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「で、もう教室なんだが……言わなくていいのか?」


席に座り、仏頂面を浮かべる浩介へと話を振ってみる。

口に出したく様子が見てとれるけれど、内容事態は気になる。

浩介が手を借りるなんて、UFOキャッチャー以外だとそう多くはない。遊びに誘うのであれば、こんな態度は取らないので何か別の要件なのだろう。


「あーそう、だな。いつまでもふて腐れてはらんねぇか」

「そうよ。時間は有限なんだから、ちゃっちゃと話なさいな」

「あたしたちにお願いってなんなの?」


原因その一とその二は、まるで何事も無かったかのようである。余計な傷をつけるから浩介も話しにくくなっているのだろうが、当人たちはまるで気づいてはいない。

いや、気づいていても無視している可能性はあるな。浩介だから大丈夫。なんて根拠のない自信の元に行動しているかもしれないし。


「まぁ、身内の話だから気後れしてたんだが、ちょっと長引いててな。手を貸して欲しいんだよ」

「身内。私たちが手を出してもいいのですか?」

「いいんだよ。みんなも知ってるしな」


俺たちが知っている浩介の身内と言えば……まさか。


「それって紀伊きいさんの話とか言わないよな? 」

「まさしく。そうだよ」


重いため息をつきながら落とされた爆弾に、全員が絶句してしまう。

紀伊さんとは、浩介の四つ年上のお姉さんだ。色々とお世話になったことがあるため、全員面識がある。だが、問題はそこじゃない。

俺たちが絶句したのは、その紀伊さんがなにやら問題を抱えているという現状に対してだ。

大抵の問題を、周りを巻き込んで解決していくタイプの人が、浩介の手を煩わせるような状況に陥っていることが理解できなかった。


「それ、本当。かしら?」

「嘘言っても意味ないだろ?」


乾いた笑みを浮かべる姿は、相当の悩みを持っていることを示していた。

記憶の中にある紀伊さんを思えばこそ、冗談のように感じてしまう。

大胆不敵で豪快な人だった。丁寧な言葉遣いなのに、相手を論理的に追い詰める様は芸術のようであり、双葉やアリスは大きく影響を受けていた。

一体、何が起こったのだろうか?


「詳しく。話してくれるか。茶々入れはしない」

「わーったよ。あんまり言いたくは無いんだけどな」


そう前置きすると、淡々と状況を語った。

簡潔に言えば、恋人との破局して塞ぎこんでいるとのことだ。

紀伊さんはとてつもない美人で、高嶺の花とされてきたが、大学に入って彼氏が出来ていたそうだ。

それが、突然別れてしまい。実家に帰って部屋に閉じ籠り出てこなくなったらしい。


「姉ちゃんは、その人と結婚する気満々だったんだよ。家に連れてきたし。オレも挨拶した。好青年でな。ゲームの主人公かよって何度も思ったね」


話が終わり。浩介は自分の感想としてそう締めくくった。

浩介自身信じられないのだろう。いい人であると、認識していたならばこそ、なおさら……

アリスと目を合わせた。

静かに横に振ることから、俺の言いたいことは分かったのだろうが、記憶にないようだ。

俺だってこんな話は始めてだ。前の世界では無かったことである。言わなかったのではなく。きっと順調だったのだろう。

なら、何らかの事態が起きていると考えられる。


「その彼氏の連絡先は分かるのかしら?」

「ああ。だけど、メールも電話も出やしない。オレだって何とかしようと思ったんだぜ。でも、無理だった。親も色々話してたけど、どうしても駄目なんだよ」

「だから、俺たちってことか?」

「ああ。オレには、他に方法が思い付かねぇんだよ」


いつもは明るい浩介の悲痛な叫び。

想定していない内容に、どうするべきか迷ってしまう。

家族の問題に部外者が深く足を突っ込むのも、どうかと思ってしまう。あまり、感触してしまえば、紀伊さんから顰蹙を買いかねない。それを歓迎出来るほどの胆力は俺に備わってはいない。

内容が内容だけに、双葉もアリスも悩んでいるようだった。

浩介が話しにくそうにしていたのも納得である。


「仕方ないわね」

「有村?」

「あたしは手伝うわ。紀伊さんにはお世話になったもの。それに……」


浩介から視線を逸らした。

もしかしたら、浩介との未来を意識しているのかもしれない。

口ごもる有村に対して、笑みが溢れた。

本当に、仕方がないな。

双葉たちに視線を向ければ、似たような顔をしている。

長く同じ時間を過ごしたせいか、考えが似てきているのだろう。


「浩介。俺たちも力を貸す。友達だしな」

「そうね。貸すことは確定してたわけだし」

「微力でも、力になります」

「おお! ありがとう。ありがとう」


まだ情報の集まらない魔女についての対策はひとまず放置だ。

目の前に出来た壁から壊していくことにしよう。

方針は決まった。紀伊さんのために力を合わせるのだ。

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