第85話 勝手にネクロミノコン渡してごめん

 シスター、ティナの力によって、魔物軍を撤退させて数日。

 あの騒動により『ミツクニは最狂の愛の化身を宿している』などと言う噂が広がり、魔物軍が攻めて来なくなった。

 こちらとしては、余計な戦いをしなくて済むのでありがたいが、世界全体の評価は下がり、悩ましい展開となって居る。

 とは言え、世界が平和であればそれで良いと思い、当初の目的であった予言の真実を見つける為に行動を再開した。



 遺跡の中央にある動力部へと足を運ぶ。

 自動ドアを開けて中に入ると、荷物持ちにされている魔物数人と、それらに指示を出して居るフランの姿が見える。

 俺がフランに近付くと、フランが俺に気付いてニヤリと笑い、中央にある∞の光に視線を戻した。


「おつかれ、フラン。調子はどうだ?」

「はーい。順調でーす」


 フランはこちらを見ないまま、持っていた電子ノートに何かを書き続ける。


「所でミツクニさん。愛の化身を手に入れたというのは本当ですか?」

「いきなりだなあ」

「皆がそう言っていました」

「手に入れて居ない。知り合いのシスターがちょっと暴走しただけだ」

「ああ、あの人ですか。皆も怖がって居ましたよ」


 書く手を止めて、フランが歩き出す。


「あのシスター。ただ者ではありませんね」

「そうなのか?」

「はい。魔力量が常人とは桁違いです」

「フランはそう言うのが分かるのか」

「ええ。私が作った戦闘力を計るスカウター……」

「はいそこまで!」


 大声でフランの言葉を遮る。

 フランはこちらを見て笑った後、遺跡のコントロールパネルの前で立ち止まった。


「何にせよ、おかげで魔物達も攻めて来ないし、良かったじゃないですか」

「いやあ、半々かな。そのせいで、皆から冷たい目で見られて居るし」

「私としては、その方が都合が良いです」

「何で都合が良いんだよ」

「それは勿論、ミツクニハーレムの一角として、ライバルは少ない方が……」

「否! そんなハーレムは存在しない!」


 再びフランの言葉を遮る。

 存在するのは勇者ハーレムだけ。

 親友役が勇者ハーレムと仲良くしたら、世界がどうなるか分からないと、何度も言ったはずだ。


「別に良いじゃないですか。私が勝手にそう思っているだけですから」

「良くないんだよ。世界が滅ぶかも知れないんだぞ?」

「そうですか? でも、既に結構な規模になってると思うんですが」

「そうなの!?」

「ええ。だって、私でしょ。それと、シオリさんにエリスさん。最近はザキさんやサラさんも怪しいですし……」


 嬉しい誤算に思わずニヤけてしまう。

 だがしかし! 世界の運命が掛かっているのだ!

 素直に喜んでは居られないぞ!?


「……ど、どうしよう。何とかして評判を下げるか?」

「例えば何をするんですか」

「そうだな……意味も無く偉そうにするとか」

「それじゃあ、試しにやってみてください」


 突然の無茶ぶりに困惑する。

 しかし、それで評判が下がるのならと思い、試しにやってみる事にした。


「俺様の言う事を聞きな!」

「小学生以下ですね」

「ぐはっ!」


 ミツクニに三のダメージ。


「だ、黙って俺に付いて来い!」

「はい。分かりました」

「素直!?」


 ミツクニに二のダメージ。


「お前等の事なんて何とも思ってねえし!」

「嘘なのが見え見えです」

「らばっ!!」


 ミツクニに七のダメージ。

 ミツクニは今にも倒れそうだ!


「くっ! これ以上は思い浮かばない!」

「それ以前に、ミツクニさんにとっての偉そうって、恋愛で俺様的な行動をする事なんですね」

「痛い所を突かれた!」

「まさにキモオタらしい発想です」


 止めを刺されてその場に倒れる。

 もう駄目だ。

 俺はこれ以上頑張れません。


「ごめんなさい……キモオタに生まれて、本当にごめんなさい」

「大丈夫ですか?」

「……ああ、大丈夫。現実を噛み締めて居るだけだから」

「成程。では、寝てないで起きて下さい」

「寝かせてくれよ。もう俺には、世界を救う事なんて出来ないのだから」

「分かりました。それじゃあ、私も一緒に寝ます」


 それを聞いて、素早く立ち上がる。


「よし、冗談はこれくらいにしておこう」

「ですね。そろそろ本題に入りたいですし」


 素直に同意して∞の光を見上げる。

 本題。

 それは、この遺跡の復旧について。

 俺がここに来たのも、それをフランに相談されたからだ。


「それで、どういう状況なんだっけ?」


 改めて聞くと、フランがノートを開く。


「ミツクニさんに言われて、ミリィと動力部の修復を始めたんですが、構造が人間魔法技術だけではなく、魔物魔法技術も使われているようで、これを解決するには、魔物魔法知識を持つ人材と、動力部内部の構造を探る為の人材が……」

