●シーン13● 「じば」を感じるんだよ
「ボク、占い見るの初めて。わくわくする」
「その『タマゴ』を使うのね。ダチョウってすごいのね!」
キタキツネとギンギツネが興味津々に、金のタマゴを見つめる。
旅館の休憩室には再びフレンズが集まっていた。アミメキリンとダチョウ、それに管理人の二人とカピバラの五人。
オコジョとビントロングは山頂の「ぶんりき」調整に出かけており、帰ってくるまでにはもう少し時間がかかりそうだった。
「そんな、たいそうなものじゃ……コホン。では、参ります」
ダチョウはタマゴに両手をかざし、目を閉じた。皆、息を飲む。
タマゴがゆっくりと光を発して、休憩室をキラキラと照らした。
そうか。ロッジの前では気がつかなかったけど、これはサンドスターの輝きね――キリンは思った。
「あったかい光だねぇ」
カピバラが柔らかな笑みで呟く。
「むむっ! 出ました! ……これは」
ダチョウが目を開き、占いの結果を述べる。
「木で出来た丸い……でも『風呂桶』にしては少し大きいような」
「じゃあ『そり』じゃない?」
キタキツネが言う。
「おそらくそうです。『そり』が滑って……むむっ! ちょうど私たちとキタキツネさんが出会った――もといぶつかったところが見えます!」
「じゃあ『風呂桶』はそこまで飛ばされたのね!」
キリンは勢いづいて立ち上がった。
「的中すればいいのですが……あっ、ちょっと待ってください! ほかにもべつのものが見えます。とても大きくて、丸くて……濃い紫色のものが」
「それ、たぶんセルリアンだよ」
「探しに行くのは、少々危険が伴うみたいね」
キタキツネとギンギツネが懸念を抱いた声で呟いた。
「――ふう。見えたのは、それが最後です」
「でかしたわダチョウ! さすが私の助手ね! 早速行きましょう!」
「でもセルリアンがいるんじゃ危ないよ」
今にも飛び出して行きそうなキリンの腕を、カピバラが掴んだ。
「キリン、気持ちは嬉しいけど、みんなことを危ない目に合わせてまで探すことはないよよよ……。桶は、残念だけどまた新しいのを調達するよよ――」
「ダメです! カピバラさん!」
そのとき休憩室に大きな声が響いて、カピバラの声を遮った。
「あっ、ごめんなさい、急に大声を出してしまって――でも、思い入れのあるものを簡単に諦めて欲しくないんです」
声をあげたのはダチョウだった。
光の収まったタマゴを抱きかかえたまま、真剣な表情で立ち上がっていた。
「私も昔、大事なものをなくしてしまったことがあるので……それに、占いが正しかったかどうか、私自身がたしかめておきたいんです。どうか私のわがままだと思って、最後まで探させてくれませんか?」
カピバラはしばらく困った顔をして、キリンとダチョウを交互に見た。
彼女は結局気圧されてしまったようで、諦めたように笑った。
「二人はすごいねぇ。ボクはどちらかといえばすぐ『まあいっか』って思っちゃうほうだから、尊敬するよよよ――」
キリンとダチョウは顔を見合わせる。
そしてカピバラはいつになく真面目な顔になった。
「もしセルリアンが現れて危なくなったら、すぐ逃げると約束してね?」
●`の'●`の'●`の'●`の'●`の'●`の'●
「占いで出たのは、たぶんこのあたりです」
五人は旅館を出て、斜面のいちばん下まで雪を踏み踏み向かった。
キタキツネは、どうせだったら「そり」に乗って行こうと提案したが、ギンギツネが即座に却下した。これは遊びじゃないのよ。
「そろそろキタキツネが私に衝突したところね――あっ、ほら! 地面に積もった雪が乱れてる。ここよ!」
不自然にえぐれた「そり」の跡は消えておらず、すぐに見つけることができた。
一行はセルリアンの気配に注意しつつ「風呂桶」を探し始めた。
「もしセルリアンが近くにいたら、ボクが知らせるよ」
キタキツネは「じば」というものを感じることで、セルリアンやほかのフレンズの居場所を、多少離れたところからでも突き止めることができるらしい。
「そんな力があるのに、どうして私にぶつかったのよ?」
「うーん、それは『そうさせい』の問題かな。『そり』はまだまだ開発途上だから改善の余地もたくさんあるんだ。『ゆーざー』の声を集めて日々『ばーじょんあっぷ』してるんだよ」
「――キタキツネの使う言葉は、なんだかよくわからないわ」
キリンたちはときおりおしゃべりをしつつ、辺りを捜索していく。
