第90話 有能な助手が居ると話が良く進む

 勇者に世界を救って貰う為に、隠された謎を解き明かす行動へと移った俺。

 俺を召喚した魔法使い、リズ=レインハートの了承も受けて、堂々と世界の謎を追う事が出来るようになったのだが……


「……さて、どこから始めれば良いのだろうか」


 ぽつりと言って、腕を組む。

 戦争中に様々な人から謎を解き明かすフラグを立てられたのだが、その間にも魔物やら人間やらが攻めて来て、全てが有耶無耶になってしまっている。

 おかげで、何をどういう順番で調べれば良いかが分からなくなって居た。


「うーむ……」


 小さく唸って天井を見上げる。

 自室の天井。

 古い遺跡という事もあり、石造りでごつごつしている。


「ミツクニさん。お困りのようですねぇ」


 突然聞こえた声に、慌てて周囲を見渡す。

 すると、座って居たベッドがもそりと動き、布団の中からフランが現れた。


「フラン……いつの間に」

「ふっふっふ……謎ある所に私ありですよ」


 布団をまくって起き上がるフラン。

 その服装、何故かチアガール。


「よーし。お前最近ふざけ過ぎだぞ」

「ええー? 折角ミツクニさんがウヒョーな服装をして来たのに」

「ウヒョーってなあ……」


 ベッドから正面の椅子に移動して、フランを真っ直ぐに見詰める。

 黄色と銀色のチアガール衣装。スカートが短くて、綺麗な足がこんにちわしている。


「……うん。まあ、何だ」

「ウヒョーですか?」

「ですね」


 その言葉を聞いて、フランがベッドの上で飛び上がった。


「1ウヒョー頂きましたー!」

「そんな事より、いつからそこに居たんだ?」


 飛び上がったフランがベッドの上に座る。


「世界を救う為に、勇者の親友役として召喚された男、ミツクニ=ヒノモト……」

「最初からかよ!?」

「いやー。中々面白い見世物でした」


 フランが楽しそうにケラケラと笑う。

 俺は顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしかったが、そこから話を聞いていれば話が早いと思い、気持ちを切り替えた。