「すまん。簡潔に頼む」

「要は人材不足という事です」


 ああ、分かり安くて凄く助かります。


「それで、どういう人材が必要なんだ?」

「そうですねえ。取りあえず、魔物魔法に詳しい人が必要なのですが……」

「ミツクニさーん」


 話の途中に割って入る女子の声。

 振り向いた先に居たのは、魔物の魔法使い。ネクロマンサーのネクロ=ネイター。


「暇だったんで遊びに来ましたー」

「よーし。ご都合展開いらっしゃい」

「いやあ、世の中って便利に出来てますね」


 フランと二人で大きく頷く。


「何にせよ、一つ目の問題は解決だな」

「そのようですね」

「え? え? 一体何の話ですか?」


 楽しそうな表情で首を傾げているネクロ。

 この後フランに馬車馬のように働かされるというのに……


「それで、二つ目の問題は?」

「内部構造の把握です。未知の機械なので、迂闊に解体すると、破壊してしまう可能性もありますので……」

「それよりも! 聞いてくださいよ!」


 再び話に割って入るネクロ。

 さて、今度はどんなご都合展開かな?


「私! 新しい魔法を使えるようになりました!」

「ほう、それは一体どんな魔法だい?」

「使役魔法です!」

「よーし。俺はもうこの後の展開が分かってしまったぞ」

「見て居て下さいね!」


 そう言うと、ネクロが何やら魔法を唱え始める。

 地面に描かれていく魔法陣。

 全ての魔法陣が描かれて、ネクロが呪文を唱えると、魔法陣の中央から見覚えのある女性が現れた。


「うわあ! またですかぁ!?」


 驚きの声と共に、こちらを見る女子。

 そして、俺を見た瞬間に目を輝かせた。


「あ!? ミツクニさんじゃないですか!」


 水色髪の女子が飛び掛って来る。


「ミツクニさん!!!!」


 言葉と同時にクロスチョップ。

 うむ、最初に会った時と同じ展開ですね。


「ミツクニさん! ミツクニさん! ミツクニさーん!」

「はしゃぐな!」

「だって! 寂しかったんですよー!」


 水色髪の女子がチョップを繰り返す。


「魔法学園に行っても誰も触れないし! 紹介されたフランって子は、人体実験ばっかりしようとするし……!」


 言葉の途中で、横に居るフランに気付く。


「な、何で彼女がここに居るんですか!?」

「何でって、お前も魔法学園に居たんだから、知って居るだろ?」

「知りませんよ! そこのネクロマンサーに召喚されたせいで! 迷子になって居たんですから!」


 なるほど。そう言う事か。

 ただでさえ俺以外には触れられないというのに……本当に可哀相な子だ。

 何はともあれ……


「フラン」

「ええ、これで二つ目の問題も解決ですね」


 水色髪の幽霊、ノイン=メイティア。

 彼女が居れば、機械を解体しなくても、内部の構造を調べられるだろう。


「それで、後は何が必要なんだ?」

「そうですねえ。後はエルフの知識と精霊魔法に詳しい人が必要なんですが、既にエミリアとポラリスに連絡を取って居るので、問題はありません」


 フランがノートをしまう。


「問題は全て解決されました」


 エルフのエミリア=ウッドに、精霊王の孫であるポラリス。

 遺跡の修理に必要な人材は、結局全員勇者ハーレムだったと言う事か。


「いやー。世の中って便利に出来てるなあ」

「そうですねえ」


 フランと顔を合わせて苦笑いを見せる。

 最近は本当にご都合展開が多いなあ。

 それとも、これこそが勇者ハーレムというシステムなのだろうか。


(……待てよ)


 軽い気持ちで考えた事が、強く印象に残る。

 つまり、勇者ハーレムとはそういうものなのか?


(いや……全ては偶然だ)


 首を横に振り、浮かんだ推測を振り払う。

 まるで運命とも言える、勇者ハーレムとの再会。

 そんな決められて居たかのような巡り合わせを、俺は絶対に信じない。


(自分の道は、自分で切り開く……)


 決められた事など何も無い。

 どんな状況だって、自分が行動する事により、初めて道が開かれるのだ。


「あ、あのお……」


 そんな事を思っていた俺に、ネクロが声を掛けて来る。


「ミツクニさんに貸したネクロミノコン、そろそろ返して欲しいんですけど……」


 ……あ、ヤバい。

 忘れた事に居た件が、ここに来て浮上して来た。


「ええと……貸した?」

「え?」


 とても苦しい言い訳。

 しかし、押し通す!


「ごめん! 人に貸した!」

「ええー!」

「悪いとは思ってる! でも、どうしてもその人に貸す必要があったんだ!」

「そ、そうなんですか? まあ、今は使う予定が無いから良いですけど……」

「本当に申し訳無い!」


 最低だな俺。

 だけど、本当にごめんなさい。

 この戦争が終わったら必ず返すから、今はそれで勘弁してください。

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