第35話 漂流船を探してほしい

「夜が明けてからじゃだめかい?」

目の前のほぼ暗闇の映像に、進行方向を示す一本の矢印。

その矢印が消えた。


 ・しっかり やすむ じかんに さんせい・

 ・うみに いるときだけ おふろに はいれる・


「・・・え? 風呂なんてあったっけ?」

秀太は今自分のいる犬小屋型PC端末のある部屋を隅々探してみた。

すると、トイレ(のような部屋)のすぐ隣に目立たない細い出入り口があった。

狭い螺旋階段を降りて行くと、実に分かりやすい出入り口。

おなじみの温泉マークが表示してある。

普通に脱衣所もあったが、浴室は・・・

足を伸ばせるスペースは充分にありそうな湯船。

でも、他にあるのは手桶と容器に山盛りしてある白い細かい粒。

ただそれだけ。 シャワーはおろか、蛇口すら無かった。

おそるおそる、その白い細かい粒を舐めてみる。

「やっぱり塩だ。」

そう言えば、石鹸とシャンプー、垢擦り用のナイロンタオルも無い。

本来なら事前にシャワーを浴びてから体を洗い、それからじっくりと・・・    湯船につかりたいところだが、ここはいきなり入ってしまおう、と決めた。

「・・・何年ぶりなんだろう・・・?」

適温の湯船の中で物思う秀太だった。



( あの丸いの・・・何かしら・・・? )

目が覚めたが、それが天井の照明と解るまで少し時間を要した。

「具合はどお? ルミちゃん。」

「・・・えっ!?」

大原ルミ、彼女自身が聞き覚えのある声、そして見覚えがある姿だった。

「イングリッド先生!? ・・・ッ!!」

「ダメよお、じっとしてなきゃ。 あなた、大ケガしちゃったんだから。」

見ると、腕だけでなく、体のあちこちに貼られた分厚い湿布のような絆創膏が。

「・・・・・・・・」

「ルミちゃん、絶対助かるって信じていたけど・・・正直心配だったの。」

「そうだ、先生! 社長さんは!?」

そう言った後、慌てて言い直した。

「・・・あ、知ってるわけないですよね。」

「いっしょにいた女の人でしょ?  あたしがそこは危ないですよーって注意しようとしたら、いきなりドーーンってきちゃったもんだから・・・」

「え、先生・・・近くにいたんですか?」

「だからこうやってあなたを助けることが出来たんだし。  で・・・その社長さんなんだけど、今ね・・・一生懸命探しているみたい、ルミちゃんの事を。」

それを聞き、カッと目を見開いて先生の事を見るルミ。

「先生! あたしのスマホ、どこにあります!?」

「それなんだけど・・・ ホント、ごめん!!」

「・・・どうしたんですか?」

「メッセージ書き残してね・・・ 置いてきちゃった。 ホント、ごめん!」

「先生って、スマホとかケータイ持ってない人でしたっけ?」

「・・・・うん、そうなの・・・」

先生の残念な一言に、ため息をつくルミ。



軽く手の平で擦っただけなのに、消しゴムのカスのような感じで取れてしまう垢に

ハマッテしまい、ついつい長湯した秀太。

犬小屋型PCのある部屋に戻って見ると、そのモニターにメッセージらしい文面。


       ・ひょうりゅうせん を さがしてほしい・


「漂流船・・・?」

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