「そう言う事で、謎を追う事になった」

「やっとですか」

「やっとだ」

「前振り長かったですねえ」

「そう言うな。色々あるんだよ」

「そうですか」


 相変らずニヤニヤとしているフラン。

 勝手にリズとの会話を盗み聞ぎしていた事に、何か文句でも言ってやろうかとも思ったが、そのまま話を進める事にした。


「それで、どうすれば良いと思う?」

「いきなり全投げですか」

「仕方ないだろ。俺一人で考えるより、フランに頼った方が効率的なんだから」


 そう言うと、フランが急に目を丸める。


「どうかしたか?」

「いえ、こんなに素直に頼られるとは、思って居なかったので」


 今回は今までと違って、ノーヒントからのスタートだ。現在の状況から話をまとめるのは、俺個人では正直難しい。

 ここは全ての事情を知って居る天才に頼るのが、謎を解く一番の近道だろう。


「そう言う事だから、頼む」

「仕方ありませんねえ」


 フフッと笑うフラン。先程までとは違い、本当に嬉しそうな顔をしていた。


「それでは、まず身近に起こった事から、考えてみましょう」


 フランが右手の人差し指を立てる。


「最初は、アーサーさんが言った言葉についてです」


 俺は腕を組み、小さく頷く。


「盗み聞きした話では、ミツクニさんはアーサーさんに、『世界の崩壊を誰か一人の犠牲で止められるとしたら』と、言われたんですよね」

「そうだな。そして、その後に攻撃された」

「はい。とても衝撃的な光景でした」

「これって、俺が犠牲なれば、世界が救われるって事なのか?」


 フランは小さく唸った後、顎に手を当てる。


「今までの状況から考えて、ミツクニさんの犠牲で世界が救われる事は、無いと思います」

「どうして、そう思うんだ?」

「アーサーさんが素直に退却したからです」


 意味が分からずに、首を傾げて見せる。


「ミツクニさんが犠牲になって世界が救われるのなら、アーサーさんは初撃でミツクニさんを殺していたと思いませんか?」

「嫌な話だけど、確かにそうだな」

「でも、それをしなかった。それはつまり、ミツクニさんが死んだ所で、世界は救われないという事に繋がります」


 その通りだと思い、素直に頷く。

 良く考えたら、俺一人の命で世界が救われるなんて、あるはずも無い。


「そうなると、どうしてアーサーさんは、俺の事を攻撃したんだろうな?」

「まあ、必要だったからでしょうね」


 あっさりとした答えに、再び首を傾げる。


「ミツクニさんの犠牲で世界は救われない。だけど、ミツクニさんに怪我を負わせる事は必要だった」

「どうして必要なんだ?」

「分かりません」


 そりゃそうだ。


「ですが、結果を考えれば、それが答えなんじゃないでしょうか」


 やはり意味が分からずに、苦笑いを返す。


「悪い。もう少し分かり安く頼む」

「要するに、ミツクニさんが攻撃されて、何が起きたか」


 それを聞いて、俺なりに考えてみる。

 俺が攻撃されて、起きた事と言えば……


「勇者ハーレムとアーサーさん達の戦闘?」

「それもありましたが、それが答えでは無いと思います」


 簡単に否定されて少し寂しくなる。しかし、すぐに気持ちを切り替えて、次の答えを言った。


「まさか、ヤマトが来た事か?」

「それです」


 フランがビシッと指を差してくる。


「ミツクニさんがピンチになって、ヤマトさんが現れた。私はここに、答えがあるのではないかと考えます」

「流石にそれは突飛過ぎるんじゃないか?」


 言った後、ちらりとフランの足を見る。

 うーむ。真面目に考えては居るのだが、どうしても気になってしまうな。


「ミツクニさんはムッツリですね」

「認めよう」

「はい。それで、どうしてそれが無いと思うんですか?」

「だって、あれはタイミングが良かっただけで、偶然だろう?」

「そうでしょうか」


 フランが足を崩して姿勢を変える。

 スカートが短いのだから、むやみに動かすのは危険だぞ?

 いや! むしろこれは挑発なのか!?


「ミツクニさんは、勇者の親友役として召喚されました。そこに何らしかの因果関係が発生していても、不思議は無いと思います」

「つまり、親友役の俺がピンチになると、勇者であるヤマトが現れると?」

「そうです」


 それを聞いて、今までの事を考えてみる。

 俺が危険な時と言えば、世界崩壊の予言があった時か。

 その時、ヤマトは……


「言われて見れば、世界崩壊の予言が現れた時は、何故かヤマトが近くに居たな」

「ですよね」

「でも、前回の青月の時は居なかったか」

「その時は、ピンチだったんですか?」


 その時の事を考えてみる。

 ヨシノ師匠との戦い。

 あの時はシオリが怪我をしたが、俺は大丈夫だった。

 そして、その戦い自体も、俺が危険になるような戦いでは無かった。


「……辻褄は合うな」

「ですよね」

「考えすぎ……と、言いたい所だけど、否定も出来ない」

「否定出来なければ、それが真実という可能性は残ります」

「つまり、ヤマトをこの遺跡に呼ぶ為に、俺を攻撃する必要があったのか」

「そうです」

「だけど、それじゃあ『一人の犠牲で世界崩壊を止められる』には繋がらないぞ?」


 それを聞いて、フランがニヤリと笑う。

 そして、胸を張って堂々と言った。


「死ぬ事だけが犠牲ではありません」


 言った後、フランがベッドから降りる。


「何かの為に負傷する事も、犠牲の一つです」


 俺を上から見下ろすフラン。

 これは、何か反論があるかという仕草か?

 もしそうならば、残念だが……


「筋は通っていると思う」

「ありがとうございます」

「そうなると、ヤマトの力を見る為に、俺を傷付けて呼び出したって感じか」

「その可能性も高いですが、とにかくこの遺跡に、ヤマトさんを呼びたかったんじゃないでしょうか」


 フランが俺の前で左右に動き出す。

 スカートがヒラヒラと揺れて危険だぜ。


「私としては、ヤマトさんの呼び出しに関しては、『一人の犠牲』の話よりも、『ゼンさんから話を聞いた』の方が、強く関係している気がします」

「なるほど……」


 短いスカートが気になって、全く話が頭に入って来ない。


「そうなると、この後もヤマト絡みで、何か起こりそうだな」

「そうですね」

「起こるとすれば、この遺跡の事か」

「あ、ミツクニさんもそう思います?」

「だって、さっきの話を真実とするなら、ここにヤマトを呼ぶ事が重要なんだろ?」


 俺の答えに、フランが満足そうに頷く。


「その話の流れから考えて、今から何かが起こるとすれば……」

「遺跡の中央、動力室でしょうね」


 フランの答えに頷く。


「リズや勇者ハーレムの出来事から考えると、遺跡の開放だろうな」

「まあ、その遺跡は故障中ですが」

「まだ治らないのか?」

「そうですねえ。もう少しかかりそうです」

「そうか。でも、一度動力室には行った方が良さそうだ」


 結論が出たので、俺は立ち上がる。

 やはり、フランに相談したのは正解だった。

 有能な助手が居ると、次の行動がすぐに見つかって助かるなあ。


「それじゃあ、早速二人で行ってみるか」

「え?」


 フランがピタリと止まり、目を丸める。


「どうした?」

「まさか、誘われるとは思って居なかったので」

「ここで一緒に来るなとは言えないだろ」

「それはそうですけど……良いんですか?」


 その質問に首を傾げる。


「その……勇者ハーレムと仲良くなって」


 それを聞いて、頭を掻いて視線を逸らす。


「良くは無いけど、どうせ付いて来るだろ?」

「はい。付いて行きます」


 言った後、フランが恥ずかしそうに笑う。

 そんなに嬉しそうに笑わないでくれ。

 仲良くしてはいけないと分かっていても、俺も嬉しくなってしまうから。


「それじゃあ、行くか」

「はい!」


 返事をして腕に飛びついて来るフラン。

 俺はそれを素早く躱し、少し不機嫌になったフランを笑いながら部屋を出た。

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