの大惨事!?俺悪くないからね、俺のせいじゃないからな!!」


ほぼ理由もなく人を殺してしまったという罪悪感と自分が密かに慕う学院長の大切な友人を殺したという現実に絶望していたカニバルはやっと状況を理解したのか誠の頭部へと指を向ける。

そこには完全に砕け散った宝玉のバッジの欠片があった。

よくよく思えば何故誠の体が何回転もしたのかーー客観的に冷静に見ればそれの事実がわかる。

誠は素早く超集中で飛んでくるバッジの姿を確認、避けようかと思ったが生徒たちの死屍累々とした姿があり下手な勢いで着地してしまえば潰してグロ画像にしてしまうかもしれない。

と、いうこともあってぶつかるであろう額に開花・守を集中展開し、当たるタイミングで勢いを殺すために自ら少し飛んだのだ。

そうすることで回転で済み、身体中の骨が反動で弾け飛ぶなんという間抜けな事態にならずにすんだわけだ。


「カニバルテメェ殺す気か!?よのなかにはやっていいこととやっちゃいけないことぐらいあるんだぞまじで!?」


「きっ貴様がきちんと講師にふさわしい行動をとれば良いだけの話だ!」


「だからって殺しにきます普通!?」


ド正論である。だがもちろんろくでなしの言う正論ほど認めたくないものである。だがそれでも致命傷をおわせてしまいそうになったのは間違いない。

間違いないのだが、間違いないのだがーー


「けっ決闘だ!!良いな!!」


だがどうしてもカニバルのプライドがそれを許さなかった。

その結果として決闘を彼は申し込んだのである。

決闘ならばどう転んでも自分の意見を押し通せる。

もう既にバッジは命中しており決闘の条件は確定している、つまり決闘の条件は有無を言わさず成立している。

もう素手に混乱し尽くしているのだ、混沌は混沌を呼ぶ。


「いやちょっと待てよーー」


だが有無を言わさずカニバルは教授陣のみに使用を許可されている結界魔術を使用ーーここに勝負が開始されたのであった。

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