●シーン25● ステージ上の推理 後編

「ミナミコアリクイ! いい着眼点だわ! それよ! 『絵』よ!」


 いたじゃない。「一瞬を残す」ために「きれいな景色」を見つめて絵を描いているフレンズが。


「今日図書館のほうへ行こうとしたら、セルリアンが出ているらしくて、途中から進むことが出来なかった。そのときに桟橋で通行止めをしていたフレンズがいたの」


 会場にも彼女に出会ったフレンズがいたのか、何人かがうなずいている。


「その子は絵を描くことによって、『一瞬』を紙の上に残していた。そしてこの『みずべちほー』のきれいな景色をよく見ながら描いていたわ。そのフレンズの目の色――それが答えよ!」


 アミメキリンはヒントをくれたミナミコアリクイに目配せをする。彼女は照れくさそうに両手を掲げた。


「その子はターパン。目の色は鮮やかな青色だったわ。ひとつ目の暗号の答えは『青』!」


 ターパンが野性解放しかけたときの瞳は、とても印象に残っていた。

 会場からは歓声が上がった。舞台袖ではダチョウが嬉しそうに両手をパチパチと叩いている。


「ふふっ、こんなものよ! さあ時間がないわ。次の暗号は――」


〈ふたつめはいきもの。あたたかくおだやかなとちにたどりついたならば、さいしょのにほがかんじん。しっかりとぶんをふみしめたものに、こたえはすがたをあらわす〉


 観客からはため息が漏れる。


「なんかさっきより難しいよー」

「ぶんをふみしめるって、どういう意味だ?」

「あたたかいところかぁ……」


 たしかに、ひとつ目より難問ね。


「これもいくつかにわけて考えてみましょう!」


 キリンは暗号に含まれている要素を並べていった。


 まずは「生き物」を表しているということ。

 暖かく穏やかな土地。

 最初の二歩が肝心。

 文を踏みしめる。


「暖かく穏やかなといったら、やっぱり『りうきうエリア』ですよね」


 そのとき、ある鳥系のフレンズが何気なく口にした。


 彼女の言った「りうきうエリア」とは、この島よりさらに南にある小さな島のエリアである。島の外に関しての情報はあまり広く知られてはおらず、彼女の言葉に首をかしげているフレンズも多くいた。


「あなた、詳しそうね。ええと……」


 キリンが話しかけると、彼女は礼儀正しくお辞儀をして、にっこりと笑った。


「私、リョコウバトと申します。この島だけでなく、いろいろなところを旅して来ましたので、各エリアには詳しいんですよ。ちなみに『りうきうエリア』はまさに穏やかで暖かくて、とても過ごしやすいところでした。皆様もぜひ行ってみて欲しいですね」


 リョコウバトはきれいな青い髪に、整った赤い服を着ていた。上品な笑顔で、周りのフレンズたちに微笑みかけている。


「ありがとう、リョコウバト。でも『りうきうエリア』は『最初の二歩が肝心』なところなのかしら?」


 キリンの問いには、リョコウバトも首をひねる。


「うーん、そこは正直、よくわかりませんね。私は飛んで行きましたし……」


 キリンも含めて会場の皆が考え込んだ。

 最初の二歩――それが肝心、というのはどういう意味だろう?


 うーん、とうなっていると、キリンの視界の隅に激しく動くものが見えた。

 舞台袖で、ダチョウが両手をぶんぶん振っている。


(キリンさーん!)


(なに? どうしたっていうのよ?)


(わかりました! その暗号の意味! キリンさん、「文字」ですよ!)


(どういう意味? ちょっとこっちに来て説明してよ!)


 ダチョウは目を丸くして首を振る。


(それは無理ですって……! とにかく『文字』です。最初の二歩とは、『最初の二文字』ですよ!)


 最初の二文字?

 つまり『りうきうエリア』の最初の『りう』の部分ってことかしら?


 でも答えは「生き物」になるはず……


「みんなちょっといい? 『りう』っていう生き物を知っているフレンズはいない? もしかしたら、とても大切な情報になるかもしれない」


 キリンは思い切って会場へ問いかけてみた。

 しかし、みんなは顔を見合わせたり首を振るだけで、知っている者が名乗り出る気配はない。


「――それは『りう』じゃなくて『りゅう』のことか? だったらいるな」


 そのとき、ダチョウのいる舞台袖とは反対側から、ひとりのフレンズがステージへと躍り出た。


「もっともそれは伝説上の生き物だ。でもたしかにいろんなところで、言い伝えとなって残っているんだよ。しっしっしっし」


 いたずらっぽい笑顔の、とても小柄なフレンズだった。

 グレーの長い髪をおろし、おでこをつるんと露出させている。手がひれのように平べったいところから、どうやらペンギン系のフレンズのようだった。

 そして彼女はラッキービーストを二体、後ろに従えている。


「あ、ジャイアント先輩だー!」


 観客の何人かが彼女に気がついて、呼びかけながら手を振る。「ジャイアント先輩」と呼ばれた彼女も軽く手を振り返した。


「ジャイアント先輩? ええとあなたは――」


「ワタシはジャイアントペンギンっていうんだ。ちょいとマーゲイから仕事を頼まれててな。謎解き中に失礼するよっと」


 キリンの怪訝な眼差しを軽くかわして、彼女はなにやらラッキービーストたちに指示を与えている。


 どこかほかのフレンズとは違う、不思議な雰囲気の子だった。会場の反応からするにそれなりの有名人らしい。それにラッキービーストと会話しているなんて。


「と、とにかくありがとう。『りう』は『りゅう』という伝説上の生き物なのね。これが答えである可能性は高いわ」


 キリンは気を取り直して、先ほどダチョウからもらったヒントで行った「最初の二文字」の推理を会場にも説明した。


「すごいすごい! そんなふうに考えるんだね!」

「わたしも文字、勉強してみようかな」

「これで暗号が出揃ったぞ!」


 キリンは目配せでダチョウに例を伝えた。彼女も嬉しそうにこくんとうなずく。

 ステージの背後ではジャイアントペンギンとラッキービーストたちが、背面の壁に向かって何か作業をしている。二体のラッキービーストは、なにかやりとりをしているのか、互いに目を見合わせてちかちかと点滅していた。


 会場が鎮まるのを待ってから、キリンは話し始める。


「ひとつ目の暗号は『青』で、二つ目の暗号は『りゅう』。これがペパプの居場所に繋がるはずね……」


 北の「知恵の森」。

 東の「大桟橋」。

 西の「きらきら丘」。

 そして南の「ゆきみず街道」。


 そうか。そういうことね。

 キリンは答えの目処が立ち、不敵に笑う。


 ――あの「黒セルリアン事件」で、火山から放出される「サンドスターロウ」をどうやって防いだのか。


 それをかばんから聞いていた私には、すべてお見通しよ。


 なかなか凝った謎解きだったけど、このアミメキリンには敵わなかったわね。


「わかったわ」


 静かに言い放つキリンの言葉に、会場が息を飲む。


「二つの暗号。東西南北、四つの名所。ペパプの居場所――それは――」

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