3

「頼む。手を貸してくれないか?」


そう言いながら手を合わせて深々と頭を下げる浩介。

学校へと向かうバスに三人で乗り込み、のんびりとした時間を過ごしていた俺たちに舞い込んだ案件。


「それ、私たち必要なのかしら?」


少し苛立ち混じりに問う双葉は両腕を胸の前で組んで仁王立ち状態だ。

格好がつかないためか、荷物はアリスに預けられていた。

バスのど真ん中でこんなことをしているものだから視線を一点に集めているが、二人は気にする様子がない。

むしろ、アリスの方がオロオロしているくらいだ。


「出来れば、頼みたい。みんなだけが頼りなんだ」

「ふうん。私たちの時間を奪おうってことかしら?」

「いや、そんなことはないだろ。別に」

「私の白兎は黙ってなさい」


ぴしゃりと言い渡されて口をつぐみ、つり革を握って片手を双葉の肩に乗せる。

それと同時にカーブを曲がり、グラリと体が揺れた。


「うわわわわ」


何にも掴まらず、カーブを予想していなかった浩介はみっともなく倒れこみ、近くの椅子に抱きついた。

そこには人も座っているので、凄い形相で睨まれて必死に頭を下げている。


「さすがは私のね。ちゃんと助けてくれるわ」

「はいはい」


俺が抑えずとも踏ん張っていた気もするけれど、やるのとやらないので後々の態度が変わってくる。

自分の不注意であろうと、一日中ムスっとされるのはあまり歓迎出来ないからな。


「それで、浩介」

「ああ。えっと、な」

「手を貸すかは由里と合流してから決めましょう。あの子は、手伝ってくれるでしょうしね」


有村なら、確かに手伝うだろう。

なんだかんだで、浩介に甘いところがあるしな。


「ええ。有村もかよ」

「あら、嫌そうね」

「そりゃそうだぜ。絶対嫌味言われるからな」

「いいじゃない。そんなことで受けてくれるのよ?」

「そうだけどよぉ」


  不満げに口を尖らせている。有村となにかあったのだろうか?

 進展があったようには見えないが……


「今回は、あんまり頼りたく無いんだよな」

「どうしてだ?」

「ちょっとな」


 相談内容に関わることなのか、そっぽを向いてしまう。

 そうこうしているうちにバスが目的地へと到着する。バスを降りると、すでに有村が待機している。俺たちと同じ小学校ではあるが、バスで向かうほど遠くはない位置に家があるために徒歩通学をしている。

 別段待ち合わせの約束をしているわけではないが、いつも同じ時間のバスに乗っているからか、こうして待ってくれている。

 その理由が、双葉とアリスなのか。浩介なのか。俺には判断がつかない。

 ただ、前回を知っているせいか。二人は付き合うものだと思って接してしまっている。未だにその兆候を見せてはいないけれど、いつかは交際をスタートさせてくれることだろう。



「由里が合流したことだし、話なさい浩介」

「浩介。またなにかやったの?」

「オレを悪者にするなよな」

「でも、浩介だし……」


とてつもなく不安そうなその一言に、頷くことしか出来なかった。

浩介が相談。そのワードだけで身構えてしまえるほどに振り回されてきた実績があるのだ。

特に、有村は一番の被害者である。

前の世界では被害を被るのは俺だったはずなのに、双葉が事前に防ぐために、その余波が有村に流れてしまっている。


正直、好感度は見たくないレベルになっていそうなくらいだ。それでも、頑張ってほしいと願うのは二人の友達だからである。

支えてもらった過去は、もう無くとも。俺の心から消えることはない。


「浩介。汚れたり壊したりしない?」

「それは……えっと」

「目を泳がすなよ。変に勘ぐるだろうが」

「いや、まぁ。言いたいことは分かるんだ。でもな、仕方ないんだよ。オレだって困ってることなんだ」

「浩介くんが困ること?」

「浩介が困ることなんてあるのかしら? お気楽が形になったみたいなやつじゃない」

「酷い! それ酷くない!? ねぇ兎ちゃん。酷いよね!!」

「引っ付くな。それに、兎ちゃんはやめろ」


周囲の視線を集めてしまうので、浩介を引き剥がす。

なんでこんなに引っ付きたがるのか不思議でならない。


「ううっみんなが酷いよ」

「はいはい。自業自得でしょ」

「有村も容赦がない」


目をバッテンにして地面に膝をつく。

話が前に進まない。

でも、いつも通りの日常に笑みが溢れてしまう。

浩介の相談事がどんな内容なのか分からないけれど、この日常が壊れないことだけは切に願おう。


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