そして、探し始めてからおよそ一時間ほど経とうとしていたときだった。
「よよよ?!」
カピバラが声を上げ、目を凝らして一点を見ていた。鼻をくんくんと小刻みに動かしている。
針葉樹が密集して影になっているところに、なにかが落ちている。
「たぶんあれだよよ! ボクが長年愛用してる『風呂桶』」
「本当ですか?!」
「カピバラが言うのなら間違いないわね。よかった!」
ダチョウとキリンが喜びの声を上げる。
しかし、「風呂桶」の近くまで駆け寄ろうとしたそのとき。
「近づいちゃだめ!」
キタキツネが鋭い声で叫んだ。
「まさか――」
ギンギツネがキタキツネに駆け寄り、その肩を抱いた。
針葉樹の隙間に積もっている雪が、みるみるうちに盛り上がっていく。
まるで沸騰したお湯のように、ぼこぼこと鈍い音が響いた。
「セルリアンだよ!」
雪を突き破って、紫色の球体が次々と現れた。
「あわわ、たくさん出たよよよ……」
「それなりのサイズね……どうしましょう?! これじゃあ取りに行けないわ!」
セルリアンたちは大きな目をぎょろりとキリンに向ける。
数は少なくとも十体。大きさはフレンズの二倍ほどもあった。
それらがあっという間に地面を覆う。
落ちていた「風呂桶」も、一瞬にして見失ってしまった。
「みんな、そのかたちをしたセルリアンは斜面を滑るように動くんだ。だから。坂の上に走れば逃げ切れると思う」
キタキツネが号令をかける。
「もう! すぐそこに目的のものがあるっていうのに!」
後ろ髪を引かれるが、セルリアンたちは群れをなしてこちらに転がってくる。
今はとにかく――逃げるしかない。
皆セルリアンから離れ、必死に雪の斜面を駆け上がった。
雪面に慣れているギンギツネとキタキツネは、まるで雪の上を跳ねるようにして、どんどん高いところへ登っていく。
「すごいですね、ギンギツネさんたち……」
「あっという間にあんなところまで――ふぎゃっ!」
慣れない雪面にキリンとダチョウは何度か足を取られながら、なんとかキツネたちに着いていく。
「あれっ? カピバラはどこ?!」
まずい。逃げるのに必死でカピバラを見失ってしまった。
辺りは真っ白な雪景色。
背後からは不気味な紫色のセルリアン。
「そんな! カピバラさーん!」
ダチョウが声を張り上げて叫ぶ。
まさか、セルリアンに食べられてしまったなんてこと――
「ボクなら大丈夫だよよよー」
一抹の不安が頭をよぎったが、そのときカピバラの声が聞こえた。
同時に、キリンたち二人のすぐ横をものすごい勢いでなにかが通り過ぎて行った。
「えっ?! カピバラ?!」
雪煙を上げて過ぎ去っていったそれは、たしかにカピバラだった。
「二人とも遅いよよよ」
カピバラは深い雪をぐいぐい掘り進んでいる。
彼女はくるりと方向転換しこちらに戻ってきたと思えば、キリンとダチョウの下に潜り込み、あっという間に二人を背中に乗せた。
「きゃあああっ!」
「二人とも、掴まっててねねねっ」
カピバラは再び雪を巻き上げつつ、斜面を登っていく。セルリアンとの距離がどんどん離れていく。
「カピバラさん、失礼ですけど……こんなに早く動けたんですね。しかも雪の中を……」
カピバラの背中にしがみついたまま、ダチョウが言う。
キリンも驚きを隠せず、唖然としていた。
「ボク、意外と早く走れるんだよよ。それにもともと水中が好きで、水を掻く動物だったから、柔らかい雪の中ならどんどん進めるよ。寒いからいつもはやらないけどねぇ」
「温泉に浸かっている姿からは、想像もつかないわね……」
二人を乗せた「カピバラ号」は、あっという間に坂の上に到着する。
彼女のおかげで、先に到着していたギンギツネたちにもなんとか追いついた。
「ここまでくれば大丈夫かしら……」
ギンギツネが斜面を見下ろし、状況を確認する。
一見、セルリアンたちをまくことができたように思えた。しかし――
「うわあああ……」
キタキツネが悲痛な声を出す。
「ちょっと! どうしたっていうのよ?」
「ギンギツネ……まずいよ。セルリアンが」
キタキツネは「じば」で、セルリアンの場所を感知していた。両手で頭を抱えて、絶望をにじませて顔で言った。
「雪の中を掘ってこっちに来る」
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